小雨

『ヒカルお姉ちゃんとわたし』
小雨はあまり
人に言える上手なことが何もなくて
それなのに、もしできるのなら人並みに
ふつうに
大好きな人のために少し役に立てるようにと──
いつも守ってくれているお兄ちゃんたちを今度は助けてあげられたり
そんなうれしいことがあったらな、
願うだけの毎日。
実際には、失敗ばかりして
まだ小さい小雨だからと
かばってもらうだけの……
いつも子供の小雨です。
でもね。
もうちょっとむかしは
それでも成長して
まあまあ手足が伸びた頃には
ヒカルお姉ちゃんほどではなくても
運動もできて
すぐ泣いたりせず
笑顔が似合うさわやかな女の子になっていると
なぜか信じていたはずなんです。
ただ単に
姉妹だからという
たったひとつ、それだけの理由で──
もしかしたらもうひとつ
憧れているから
きっと近づけるという
根拠のない思い込みもあって。
たまに
年に一回くらい
大人になって、そこそこ立派な小雨の夢を見て
目が覚めたときに
なーんだ夢か、とさみしいような
いい夢だけでうれしいような
そんな気持ちになったときもありました。
いつから
見なくなったのかな?
だいいち、考えてみれば
もともとしっかりしているヒカルお姉ちゃんは
かっこよくなれてよかった、
なんて夢を見て喜んでいたりはしないですよね……
このごろ小雨は
目が覚めると
いつも小雨を守ってくれる優しいお兄ちゃんは
本当はいなくって
ああ夢だったんだ、
そうだよね
小雨には幸せすぎる夢だったな、
ちょっと
現実的ではなかったな、
泣きながら目を覚ますときがあります。
それがみんなといる暖かい広いお部屋のうたたねだったら
涙を流している小雨を心配して
お兄ちゃんがいてくれることも
あったりして
夢じゃなかったんだ!
心臓が止まりそうになるほど驚いてしまうの。
失礼ですよね。
お兄ちゃんを見て心臓が止まってしまったら。
ただちょっとうれしすぎただけなのに
たぶんお兄ちゃんはそんなことになったらショックだろうと思うので
なんとかびっくりしすぎないように努力をします。
なんていうお話を
たまたま最近、ヒカルお姉ちゃんとしていたら
なんと同じ夢を──
お兄ちゃんがいるのは幸せすぎる夢だったような夢を見ることもあるそうです。
何もかも違うヒカルお姉ちゃんと小雨がどうして?
同じように
お兄ちゃんがいなくなることを少しでも考えたら
怖いからなのでしょうか。
小雨は、お兄ちゃんはたぶんヒカルお姉ちゃんみたいな
すてきな人をいつか選ぶんだろうとぼんやり考えているんだけど
ヒカルお姉ちゃんは、お兄ちゃんは誰よりも心の優しい人と
幸せになるんだろうって考えていたみたいなんです。
だから
いつか
どうしても選んでもらえない自分は──
同じ不安を持っていた
思わぬ共通点があったのです。
ここ何日か
お風呂が壊れてしまったために、お外のお風呂で裸の付き合いをする機会が多くて
ふだんできない話をするくらい
心が近づいていたのかな。
うれしはずかし
打ち明けあう心のうちでした。
でも、そうして話し合っているうちに
ふたりで気がついてしまったことは
心の優しい人にこそ
憧れの王子様が現れるのだとしたら
誰よりもまず、お兄ちゃんのところに王子様が現れて
さらっていってしまいそうです。
お兄ちゃんに守られてばっかりの小雨が、そのときは一瞬でも勇気を出して強くなって
私たちの大切なお兄ちゃんを
そうしたいというだけで
守り抜くことができるでしょうか。
さらわれてしまわないでください、
ここにいてくださいと
体を張って伝える力があるなら
それはもう、そうとうたくましい小雨になってしまっているのだから
いつかお兄ちゃんが誰かひとりを選ぶときが来ても
さみしがるだけではなく
小雨はここにいます、
一緒にいてもらえるなら
必ず後悔はさせない
一緒にずっと幸せでいられますって
言えるようになるのかなあ……
ヒカルお姉ちゃんだったら
はっきりそう言える気がするの。
小雨にはものすごくとてつもない
人類の歴史がはじまって以来の最大の奇跡でも起こらないと
ちょっとできないです。
うーん
やっぱり、同じようでどこかがまったく違う
私たち姉妹なんでしょうか。
あんまりかっこいい想像図の小雨も落ち着かないです。
なんだか安心する小雨でした。