『ごっこ』
女の子らしさを伝える趣味は
踊りにお料理にお裁縫。
あまりうちでは、お茶やお琴を習っている子はいなくて
お花の趣味といっても土いじりのガーデニングだから
あまり優雅で落ち着いた印象ではなく、肉体労働に寄りがち。
汗を流して
炎天に耐えて
きれいに花を咲かせてくれたらうれしい。
願いながら
いつもうまくいくとは限らない
誰でも上手にできる人なんていない、命を相手の真剣勝負。
ただ、すくすく伸びるよう手を貸してあげたいだけの祈りに
帽子も服も汚してかまわないっていうんだから
あまり良縁のアピールできるとは言えないわ。
だから、マリーちゃんが提案したお見合いごっこも
小さい子を中心にして、勢いだけで進めていたので
品のあるふりをするのが
たいして上手でもない。
途中からすっかりわけがわからなくなって
折り紙のお花や
おゆうぎの踊り、
なんでも残さず食べられるとその場は本気で約束して
やっぱり、ここにいる子達は誰もお見合いを実際に見たことがないから?
という話になるの。
好き嫌いがなくなったら結婚する約束をした場合、
本物のお見合いでも実際に嫌いなものを後で食べられたら
それは縁あって結ばれるロマンティックな二人──
で、いいのかな?
何かと疑問は尽きないの。
でも、家族に男の人がいてよかったと思うことはあんまりないけど
こういう遊びを小さい子はよくしているから
ヒカル姉さまだけではどうも盛り上がりきらないみたいで
途中で飽きてしまうと
気まぐれな子の相手は、お庭の花が誰の思い通りにならないのと比べても
もう少し大変なところが多いから。
楽しそうに夢中になって遊んでくれるなら助かるわ。
そもそもこんな遊びが本当に子供に必要なのかどうかそれはわからないけれど
やりたいって言うんなら
乱暴して危険なわけでもないし
男の子みたいな趣味でちょっとどうかって言われることもないし。
まあ言われてもするんだけど。
人の趣味はそれぞれだものね。
家族なら、まあお互い尊重しながらね。
ランドリーに誰が謎めいた黒い下着を残していって
立夏ちゃんが興奮して暴れたとしても
私が干渉しなければならない理由はない。
廊下をあんなにどたどた激しい音を立てながら走り回るエネルギー。
ざっとからぶきした後のつるつるした廊下を
なんのためらいもなく走り抜ける勇気につながる熱い力が
たぶん立夏ちゃんにもあるんでしょう。
お見合いごっこにもあるかもしれない……
お裁縫にもあるかもしれない。
ホタ姉さまの部屋は毛布いらずの熱気が
どんどん増している真っ最中だって
氷柱姉さまも言ってることだし。
少し寒くなってきた時期にも関わらず
何が起こっているのだろう?
もしかしたら、景色を眺めながら食事を楽しめる観光列車や
豪華寝台列車がもうすぐ開通するのかもしれない。
家の中だって、そういうことがあってもいいわよね。
お見合いが苦手な子たちが思う存分ごっこ遊びを堪能した後は
なんとなくイメージだけを優先した意見で
私が将来はお見合いを経て結婚しそうと言われて
勢い任せで若い二人だけにさせられる事態もあったけど。
まあ、もっと若い子たちが離れて見ていたんだけど
結局のところは誰も詳しくないのは変わらない。
趣味の話をして
お仕事の話はまだなので
将来、そうなったあとのようなふりをした思いつきの会話。
趣味と同じ場所の仕事でがんばっているんですね!
大変なことはないですか……?
ですって。
ないけど?
男の人って、変な質問をするのね。
いつまでも定まらないまま続けるこれから先の話は
仕事もプライベートもどんどん何もレールが敷かれていない方向へ加速していって
結局今日もまた、あなたがちゃっかり入り込んでいる列車にみんなが乗って走る未来。
新婚カップルの片方か
年を重ねた夫婦の旅か
死ぬときもともにと誓い合った仲良しのお友達と歩くのか
それとも車掌の隣でしっかりサポートしてくれるのか
最期までどこにいるのかわからないまま
虹子が苦手なピーマンを克服したから
お見合いは成立。
おめでとう。末永くお幸せに。
明日はこんな何がなんだかわからない時間の過ごし方より
もう少し普通に刺激的で、実のある遊びができたらいいわね。
私のお部屋の模型たちは、気難しい子もいるけどみんな優しくてしっかりしているから
わがままな子たちを笑顔にさせるお仕事だって
少しくらいなら協力してくれると思います。