小雨

『エメラルドの都』
今日は、元気なチビちゃんたちに
麗ちゃんがとっておきの電車のおもちゃを貸してあげて
傷つけないように!
やさしく!
こんなふうに、いつも一生懸命生きている子たちには
大人からはそう見えなくたって
みんな命があるんだから!
という紹介をしてあげていても
どうも使い方のレクチャーがあんまり長かったらしくて
みんなが途中から小雨のほうにやって来て
ええーっ、麗ちゃんがあんなにがんばって説明しているところなのに
どうしよう、どうしようと思いながら
なんにもできないでいるうちに
麗ちゃんは片づけを終えてどこかに行っちゃった……
こんな小雨は仕方のない子です……
落ち込んでいるあいだに
さくらちゃんもにじちゃんも、絵本を読んでくださいと
小雨の周りに積み上げるので
そのままぼうっとしていられないくらい忙しくなって
もう必死で読み聞かせをしてあげなくてはいけなかったのは
落ち込みやすい小雨が、またまわりに心配されるくらい暗くならなくて済んで
そこはよかったところなのかなあ?
後で聞いたら、麗ちゃんも大体こうなりそうって予想はしていたみたいで
そんなに悲しい話でもなかったみたいだし
よかった。
まいにちまいにち元気いっぱいな子供たちに
小雨はいつも助けてもらっているみたいです。
何のお返しもできないままだけど
せめて今日は。
ねだられるまま何にもわけがわからなくなりつつも
なるべくいっぱい読んであげたから、楽しんでくれたらよかったです。
途中で話が混ざってしまって
くじらのおなかの中で小人につつかれたピノキオが
靴を三回鳴らしたらお兄ちゃんが助けに来るの……
おじいさんは!?
もう、つじつまを合わせようにもどうにもならなくて
小雨が動揺しているうちに
小さい子たちはなんとなく納得したみたいで
くじらのおなかに
どうやって行くの?
小人の国は?
エメラルドってどこで見れるのかな?
ううーん。
ちょっとくらいはためになることを言ってあげたいのに
小雨はどうしても
自分も一度も行ったことがないからわからない……
としか言えなかったんです。
昔見た映画では虹を越えていくような歌が……
でも虹のところまで行くにしても
手の届く距離にあるのは、じょうろの水で作る小さいのがせいいっぱいで
それだっていくら追いかけても触れないでしょう?
虹の橋は渡れないのかな……
でも小さい子たちなら
元気いっぱいだし、これからできないこともなさそうだし
小雨も全然わからないから
いつかエメラルドの国に行くときがあったら
一緒に連れて行ってね?
お願いするくらいしか
できることはありませんでした。
本を読むくらいしか能がないのに
こういうときにも何にも特別なことができない小雨で
いいのかしら?
だめでしょうか?
海晴お姉ちゃんがそんなふうにしているところに来てくれて
読み物が好きで
好奇心いっぱいのちっちゃい子たちが
いつか本を好きになるんじゃないか!
昔の小雨ちゃんを見ているようだと
小雨だと
こんな小雨にもこんな昔があったのだと
すごーくさりげなく
ふつうに教えてくれたものだから
小雨はもう
そ、
そんなことがあったのー!?
ひっくりかえるくらいのびっくりです。
今年になって一番おどろいたかも……
あ、立夏ちゃんにはいつも驚かされているからそうでもない?
でも。
絵本をおねだりして
ぐいぐい膝に乗ってくる子たちみたいに
小さい頃に小雨もこんな
向かうところ敵なし!
みたいな感じで
ぜんぜん迷うことなく走っていって
絵本を読んでくれるまで動かない!
何の妥協もしない!
みたいな頃があったのかなあ……
もうびっくりしてくらくらして
クラッカーみたいにいつもの小雨が吹き飛んで頭が真っ白になっていると
海晴お姉ちゃんは、何にも動揺もしていないままで笑って
今も小雨ちゃんは変わってないみたいだよ、って言うの……
本当なの?
お兄ちゃんは昔の赤ちゃんだった頃の小雨を知らないですよね。
もしかしたら……
海晴お姉ちゃんのお話を疑うっていう
そんな大それたことはぜんぜん考えてもいないし
実際そうだったんだろうなあって思うけど。
でも、ぜんぶ本当だと信じていても
お兄ちゃんが小雨がぼんやり座っている前にあらわれて
いつも怖がりの小雨を思ってくれる優しい声でそっと
まちがいないんだって教えてくれたら
こんなに頭がふらふらしないで、安心できたかもしれないのに。
なんて、言ってもどうなるものでもないですよね。
小雨は自分で
そんなことがあったっけ?
そんなことがあったっけ……って
なんとか自分で真実を受け入れるまでがんばるので
お兄ちゃんは小雨がふらふらしていても心配しないでください!
たぶん一晩考えたら
落ち着くか……
落ち着かないかのどちらかだから……