『迷いの森』
近づいた台風の影響で
もうじき私たちの町でも、明日くらいからは雨が降り始めて
何日か続くかもしれないお天気予報。
海晴お姉ちゃんがテレビで真剣な顔を見せる大きな台風です。
このあたりにはあまり大きな影響がないといいですね……
念のために、今日と明日は降り出す前に
早めにお買い物を済ませておきましょうということで
蛍ちゃんと話し合って必要な分をそろえる計画を進めます。
そこに参加してきた立夏ちゃんや小雨ちゃんのリクエストも聞きながら
メモを重ねて、おでこを付き合わせて
熱中していたら見えないところでメモが風に飛ばされていたり。
通りがかりに拾ってくれたヒカルちゃんもびっくりしていたけれど
中には立夏ちゃんのお願いや
春風のちょっとした希望なんかも
文字になって目に見える形で残ってしまったの。
ほぼ無理だろうってあきらめていることまでいろいろ。
ヒカルちゃんはいいよね!
体を鍛えるときに王子様と良く二人っきりになるんでしょう?
春風は置いていかれてしまうんだもの……
せめて帰ってきたときに春風のできること。
力をつけてもらえるように
焼肉の予定くらい
想像したっていいと思います!
予算オーバーなんだけど。
計画豹の作成はさくさく進み
こんなに順調に行くのが夏休みの予定だったなら
今年だってもう少しいっぱい思い出を作れたかもしれないのにな!
でも、慣れないうちに夏休みの計画を立てた経験があったから
今回はスムーズに行ったのかな?
もしも春風たちがすごいスピードで成長しているんだとしたら
残りも一週間になった夏休みに、まだまだ楽しいことがいっぱいできるかもしれない!
立夏ちゃんと小雨ちゃんが協力してくれたおかげだから
二人だって成長しているのかもしれないし
力を合わせてもっと望んだことができるかもしれない!
まだ二学期が始まるまでに特別な出来事があって
大人の階段をわずかにもう少し先まで昇ってしまう子がいたらどうしよう?
もしも一足先に進んでしまう子がいたって
私たちは変わることのない仲良し家族だからね!
変わらぬ愛を誓い合うお昼のリビング。
いつまでもお互いを思って一緒にいられて、ときどきこんな時間を過ごせる夢。
近くで遊んでいたにじちゃんも青空ちゃんも巻き込んで。
もっとたくさんの春風の愛する人たちがここにいてくれたらな!
一生を共にする誓いが
大好きな人と交わせたかもしれないのに。
きっとまたチャンスは訪れますよね。
その後は、お出かけの前にみんなに声をかけて、
何か今のうちに買っておくものがあるかなって聞いて回ると
みんなで花火がしたい子もいるみたいだし
夕凪ちゃんはあと残りの宿題が感想文だけになったのに
どうも面白い本が見つからないから
お勧めを教えてーって話もあるし
うわさによれば商店街の真夏最後の福引で
商品券を狙うのはどうだろうって情報も獲得して
三枚で一回の挑戦ができる福引券、
意外とみんなのお財布に半端に余っていたみたいだし
ついでに10円おとくだったりあちらこちらのお店の割引券も次々に集まってくるの。
これは春風、
夏休みの最後に
やってやれないことはないかもしれませんよ……
そういったわけなので、王子様も
お買い物は今のうちに済ませておいたら
落ち着かないお天気が続く毎日でも
夏の最後の思い出が
思ったよりずっとたくさん作れるような
そんな期待を
春風と一緒にむくむく胸の中からわき出す気持ちに
素直になっていいと思うの。
あなたとなら残り少ない期間の中でも
どこまでだって行けると春風が思っているみたいに
王子様も春風を信じて
限りない夢を見る道のりのお供にしてくれたらいいんだわ。
許されることはどこまでなのだろう。
できないこともあるの。
愛する人が側にいないときはどうしたらいいんだろう。
一番の願いが叶えられる気がしなくて
いつまでも振り向いてもらえないかもしれないと思って迷う春風は
それでも、まるで先の見えない暗がりを抜けて
道をふさぐ茨を引っ張って格闘したあげく
とても進めないと思っていた道を
一歩一歩。
迷っているとしても、同じ場所を回って疲れ果てても
春風は、あなたのことを思いながら
あなたに向かって進むのがうれしいのだから。
この夏の間にもうまもなく
ついに二人の思いが決まる未来だって
絶対にありえないなんてことはない、
と思います。
だったらいいな……
まもなく二学期が見えはじめた八月の終わりにも
まだまだできそうなことがあって
見たことも経験したこともないような新しい何かがあっても
いいのではないだろうか?
春風はそんな気がしたので
みんなが明日を夢見ている時間だって
なんだかワクワクして子供のように眠れないお姉さんなんです。