星花

『森の調べ』
雨が近づく予兆のような
冷たい風が吹きはじめたこんな日には
賑やかなセミたちも夕方より少し早い時間に鳴くのをやめて
いつもならはしゃいだ後でときどき泣いちゃうあーちゃんだって
気持ちよく目を閉じて、すうすう静かな眠りの中。
蒸し暑い部屋にも、どうやらしばらくはさよなら。
夏休みがもうすぐ終わるまでには
またセミの声を探しにお庭へ飛び出していく日もあるのかな?
数日の雨の予報のあとは、まだ誰にもわからない。
そろそろ涼しくなるのかもしれないし
真夏の暑さがまだまだ居座るのかも。
いったいどうなるのかと思っていた猛暑の毎日が過ぎたら
このままへばってしまうのか心配だったお庭の花たちも
どうにか夏を越せそうな気分で、今日はゆっくりと湿った風にそよいでいるみたい。
黄色とピンクの花が踊っているのを見つめて
夏休み最後の盆踊りのお祭りに思いを馳せていたら
私たちもやっと厳しかった季節を終えて
誰も体を壊さないで乗り越えられそう。
きょうだい20人。
お疲れ様の夏でした。
一生を誓い合ったわけじゃないけれど
具合の悪い子がいたら悲しいよ?
誓うまでもなく絆で結ばれている気もする
暑い夏の隙間の一日。
でも、もしも結ばれているのがわかっているとしても
ちゃんと言葉に出してお互いを大事にしていると
熱く燃え上がる気持ちをぶつけても
かまわないはずなのに、と
めらめら揺れる胸の中のおかげで
夏場には少し体温が上がりすぎる原因かもしれない気持ち。
お兄ちゃんと夕凪ちゃんと手をつないで遊びに出かけて
くっついたり、くすぐられたりしているうちに
涼しい風の中でも汗が流れてくるのは
好きで好きで
一緒にいるのに夢中になって
盛り上がってしまうのを止められないから。
はしゃいではねてたら
星花は手の中が汗でどろどろ。
気がついたら全身びっしょり
まんべんなく濡れてしまったよう。
涼しい日のはずだったのになー!
星花と夕凪ちゃんは、お兄ちゃんに遊んでもらうのが好き。
夏休みはいつだって遊びに行けるんだから
今日一日でこんなに汗だくにならなくたって
もうちょっと余裕を持って毎日ゆっくり過ごしたっていいのにね?
それでも、わかっていてもいつも体力の限界までぶつかるの。
小さい子みたいでまったく手加減できないのはなぜ?
星花と夕凪ちゃんは疑問でいっぱい。
吹雪ちゃんに聞いたって、氷柱お姉ちゃんだって
どうやらそれは調べるまでわからない謎。
はたして自由研究のテーマにできるでしょうか?
今年の分の宿題は済んだので
はるかな遠い来年の第一候補にとっておきます。
雨雲を運ぶ風が通り抜けていくと
ほんのちょっぴりの心細さ。
まるで夕方が来たようで
早く帰らないと落ち着かない気がするな?
それはたぶん、夕方みたいな明かりの少ない曇り空と
夜みたいに気温が下がってきたことだけが理由ではなくて
カラスたちがおうちに帰るような寂しそうな歌に聞こえる鳴き声で飛んでいくから。
お空を飛ぶ鳥がいつもより低い軌道で、近くを渡っていく。
降り出す前になるべく早く、と急ぎ足になっているみたいに
星花たちのそばをすれ違っていく隣人たちの姿。
いつまでも元気なセミの声と、衰える様子もない強烈なまぶしい光が
冷たい風の中にいて見つからなかったから
通り過ぎた声は少し不安そう。
急に夏が終わったみたいでびっくりした?
もう暑いから抑えているなんて気持ちにならなくてもいい
燃える心の中。
もともと抑え切れてはいなかったのだけど
もうそろそろいいかな、って
受け取ってもらう相手を急いで探して
心当たりは、やっぱりいつも近くにいる知っている相手なのかなと
鳥が飛んでいく先を見ながら考えたよ。
星花はまだもう少しお外にいたかったから見送った後。
今日はいつもより早く、こおろぎの鳴き声が聞こえて
夏の真っ盛りを乗り越えたみたいな静かで優しい夜が来たら
早めに眠くなりそうな気がしてきたから
急いで帰ってきて
体力が残っていたらお風呂もあるし!
ということに決めました。
お兄ちゃんはまだお体は大丈夫?
夏休みはもう少し。
まだまだ遊び足りない星花にお付き合いお願いします!