真璃

『女王様チェック』
しまもようの灰色をしたくもり空と
ぽつぽつと地面に水玉を残していく通り雨。
こんなにはっきりしないお天気は
女の子の夏にふさわしくないわ!
と思ったものだけど
ニュースで伝える台風の様子を見ると
これは海晴お姉ちゃまもまじめなお顔になるのもわかるわ……
雨の様子を伝えるテレビの人たちも
強いしぶきをお顔に浴びながら風に耐えている。
通りすがりの車が水につかってしまったら
外出なんてしちゃだめよ!
大人しくしていなさいったら!
マリーがぷりぷりしたって声が届かないのはわかっているんだけど。
あんな台風が通り過ぎていくんだもの。
どうにも退屈だー、とか
雨雲が華やかではないなんて言ってる場合じゃないわ。
怖がっちゃってる虹子たちをなだめてあげなきゃいけないのも
年上の大事なお仕事だし
落ち着いて、できることをしないとね。
このあたりはまだ風が出てきたかな、くらいだけど
今度もいつ来るかわからない台風。
防災の準備をもう一度見直しに
氷柱お姉ちゃまをリーダーにして調査のはじまりよ!
いざというときの準備はどう?
雨漏りもなく今のところは大丈夫。
まんがいち、お庭にも風で飛んでいきそうなものがあったら
しまうようにって、一応様子を見に行って。
それに、こないだは非常食の棚にまで何もなかった日があったのよね……
油断しがちね!
夏の暑いお休みに、さすがにゆるんでる?
だんだん毎日の家事も手早く済ませられるくらい慣れてきた蛍お姉ちゃまが
ひなたでぼーんやり、
がしばらく習慣だったものだから
今日は雲を見上げてちょっと暇をもてあましたみたいに
膝を抱えて左右にゆらゆら。
自作の歌もはじまったわ!
マリーたちが戻ってきたことにも気づかないで
ふんふふーん
おやすみホタなのよ
おひまですかー、
だって。
あらま!
蛍お姉ちゃまはかわいいわ!
さっきまで虹子が大雨怖いよーって泣いていたときみたいに
まるまった蛍お姉ちゃまはよしよしってするのにぴったり。
せっかくだから
抱きしめてあげなくちゃ。
突進して行って
一緒になってごろごろ転がったり
お行儀が悪くお部屋で暴れても、ぜんぜんかまわない時間だと思うの。
マリーたち家族には触れ合う時間が大事って
お姉ちゃまたちもいつも言ってるもの。
大雨が近くを通り過ぎて不安になってしまうのは誰でも同じ。
だったら教えてもらったとおりに
マリーがこたえてあげないと!
小さくても立派に防災の確認に回った妹たちに
何ができるのかって見せてあげないといけないもの。
マリーが慎重に蛍お姉ちゃまを狙ってぎゅーってして
ちっちゃい子たちもどしどし飛びついてきて
あぶないーって氷柱お姉ちゃまに怒られたりしても
蛍お姉ちゃま、びっくりしていたけど楽しそうだったもの。
まったくもう……寂しいときに気がついてあげるのは
本当は男の人の役目なのよ。
だから夏休みが終わるまでに、フェルゼンにもう一つ宿題を追加!
もしもマリーがこれから先
突風にさらわれるように思いもよらない嵐に巻き込まれてしまった時
マリーはいつでもフェルゼンを思って
きっとすぐに助けに来てくれると信じて
フェルゼンのことを思うだけで勇気が出るくらいの
頼りがいのある人になった姿を
ちゃんとマリーの前に見せること。
そしてもし、二人をつなぐ運命にいつか本当の危機が訪れて
もうだめかもしれないと迷いそうになる時が
誰の人生にも次々と訪れるのだとしても
マリーとフェルゼンが二人でいることをいつも誇りにして
決して公開しない道を歩めるよう、
マリーがそんな立派なレディになるまで
いつも手をとって導いてくれると約束して
見守っていて。
いつだって忘れないでね。
マリーはいつでもフェルゼンを見つめている女王様。
きっと強くてきれいな大人になるの。
二人でいるのだから
これからどんな運命だって共に乗り越える覚悟はできているわ。
さみしがっていたら迎えに来てね。
そんなメッセージ。
ときどき気が利かなくても
いつでもいい男の
私のフェルゼンへ。