真璃

『毛糸の季節』
おうちのかわいいアイドルのあーちゃんが
今日学んだこと。
それは、毛糸は食べるものではないということ。
さくらが落としたら転がって逃げる毛糸を見つけて
ああっ
あんばー!
今までこんな動きをするものが部屋の中を走ることなんて
一度もなかったと思うけど
何も怖がったり、びっくりもしないで
好奇心旺盛に
すごい速さのはいはいで追いかけて
何かいいものだと思ったのかしら?
いいものだけど。
でも、あーちゃんにはちょっと早いんじゃないかしら?
背伸びしたいおとしごろ?
そうね、
マリーもあーちゃんくらいの年のことは……
あんまり覚えてはいないけれど。
でもやっぱり
新しい世界に生まれおちたばかりの妹が今そうしているように
面白そうなものを探して目をキラキラさせていたんじゃないかな。
だからって
毛糸を壁まで追い詰めて
あんにゃー!
大きくほえて
かみついたりはしなかったはずだけど。
いくらマリーが赤ちゃんのときでも。
それで、みんながびっくりして駆け寄ったら
べえーってよだれをこぼして
平気そうな顔をしてうれしそう。
味はしないと思うけど。
というか、それより
ばっちいでしょ!
もうっ!
赤ちゃんだからって
なんでも口に入れてしまうくせ
どうかと思うわ!
大きくなったら言ってあげなきゃ。
あーちゃんは食べ物を見つけたら
ぱくぱく
ぱくぱく
しじゅうよだれでべっとりの子で
大変だったんだからね!
って。
さすがにもうちょっと大きくなれば、
マリーがやさしく愛情込めて
あーちゃんったら!
恥ずかしいお話で、おしおきしてあげたら
反省するようになるかもしれない。
あんまり考え込まないタイプの
懲りない子になるかもしれない。
お姉ちゃんたちを見ていたら不安もあるけど
でもまあ、
その時期まで待てない今はまだ
見ていてあげなきゃね。
よだれでべっとりの毛糸の玉。
おいしくないってわかってるはずなのに
またつかまえに行く。
食べたらだめよ、
どうするの?
一緒に遊ぶお友達だと思ったのかなあ?
あか
しろ
きいろの
玉が
ころころ
糸、くねくね。
たどっていって
転がしたら
そこはフェルゼンの前。
愛しい人に届けたかったのかな?
いいものみつけた!
って。
実はマリーたちも蛍お姉ちゃまに教わって
かぎあみはじめた
ぶきような糸のかたまり。
もー!
フェルゼンにあげられるようになるのは
いつのことなんだろう、
ユキちゃんとマリーと観月とちびっこたちでぶうぶう
ふくれまくっていたら
あーちゃんすごい!
ぜんぜん上手じゃなくって
何もできなくても
好きな人にあげたい気持ちを
隠さない。
怖がったりしないまま。
届けるものなんだって教えてくれたの。
マリーは……
感動したわ!
というわけで
フェルゼン、このぐちゃぐちゃの毛糸の束はなんだかわかる?
ユキちゃんは最後まで
お兄ちゃんに見せてしまうなんて恥ずかしい、
上手じゃないのに届けてしまうのは申し訳ない、
いろいろ理由をつけて渋っていたけど。
本当の気持ちを
ごまかさないで。
どうしてもあげたい、
好きだって心から言いたくて
今日はがんばったんだから。
ぜったい!
まちがいなく
フェルゼンは、喜んで受け取って
大事に使ってくれるからって
マリーが説得したわ。
もっとフェルゼンを信じなさい!
マリーたちみんなが好きになった人のこと。
いつも家族みんなを愛してくれている人。
だからたぶん、
こんなぐちゃぐちゃの、
でもこれは、
今になって改めて見直すとさすがに、
なんだろう……これ。
でもまあ
これが今のちびっこたちの
せいいっぱい。
寒い日が続いても
暖かく過ごしてほしい
心からの願いを
込めました!
使ってね。
何に使うのかって
それはたぶん……
わからないけど。
でもまあ
これでも確かに毛糸だし、
あったかいとおもうから
気が向いたら、ちょっともふもふしてみるのはどうかしら?