『目と目で』
思い出していたの。
あの激しい日々を。
言葉にして伝えることができないはるかな距離で
お互いを見つめ合った
女王と騎士の二人だった頃を。
だって氷柱お姉ちゃまは
あいさつはしっかり
声を出すのが
元気なしるし!
今日も元気ですって
言葉にしないとわからない!
マリーたちにはっぱをかけるけれど
フェルゼンをつかまえては
肩をゆすぶり、つっついて
してほしいことくらい
遠くからでも目を見ればわかるでしょ!
気をきかせなさい
どんかん!
一方ではそんな無茶なことも言うの。
そうね──
あれは昔
マリーが近くにいてほしくて
でも一緒にいられなくて
革命の嵐が穏やかな日だまりを許さないことはわかっていたのだから
ただ叶えばいいと願っていたのは
それでもお互いを必要としていると
遠くからでも
伝え合うこと。
ただ会いたいと。
許されなくても
永遠に気持ちは変わらないのだと。
でも運命の嵐の果てに
いつのまにかこうして永遠に離れることのない家族となったとき
考えてみると
もし言葉で伝えられる二人なら
ふつうに話したらいちばんいいわよね。
楽しいし
気持ちがなんとなくわかるような気もするし
氷柱お姉ちゃまは
言わなくてもわかりなさいって
とてももったいないことをしているんだわ。
フェルゼンと顔を合わせて
話すことなんて何もない!
ふん!
みたいに言う時もあるし。
チョコレートなんて作らない!
下手だからじゃないからね!
みたいな。
もったいないわ、
せっかくそばにいるから
なんでも利用したらいいのよ。
だからマリーは
フェルゼンに寄り添い
バレンタインにみんながはりきったら
男の人でも一人では食べきれないかもしれないわね、
そんなフェルゼンの力になりたいわ!
正直に伝えるの。
だって
はりきってしまう気持ちもわかるもの。
マリーも、これから開催される予定のおうちお菓子教室に通って
教えてもらう予定なのよ。
楽しそうでしょう。
お菓子を何でも作っていいの!
フェルゼンも来る?
でもマリーはフェルゼンにあげたいものがいっぱいだな。
おかしいわね、
言葉でずっとたくさん伝えようとしているのに
まだ足りなくて
いっぱいあげたいチョコレートや
一緒に食べられたらいいチョコレートが勢いも止まらずいくらでも思い浮かぶなんて!
気持ちを伝え切れていないのだとしたら
ああ、本当は
言葉は悲しいほど無力なのかもしれないわ。
もしも、わかりあう道を他にもたくさん選べるのだとしたら
小さなときに出会った生涯の愛を貫くとき
マリーはとりあえず全部試してから考える
フェルゼンのためのわがままな女王さま、
そんな子に生まれたのは間違いないわね。