果南SS

『私たちのミュージック』
曲作りは今のところ、お嬢様らしくピアノも弾けるダイヤちゃんが担当する。チカのよろこぶこと。
「さすがだね! お嬢様だね! ピアノだね! 愛してる! 結婚しよう! よし結婚した!」
「えっ!? あ、はい」
だんだん慣れてきたらしいお嬢様。
あれ? お嬢様の家の次女の、唯一の得意がお裁縫?
ルビィちゃんを見ると目を逸らす。気にしていることだったみたい、ごめん……
「今日は各自の希望に合わせて、皆さんそれぞれに曲を作ってきました」
「全員分!? すごい! さすが私のお嫁さん! の、だいたい三番目! だね。よし! ちゅうしてやる!」
丁重に押し返すダイヤちゃんの意外な腕力。めげないチカのガッツとどっちが勝つだろう。
「では、まず善子さんの……」
ヨハネの」
「善子さんの」
ヨハネ……あっ! もしかして言いにくいだけ!? だったら略してもいいよ? 愛称でもいいよ! 愛称は……なんだろう? ヨッハー?」
「善子さんのリクエストで」
「んもー!」
「ゴシックなイメージで作ってみました」
楽譜を受け取って目を通す善子ちゃん。
「ふむふむ」
「読めるんですか?」
「もちろん、これでもヨハネ悪魔だもの。サバトで音楽も必要だと思って、少しかじったの」
聞いて、花丸ちゃんが読んでいた本から顔を上げると
サバトで音楽を鳴らすのは、悪魔を呼び出すほうの人間では?」
「もう花丸ちゃんきらい!」
「でも悪魔の楽器といえば、バイオリンがそう呼ばれることもあるかな?」
「そうでしょう!? 花丸ちゃん好き! 一緒に堕天しましょう!」
「私も好き! アイドル活動の仲間になってくれてありがとう! 一緒に学校盛り上げよう!」
右と左と両方からちゅうされてもほほえんで平気そうな花丸ちゃん。
「だからヨハネ、楽譜だっていけるの。ふんふーん」
「え、そのメロディーは違いますが」
「わかってるって。こうでしょ。ぼえー」
ヨハネちゃんまさか……
まあ二次創作のギャグSSの設定だから、たぶんすぐ忘れてもらえると思うよ。
「次はチカさんに用意した分ですね」
「えっ、もう私!? やった! あの輝くμ'sっぽい? 元気な感じ? かわいい感じ?」
「どちらかといえばかわいいでしょうか」
「かわいいって! 果南ちゃん、私かわいいって!」
「あなたがかわいいと言ったわけではありません」
つれないダイヤちゃん。
「うんうん、チカはかわいいよ」
「果南さんが甘やかすのがいけないのかしら?」
まあギャグSSの設定だから。
「はい、私が考えた曲のチカちゃん音頭です」
「違う! こういうのじゃない!」
「チカさんのイメージにぴったりな曲をと、一生懸命考えましたの」
まじめすぎて少しずれてしまうタイプ?
「果南さんは、μ'sみたいに元気になれる曲でしたね。こういうのはどうでしょうか」
「そんなのって果南ちゃんだけずるい! もう嫌い!」
チカに喜んでもらいたくてリクエストした曲のはずなのにどうしてこんなことに……
「やっぱり好き!」
もちろんこうなると思っていたよ。
「ルビィには、嫌いなにんじんが食べられるように、うさぎの格好でにんじんの歌ね」
「これルビィが考えていたアイドル活動と違う!」
「何を言っているの。アイドルには地道な努力の積み重ねが何よりも大切なのよ」
「そうだけど……」
「だからにんじんを食べられるようにする努力は大事なのよ」
「そこで何かが違ってきている気がするよ」
「心配しないで。この曲では私がにんじんの格好をして、歌っている間ずっと隣でサポートしてあげるわ」
まじめさが何かおかしい方向に発揮されてしまうタイプ?
というかそれは、ますますにんじんが怖くなりそうな歌になる気がするけど……
「何か言いましたか?」
「いえ何も!」
勘が鋭いんだね!
「花丸さんは90年代風のディスコミュージックでしたね」
「うん! やったー! オラもこれでフィーバーするぞ!」
「ちょっと待って!? 花丸ちゃんのお寺の娘ってところも聖歌隊ってところも全く関係ないじゃない!?」
のけぞるチカのオーバーアクション。何の疑問もなくそのリクエストで曲を作ってくるダイヤちゃんもすごいけど。
「でも、誰にでもフィーバーしたくなる時くらいあるずら」
「そうだけど……え、いや、そうかなあ?」
「ルビィちゃんだって、小さい頃にぶどうジュースを飲んでフィーバーしたこともあるんだ」
「そんな赤毛のアンみたいな過去があったんだ」
感心するチカをぺちぺちと、恥ずかしいよってルビィちゃんが窓に高速で雑巾がけをするみたいな動きで止めようとする。花丸ちゃんは親友の格闘技術を気にしていないみたいで、話は止まらない。
「そういえば、子供の頃にオラがいじめられたとき、ルビィちゃんがノートをぶつけて戦ってくれたこともあったっけ」
「そんないつもはか弱い花陽ちゃんが凛ちゃんを助けようとするみたいなエピソードが」
そこは赤毛のアンじゃないの?
「マリーさんにも、どんな曲が好みなのか聞いてみたのですけれど」
まだ私たちのアイドル活動への参加が決まっていないマリーちゃん。
「その時の返事では、don't think,feel! ということだったので」
ふーん、それっぽいこと言いそうだね。
「どうやら言葉の元ネタとなっているブルース・リーの雰囲気で曲を作ってみましたわ」
そこは元ネタを意識してほしいという意味ではなかったと思うよ。
「では、ここにひとつ残ったアイドルらしい楽しい歌は、音楽のことはわからないからなんでもいいと言っていた曜さんに」
「うん! ありがとう!」
アイドルグループなのにアイドルらしい歌が最後に残る私たちっていったい。
って、最後じゃないよ。私よりも先にチカが大声を出す。
「梨子ちゃんは?」
「それは梨子さんのお願いで、この場で作ることにしています」
「えっ……梨子ちゃん、それって!」
ふんわり笑う、うれしそうな梨子ちゃんが答えた。
「私たちの歌をみんなで作りたいの」
「梨子ちゃん……よし! そうだよね! みんなの力がひとつになるのがラブライブだよね! 私たちは今、本当にラブライブへと船出するよ! 発進! ……あれ?」
ポーズを決めたチカのあとに、長い沈黙。期待していた曜ちゃんのほうに助けを求める視線を向けると、
「え、何?」
楽譜を熱心に見つめていて、気がつかなかったみたい。アイドルっぽい曲がうれしかったの?
こういうことに控えめな梨子ちゃんは、よくわからないようでおっとりしているから。
あ、私が乗ってあげればいいのか。
「敬礼!」
「遅いよ!?」
うん、眩しい太陽と青い空とチカを見ているだけで幸せだったものだから、つい。
「よーし、それじゃあヨハネだって張り切ってセンターになって、みんなの歌を盛り上げるんだから! ぼえー!」
と立ち上がった善子ちゃんを横から、ゆかり先生が運転席に乗ろうとした時のような感じでちよちゃんが押してどこかへ連れて行ってしまった。まあギャグSSの設定だからすぐ忘れてもらえると思うんだ。
「というか、今のちよちゃんはどこから来たの?」
「そういえば……うちの寺でこの前、迷子になったらしい小さい女の子がいたんだけど、両親が見つからなくて、おうちはって聞くと裏山のほうを指すから、ああそういえばあっちにあるのは確か……」
その話はなんだか怖くなりそうだからやめようか。
「梨子ちゃん、私たちみんなの歌を、みんなで作ろうね!」
「うん!」
廊下のほうで「ヨハネはー!?」の声。ちよちゃんはあんなほうまで連れて行ったみたい。
「後で話を聞くね! なるべく早く帰ってきてねー!」
「っていうかこれ、ヨハネどこに連れて行かれようとしているのー!?」
「ねえ梨子ちゃん、いっぱい曲作ろうね! 今日だけで100曲くらい作ろうね!」
「うん! 私たちなら絶対作れるって信じてる!」
梨子ちゃんもかわいい顔して無茶なこと言うね。
「やろう! 私たちはみんな、μ'sから元気をもらったんだから! 元気があれば何でもできる!」
最後のほうはμ'sというか猪木みたいになってるよ。
それと曜ちゃんはまだ熱心に楽譜を見ているけど、そんなにうれしかったの?
「その意気です、チカさん! ではこれから私が知っている限りの作曲の技術を、すべて叩き込んであげます!」
「え、それはいいや」
「なぜですか! 音楽理論を学ぶことはアイドル活動でも必ず役に立つはずです」
「だ、だってダイヤちゃん何か怖い! チカおうち帰る!」
「そこでμ'sっぽくならなくてもいいです!」
「そんなつもりじゃなかった! 本当に帰りたいです!」
眩しい太陽と青い空と。
「ルビィは、お姉ちゃんがこんなに楽しそうにしているのを見るの久しぶりです」
今日は、幸せそうなのは私一人ではないみたい。
「こわいのー!」
「チカも楽しそうだし」
「楽しいっていうのかなんなのか!」