千歌BDSS

サンシャインは何か面白そうなことが始まったのにまだ情報が少ないことが理由なのかやたらとキャラ妄想をすることが多いのですが、そろそろ千歌ちゃんの誕生日かぁー、いま少し時間があるから何かできるかな? と考えていたらこうなってしまったというか、とにかく少しでもおめでたい日のお祝いになっていたらうれしいです。果南視点のSSです。千歌ちゃん、お誕生日おめでとう!

『夏色エンドレスバースディ』
幼なじみのチカは理由はよくわからないけれど誕生日は楽しいものだという感覚が本能レベルで体内に存在するらしくて、毎年いつも私の誕生日が近づくと何日も前から「もうすぐ果南ちゃんの誕生日だよ! もうすぐ果南ちゃんの誕生日だよ! たのしみだねえー!」と何度も繰り返して、特に前日あたりに興奮がクライマックスになるのか、当日は疲れて眠っていることが多い。そしてなぜか翌日は「果南ちゃんのお誕生日が終わっちゃったね! 楽しかったね!」って言うよ。どういうことだろう? まあチカが楽しかったならそれでいいか!
そんなチカもさすがに自分の誕生日を自分から言い出すのは何か違うような気がするのか、夏休みが始まって善子ちゃんと私たちで遊びに出かけたときには、つい先日、お誕生日を迎えてみんなで用意したケーキのろうそくを吹き消した瞬間に顔をケーキに近づけていた場所でくしゃみをしてクリームの中に顔を突っ込ませた善子ちゃんのことをちらちら見ながら「もうすぐ8月だね! なんの日があるんだっけ? 知ってる!?」って何度も何度も聞いている。ちなみにあの時はろうそくはくしゃみの衝撃で吹き飛ばされていたから善子ちゃんに怪我はなかったよ。でも気をつけてね!
「8月ね。もちろん知っているわよ!」
得意そうな善子ちゃん。
「うんうん」
うれしそうにしっぽをふっているチカに教えてあげている。あのしっぽは服の一部で私が縫ってつけたはずの飾りなんだけどおかしいな?
「8月はオーガスト。つまり聖アウグスティヌスの月ね」
「そうそう! 聖アウグス! え!? 誰!?」
「もちろん、聖アウグスチノ修道会に名前を伝える日本でも有名な人よね。私も堕天する前はよくメッセージを受け取ったものだわ」
「そうなんだー。アウグスティヌスも8月がお誕生日なんだー。おめでとう!」
「いや、誕生日ではなかったような気がするけど」
「そういえば誕生日といえば他にも何かあったような気がするなー」
「私からは誕生日なんて一言も言ってないような……」
このあいだのお祝いのときに、おめでたいことが苦手な悪魔だから普段あんまり誕生日パーティーのようなイベントとは縁がないみたいなことを言ってた善子ちゃんは本当に忘れているみたい。
しかたないなー。私が助けてあげないと。
「そうだよチカ、8月3日は穂乃果ちゃんのお誕生日だよね」
「そう穂乃果ちゃん! お誕生日おめでとう! いや、確かにそれもだけど!」
ぴょんぴょん飛び跳ねているのはもどかしいのか穂乃果ちゃんの誕生日が楽しみなのか遊んでもらえてうれしいだけなのかよくわからないハイペースのジャンプだね。あんまり他では見たことがないから小刻みジャンプの世界でギネス級の記録が出そうなくらいの速度だね。
「なんてね! 8月1日には盛大にお祝いするからね!」
「やったー! うれしい!」
高速すぎるジャンプのペースがさらに加速したよ。この子はいつも記録に挑戦しているのかもしれないね。
「ついたち……チカちゃんが喜ぶような何があるの?」
善子ちゃんが考え込んでしまったよ。
「あのねーあのねーチカねーあのねー聞いてーあのねー」
「そんなに袖を引っ張るのはやめてくれない?」
「ごめんねーそれでねーあのねーえへへー」
「謝りつつもどうして引っ張るのをやめないの?」
それ以上引っ張ると本当に破れちゃうよ!
ビリッ!
そして、ついに破滅の瞬間を迎えた音が鳴り響いた。とどろくヨハネちゃんの悲鳴。
「きゃー! 力を入れた瞬間に、私のズボンのお尻が!」
引っ張られていた袖じゃないの?
「8月1日はチカのお誕生日なんだよ!」
「へーおめでとう」
お尻をかばいつつでうわのそらの返事だよ。もうちょっと優しくしてあげて。
「夏生まれなんだよ!」
「そうね……ちょー夏ね。なにしろ真夏の8月のはじまりの1日だもんね」
「これはもう夏はチカの季節だって気がするでしょ!? なにしろ名前にも夏って入ってるし!」
「うんまあね。あれ!? 入ってないけど!?」
「子供の頃はたまに自分が夏生まれだから間違えて千夏って書いたことがよくあるよ!」
「知らないけど……ところで、同じ月生まれの穂乃果ちゃんはいいの?」
「μ'sに出会った今年からは、夏はチカと穂乃果ちゃんと二人のものだよ!」
「いや、もっと他にもいるでしょう、夏生まれの人くらい。ちょっとは分けてあげなさいよ」
「善子ちゃんが言うならそうするかあ……じゃあ夏のはしっこだけもらうね!」
「そうね、それがいいわね」
チカも素直だなあ。
「夏のはしっこの、だいたいパンの耳のあたりだけもらうね!」
「いいんじゃないの」
もうちょっとよくばってもいいと思うよ?
「パンの耳をもらったら、穂乃果ちゃんと分け合うんだあー! 楽しみー!」
「……なんだかわびしい風景のような気がしてきた……せっかくの誕生日くらい夏をもらっていくつもりでも別にいいわよ」
「いいのか!? やったー! チカお誕生日おめでとー!」
ついに自分で言った。まあ毎年自分で言ってるか。私も言うし。おめでとう!
「誕生日プレゼントもあげなくちゃ」
「そんなそんな! でへへ」
「なんで私の腕を超たたくの?」
きっと照れているんだね。
「きゃー! 叩かれたところに気を取られていたら足がつった! いたたた!」
「チカねー誕生日プレゼントはよく歌をあげるんだけどー。ほら名前に歌って入ってるし。小さい頃は夏生まれで歌が好きだから、よくわからなくなって自分の名前を千歌夏って書いたこともあるし」
たまには善子ちゃんのことを心配してあげてね……でも、私が善子ちゃんの足を見ていてあげるからいいのかな? おめでとう! 足は大丈夫そうだよ。
「歌のプレゼントかー。そうだ、チカ!」
「なに果南ちゃん!」
「あいたたた果南ちゃん足を強く握らないで! あっ、そこはだめ!」
ごめん、つい力が入って。
「今年はサプライズプレゼントにaqoursのみんなから歌とダンスを贈るのはどうだろう!」
「まじで! やったーサプライズだー!」
「果南ちゃん、本人の前で言っちゃったらサプライズじゃないと思うの」
「大丈夫。チカはむずかしい話はすぐ忘れるから」
「うん! なんでも忘れるのは得意だから! よーし忘れるぞー!」
「そこは気合を入れなくてもいいじゃない」
「だからチカ、善子ちゃんがいつも恥ずかしいことになってもすぐに全部忘れるよ!」
「ああそう。でも私がよく恥ずかしいことになっているのは忘れていないのね」
さらにもじもじお尻を隠しているよ。
「善子ちゃんがダンスしている途中で衣装が破れたりサイズが合わなくてポロリしてもすぐ忘れるよ!」
「誕生日のダンスのプレゼントやめようかしら」
「チカの忘れっぽさといったら、部屋の中のどこからだっていつでもカビたお菓子が見つかるくらいだよ」
「あなたのことだから、まさか食べたりしてないでしょうね」
「大丈夫! 見つけるのはお姉ちゃんで、チカが食べようとしてもすぐとりあげるから!」
「部屋の掃除くらい自分ですること! 食べようとするな!」
「お誕生日楽しみだなあー」
「袖を引っ張らない! 飛び跳ねない! ああっ興奮しすぎて鼻血が!?」
もちろん鼻血は善子ちゃんのほうだったけど、チカも落ち着こうね。無理かなあ。じゃあ落ち着かなくてもいいから転ばないように足元には注意しようね。ここで転ぶと善子ちゃんまで道連れにしそうだし。
その後、aqoursのみんなに相談すると
「チカちゃんは私を誘ってくれた友達だもの、喜んでくれるならやります!」
梨子ちゃんにもいい感じで気合が入ったみたいだったり
「ルビィもチカちゃんがいなかったらスクールアイドルなんてできなかったから、チカちゃんのために、が、がんばって、あの、その」
気合を入れすぎて緊張して動けなくなった様子のルビィちゃんを落ち着かせようと花丸ちゃんが一緒に深呼吸してあげたり
「私たちはラブライブの優勝を目指して日々練習が最優先なのですからそんなことをして遊んでいる時間など全くありません」
クールすぎるダイヤちゃんが大迫力で反対したりしているよ。
でも毎日水泳の練習をしている曜ちゃんの意見だと
「目の前の目標として、日時が決まっている発表の場があるからよりいっそう練習に身が入るっていうこともあるよ」
「うん、楽しそうよね」
なぜかメンバーじゃない鞠莉ちゃんも力強く賛成している。一緒に歌ってくれるみたいだからうれしいけど、え、いいの?
「目標に向けての練習ですか……そういうことならわかりました。やりましょう!」
こんなに簡単に説得される子が大きな家を継ぐって大丈夫なのかなって気もするけど、やる気になってくれたらいいか。
「ダイヤちゃんががんばったら、きっとチカだってうれしいと思うよ」
「何もチカさんのためにするのではありません。自分たちの上達にもつながると考えたからですわ」
素直になるのが恥ずかしいのか普通にクールなのかダイヤちゃんはよくわからないけど……
「相手が喜んでくれるかもしれないって思って練習するのは、大変なことがあってもきっと楽しいよね」
「うん! チカうれしい!」
サプライズの相談なのに、なんでチカも普通にいるの?
その後、曲はやっぱりスクールアイドルの歌だからSUNNY DAY SONGがいいかもしれないと、振り付けの確認もかねて9人みんなで映画を見に行ったときもやっぱりチカはついて来たけど、それからは、夏休みの観光シーズンで旅館のお客さんがいっぱいでだんだん忙しくなってきたみたいで、今日もまた、練習に行けないよーってメールをくれる。チカに贈る歌の練習なんだからいいんだけど、やっぱり細かいことを忘れているのかもしれない。抜け出してでも行く! って言ってるから、それは我慢しておくようにって返事はしたよ。チカが大人しくいうことを聞くかわからないけど、来ても現在の練習中は意味ないから……
近いうちに夏休み中、また9人でそろって練習することになるんだけど、その時には旅館のお手伝いも大丈夫になるのかな? もしもまだ忙しいみたいだったら、私たちも旅館の助っ人に行ってチカに時間の余裕を作ってあげられたらいいね。
今日の練習もおしまい。スクールアイドル活動を始めるまでこんなに汗をかいて踊ったことなんてないっていう梨子ちゃんは、疲れた顔にもそれでも体を動かした後のさわやかな笑顔。だけど今日はみんなの真ん中にいつも笑顔のチカがいない分、普段から落ち着いているときみたいに笑顔も控えめに見える。
「いつも私たちの中心で引っ張ってくれているチカちゃんがいないと、なんとなく調子が出ないね」
「うん……はたして中心かどうかとか、引っ張ってくれているかどうかは意見が分かれるかもしれないけどね」
まあチカが一番うるさくて練習中はずっとみんなの注目を集めているのは間違いないかもしれない。
「あれは仲間を前に引っ張るっていうよりでたらめで足を引っ張ってるだけなんじゃないの」
善子ちゃんが冗談っぽく言ったら「あいたた足が!」ってつったみたい。これは、罰が当たったのか今度も単に運が悪いのかどっちなんだろう。
「善子さん、陰口はみっともないですわ」
「陰口じゃないもん! いつも目の前で言ってるんだから! あいたた」
「そういえば言っているところも見たことがありますね。え、それも何か問題のような気もしますけれど……本人が気にしていないみたいだけど、でもそれでいいのでしょうか?」
「ふだんから一番、チカちゃんに練習中も落ち着きがないって文句を言ってるのはダイヤちゃんのような気もする。あいたた」
「それとこれとは話が違います!」
音を立てて善子ちゃんの足をひっぱたく。よりによって足を。
「ギャー!」
「はあ……なんだかチカさんがいないと、叱るにも張り合いがない気がします」
「人の弱みをピンポイントで叩いておいてなんてことを! 叩かれたほうはどうすればいいのよ!」
善子ちゃんが派手な声を出してじたばた泣きはじめた。元気だね?
でも本当だね。こんなときにチカがいたら、たとえダイヤちゃんが相手だろうと善子ちゃんが相手だろうとどんな話でも元気を頼りに引っかきまわして、いつだって大変なことになっているよね。たまにはチカがいないのも静かでいいかもね……
こんな時に善子ちゃんの心配をしてくれそうな優しい子はルビィちゃんと花丸ちゃんだけど、どうしたんだろう? と思って探すと、鞠莉ちゃんはスモウをとって遊ぶ相手のチカがいないから、ルビィちゃんとがっぷり四つに組んでいる。横で応援している花丸ちゃん。どうしてルビィちゃん!? もっと他に取り組み相手がいるような気がするよ!?
いちばん適切な相手なのかわからないけれど、私が少しぼうっとしていたからかもね。曜ちゃんはと見ると、練習が終わってもまだ体力が残っているみたいで、一人でダンスの再確認。熱心な横顔。目が合うと
「チカちゃんが喜んでくれたらいいな!」
そのまま遠くを見つめて、いつもの青く広がる空とどこまでもずっと遠くまで続いているような海に向かって、大きく広がる腕に受け止めてもらいたくて飛び込むみたいに、みんなの前で普段からそうしているのと同じ調子で叫ぶ。
「あーあ! 今からすぐチカちゃんのところに行けたらいいな!」
普段みたいに、隣で一緒に大声を出してくれるチカはいないけれど。
「ヨーソロー!」
曜ちゃんは叫ぶ内容はわりと何でもいいのかな?
今日はその側に梨子ちゃんが立って、思い切って息を吸って叫ぶ。
「チカちゃーん! 誕生日おめでとう!」
まだ練習しているわけで、誕生日は今日じゃないけどね。
「いつもありがとうー!」
こんな声をもしかしたらチカも聞いてくれているかもしれない。
まあこの学校は岬にあって海の近くで、チカの旅館は海辺でもないから、たぶん今は後ろのほうにいるはずなんだけど。でも、だからこそ、大きな声に乗せて言えることもあるのかもしれない。だったら私だって。
「チカー!」
こんな時だからこそ、伝えられる言葉……えーと……特にないか。
「おめでとー!」
たぶん、また本人の前で言うと思うけど。
こういうのは何回言ってもいいものだもんね!
「バカー!」
善子ちゃん。足はもう大丈夫? 面白そうだと思ったみたいで鞠莉ちゃんも肩を並べた。
「チャオー!」
なんでも叫んだらいいというわけでは……いいのかもしれないかな?
ルビィちゃんと花丸ちゃんもひたすら「チカちゃーん!」「チカちゃーん!」と大きな声を出す。特に思いつかないだけかもしれないけど、ちょっと助けを求めているようにも見えるね?
「チカさん!」
ダイヤちゃんならやっぱり「ラブライブ優勝!」かなあと思ったけど。
「夏休みの宿題はちゃんとするように!」
まあ、それも気になるよね。
ラブライブ! の声は9人がそろってる時かな」
「そうですわね。……どうかしら。こんな意味のないことはもう二度としませんわ」
声を出した自分の行動が謎だというみたいに少し考えた様子で
「たまにはこんなこともあるのかしら?」
と、もしもここにチカがいたらすぐに賛成してくれたかもしれない。
だけど今日は、それぞれがひたすら自分の好きなように叫ぶだけで終わりそう。チカがいても変わらなかったかもしれない。でも、ここに一緒にいたらよかったのにな。
さて、誕生日の当日が来たら旅館は人がいっぱいで、チカも別の場所に抜け出す余裕がなかったから、あんなに練習したのに庭の隅で空いてる場所を見つけてこっそり踊ることになって、なんでーって善子ちゃんが叫んだものだけど。結局はプレゼントされるはずのチカがダンスに乱入してきてもはや何がなんだかわからない状態で、もともと映画ではどんなダンスをしているのかわからないところも多くてかなりオリジナル気味のアレンジになったんだけど、なにしろテンションが上がったチカのことだから映画曲が全部混ざったりするなどもはやほぼ原型の残らない事態になって、後でダイヤちゃんは「これも本番でトラブルがあった際のいい練習になりましたわ!」って喜んでいたよ。顔は怒っていたよ。
それでも、忙しいときに私たちといるのを許してくれたのも、家族の人たちのお誕生日プレゼントだったのかもしれないね。後で晩ごはんはチカの前にひとつイチゴのショートケーキが並んで、またチカが即興で作ったらしい調子外れの歌を歌っていた。
結局その日いっぱいはチカのリクエストで、9人そろってPV付きシングルの曲を順番に、練習していない曲がいっぱいあるのも気にしないで転んだりぶつかったり全員で擦り傷だらけになった後、
「今日はみんなでお泊りしてよ! チカ、ブイの字やる!」
と、いきなり全員でラブライブの字を作る気満々の要求がはじまったけど。
もちろん旅館はこの時期は満室だから、チカの部屋に9人集まって暑い中みっちりで、もう腕をのびのび伸ばすどころではなかった。ここまでお姫様扱いして言うことを聞いたんだから、全員がそれぞれの誕生日に自分のお願いをチカに要求する権利はあるだろうということで意見が一致した夜だったよ。