観月

『読書の秋』
彼方まで透きとおる
薄青の秋空。
穏やかに晴れた休日は
何をして過ごしても
心穏やかに。
たまには、おなかがすいたあさひと
さくらと
夕凪姉じゃが
声をそろえて泣き出すことがあっても
それも含めて
基本的には、のどかな休日。
久しぶりのお日様に
お布団と洗濯物がずらり
やり遂げた顔の蛍姉じゃと
力仕事に汗ばんだ兄じゃと
まわりを囲んで、お手伝いをした小さい子たちが
音もなくそよそよ揺れる干し物や
向こうで洗濯ばさみから外れてひらひら落ちるぱんつを
ああー、とそろえた声で見送って
思わず顔を見合わせる。
一番に拾って届けるお手柄を狙って
ほこりをたてて転びつつ洗濯物の下を走り抜ける
今日はすっかり秋の装いの、もこもこむすめたち。
重ね着であたたかくして
日が出るお昼は、ときどき上着を投げ出して
庭でお手伝いを済ませると
飲み物をいれてもらって
少しの休憩じゃ。
牛乳を持って絵本を広げるのは
こぼれてしまうといけないから
ほっと一息の時間には
これからご本を読んでもらいたいと
兄じゃに約束をして
というか、おねだりして。
一安心しているわらわたちと
なかなか落ち着いている余裕がないと笑う兄じゃと
まだまだ今日はしばらく
同じ場所でお互いの顔を見ながら過ごす
なごやかな、
午後の時が
日なたの縁側で、猫にならって長く背伸びをしているまぼろし
カップを空にして
わらわもそわそわ動きはじめると
星花姉じゃが、落ち着かせるようにぽんぽんと
ひとりひとり背中を叩いて通り過ぎたあと
夕凪姉じゃがからかってつついて
きゃあきゃあまた声があがったら
それが合図のように
思い思いの本を持ち出して
兄じゃへおすすめする
ここ最近のお気に入り。
鼻の先をひくひくさせる、つんと冷たい風が吹きはじめると
気になるのは
この冬の過ごし方。
遠い海の向こうの国では
深く積もる雪を呼ぶことばが
いくつもいくつもあるという。
白い景色に点々と並ぶ足跡みたいに
重なり合って
あらわれたり、降る雪に消えたり
見つかっては隠れ、
よく顔を出しては逃げる子供のように
きっとさまざまに言葉たちも踊って
あの雪の色とこっちの色を
まだ知らないどこかの国では
やっぱり、冷たい風の当たる頬を赤くして
もうすぐ冬を迎えるこの町の子供たちのように
何を見ても、むくむくふくらむ心の中を教えたい人がいて
どうしてももどかしく言葉を探し、
そんなふうによく似た冬を過ごしているのであろうか。
伸びる足跡からも性格を知って
誰がつけたものだかすぐ見抜く
氷柱姉じゃの不思議な特技に
兄じゃと顔を見合わせたあの時から
もうまもなく
次の冬が来るまでに
月日はめぐった。
早いものじゃ。
わらわもあの頃より
いくらか大きくなったかの。
さくらも少し成長して
涙をこぼす泣き虫が胸の中にふくらんでも
目元でこらえているうちに
やってきてくれる兄じゃの顔に
笑顔に戻るまでの時間も、短くなったかの。
でもこれは
くるくるおもしろく、かわいく気持ちも踊る
そんなさくらをいつも見ている兄じゃの成長かもしれぬな。
ぽかぽかしてくると
いつのまにか、本を囲んでべったり床に張り付くみたいに眠って
真っ先に飛び起きた青空の体当たりで起こされて驚くような
のんびりしすぎた午後には
それはこんなふうにしていたら、すぐに時間は過ぎるものだと
自分たちのことながら、あきれる気分にもなるが。
風邪を引くからと怒られて
兄じゃも一緒になって身を縮める
こんな休日も、のどかばかりではなくとも
たまにはよいかもしれぬ。
ぐーっと伸びをしたら
兄じゃの真似をしてあくびをして
休日も終わり。
兄じゃのお気に入りの本は見つかったか?
まだ長く続く、寒さが増していく秋の夜にも
わらわのおすすめは、これからもいっぱいあるのじゃ。