綿雪

『交換っこ』
ユキのあこがれは
お兄ちゃん。
妹なんだから
ちょこちょこ後ろを追いかけて行くだけでも、
ときどきは苦しくなって立ち止まっても
でもいつだって、お兄ちゃんがユキのことを見てくれて
必ず絶対、ユキもそうなるはずの
いつも笑顔で、楽しいって言ってくれて
家族だから一緒にいてくれる
強くてかっこいいお兄ちゃん。
ユキのお兄ちゃん。
お兄ちゃんの妹ですって
毎日つづる一生懸命の日々に
胸を張って教えてあげられる
立派なユキに変わって
お兄ちゃんに近づけた気持ちになれるのは
あとどのくらい?
もう少しユキの背が伸びてから?
中学生になってからですか?
やっぱり高校生まで待つのかな。
ユキの体は
他のみんなほどすくすく育たないかもしれないし。
それから、
やっぱりあこがれ
すてきなお姉ちゃん。
吹雪ちゃんはとっても頭が良くて
落ち着いていて
年上のお姉ちゃんたちからも頼りにされているの。
すごいな、
うらやましいな、
あこがれるよ。
難問に向き合ったら
真剣な顔で考え込んで
むむむ、とうなるたびに
ちょっとずつ答えに近づいていくの。
着実に
自分が頼りにしている知恵を疑わずに
答えを見つけるまであきらめずに進む
意外とたくましい
タフなヒーローなのだと思います。
それに、
夕凪お姉ちゃん。
声が届いたら
すぐにぱっと明るいおうち。
ううん、学校にいたって、ときどき聞こえてくるよ。
冷たい風が吹いたら細い枝が静かに揺れて
ユキの気持ちも小さな心配で曇りがちになると
校庭のほうから
たちまちひらめく
女の子たちのきらきら
鈴を鳴らす、
と感じるかわいらしさに
ユキは気がついたらうれしい笑顔になっている。
もう少し大きな
ハンドベル
大きな鐘のような?
授業中の教室に
体育の音が
ときどき不意に大きく響くと
あわわ、
大丈夫かな、って
遠くからあわてることも
それはやっぱり、思い出したらきりなくあるけれど。
なんだか告げ口みたいになってしまったら
いけないユキですね。
そんなつもりではなくて
やっぱり、あんなに遠くまで
すぐ近くで一緒に遊んでいるみたいに
顔が赤くなるのもすぐわかるくらい
どこまでだって、弾んだ熱気が伝わる
まぶしいお姉ちゃんに
ユキだってなりたい……
きっと、
似ているねって笑い合う日も多い仲良し家族だから
あこがれるのも気が引けるくらい遠い気がしても
たまにあきらめそうになったって
でもいつかは。
大きく育てば
もうすぐなれるはずの
あこがれ。
お姫様だけじゃない。
きれいな人魚姫や、白雪姫や
かしこいどうぶつのきょうだいになる夢と
同じくらい胸を締め付けて
ほのかな炎をともす未来。
まるで、駅員さんが予告して
時間通りに入ってくる電車みたいに
とうぜんやって来ると根拠もなく信じている想像図は
毎日手をつないでいてくれたら届く
優しい温度みたいに
どきどきする小さな胸にはじまる
今度はこっちから
情報をお届けする
あこがれてもらえる?
優しいお姉ちゃんに
小さなユキも育っていくんだと
すぐ近くで笑顔にしてもらえる人を見つめて
信じながら、
今はまだ、走ったり歩いたりも練習中の
恥ずかしいような足取りで、でも止められない気持ちのままで
見失うはずがないまぶしさを頼りに、今日だってあこがれを追いかけています。
だから吹雪ちゃんに
あまり意味がないって笑われても
少し強引にお願いして。
いいでしょう? って手を合わせても
ついつい前のめりにぐいぐい
頼み込んでしまったのは
服の交換だけでしたけど。
一日だけ実現した
あこがれの吹雪ちゃんごっこ
本当に、意味がないだけだったのかな?
ユキはまだ思い出してドキドキ
頬の温度を手で触れて感じながら。
いつか今度は。
ユキがあこがれのお姉ちゃんになる決意、
強くなったみたいだもの。
お兄ちゃんとだったら、ユキの子供っぽい遊びをしたら
だめですか?
ユキの夢が本当になるその日までのお願い。
だめでも仕方ないけど
いつでもいいので、もしも聞いてもらえるなら
とってもうれしい
弱いユキにも
力になると思うんです。