観月

『女神の季節』
如月も半ばを過ぎた。
服を出しては重ね
足を出しすぎておこられる。
そんな光景もあとどれくらいか。
明日はすこし暖かくなりそうで
またすぐ冬の寒さに戻るらしい。
喜んだり嘆いたりしているうちに
いつのまにか春はすぐそこまで忍び寄っている──
と、いいのだが
夕方にお外にいれば手はかじかんで
頬に当てて暖をとっているうちに
兄じゃに近づいて
後ろから顔にぴとっ。
へんな声を出させる。
毎日寒いと必ず一人は現れるいたずら者なのに
兄者もよくまあいつもいつもひっかかって
背後の気配に逃げもしないものじゃ。
びっくりしないように教えてあげたほうがいいのか
小雨姉じゃはいつもお口をぱくぱくさせているが
今のところは間に合ったためしがない。
明日はそんなわかりやすいいたずらとも少しのあいだ離れられるかの?
やがて兄じゃが気がつくようになるか
小雨姉じゃの声が追いつけるのか
にやにや見ている自分をこれから見直して
わらわが助けてあげられるか
それとも、お庭の遊びがだんだん変わっていく前に
急いで春がやって来て
風の冷たい夕暮れも過ぎていくのか──
だったら後になって出来ないことをひとつ
わらわも忍び寄って声を出させる悪いことを
気がつかれないように後ろから。
そうしたらやっぱり怒られるであろうか?
春になれば、景色も変わって遊びもまいにち違って
ひらく桃色の花に合わせたようにそれぞれの装いも華やかになり
足を出しても怒られないようになる。
だが、わらわの足を出してもどうなのかと思うから
夕凪姉じゃやマリー姉じゃに相談されたときに
まだ早いとか
そろそろいいであろ、などとまじめに答えるくらいで
やっぱり袴のすそを引きずったり
そういえば蛍姉じゃが春物のワンピースをみんなの好みに合わせて作ると
もう今のうちから張り切っている様子。
ぽかぽか陽気の日があれば、早く進みそうなので
もしかしたらすぐに完成して
明日には早めの春の装いがあるやもしれぬし
まだあんまり薄い生地を着て飛び回るには早いということもありえる。
寒さを言い訳にして動きやすいジャージでいても特に何も言われない時期も
もうあと少しになって──
春が来たら、陽気も気持ちもうきうきでスカートがめくれたら
まったくもう! などと押さえては
もう冬の冷たさではない風にまんざらでもなかったりするのかな。
うむうむ。
その時もわらわはあんまり気にせずパンツ丸出しで転がりまわっていると思うが
色彩が生まれるような華やかな光景を
これであんがい楽しみに待っておる。
春を告げる女神様も意外と毎年の流行に合わせて
その年ならではのおしゃれをしてやってくるということもありえる。
何年も何千年も人の世に桜の訪れを告げていると
新鮮な気分になりたいときもあるだろうし
なにしろ新しいはじまりの予感がする明るい光が差しはじめる季節。
やはり春を告げるなら
時代に敏感でないと! という心構えはありそうなものだから。
決して流行だからと言って遅れてはやりだしたインフルエンザや
そろそろ飛びはじめる困った花粉にも負けないで
今年もどうかほがらかな春をわらわの家族の元へ。
そろそろ地味なジャージを着ていていい季節でなくなってしまっても
その時の訪れは、少し早くてもかまわないと願うのじゃ。