ヒカル

『おみやげを両手いっぱいに』
話は聞いた。
ユキの部屋に遊びに行く約束だと──
別に、ふだんから
様子を見に行ったり
具合が悪そうな時は部屋の前まで送ったり
そのまま隣についていたり
特に理由もなく誘われたりと──
ユキに限らず誰の部屋でもそうだし、
みんな仲がいいのは見ていたんだけど。
でも、寒くなる時期に心配だという理由があるとしたって
あらかじめ約束をして
会いに行くというのは
うちでは、あまりないからな。
遊びに行く約束か──
私がどこかの部屋に
遊びに行っても、
結局──外に誘ってしまうのがいつものことだし、
ユキの場合は元気な顔だけ見て
安心するから、
長居はしない気がするな──
ユキが話をしたい時は聞くだけで、
それもあんまり長い時間じゃないから。
こんなに前から念入りに準備をして
会いに行くなんて、
どういうことになるんだろう?
トランプでもするのかな?
あとは──ユキはあまり食べられないだろうけど
やっぱりわざわざ訪問するからには
手土産も持っていくのがいいのだろうか。
おやつとか。
だとしたら──
オマエが必要な時に
私の手元にあるぶんを分ける形で
お手伝いできるかな?
やっぱり、みんなが喜ぶ訪問になるように
協力したいから──
うーん、でもおやつなら
春風や蛍に頼んで手の込んだお土産用の凝ったのを
頼むのがいいかもしれないし。
とにかく、困ったことがあったら声をかけてね。
別に私が行くわけではないのに
なんでこんなにそわそわしているんだろうか──
子供を見守るような気持ちというやつか?
オマエが不器用なのは知っているし。
それとも、春風が言うように
大事な妹を自分のことに重ね合わせて
いい思い出になるようにしたくて、
そうして──まるでもうすぐ
自分のところにも来てくれるような気がするから──
なのだろうか。
そういうものか?
よくわからない。
ともかく、大事な約束ができたんだから
それまでは風邪を引いたりすんじゃないぞ。
今までもそうだけど、今度は特に体を大事にしないといけないんだからな。

虹子

『チョコたべないよ』
ユキおねえちゃんのおへやに
おにいちゃんがあそびにくるよ。
さみしいとき──
さむいとき──
とくにわけはなく
あいたいとき──
おにいちゃんがきてくれる!
そして
チョコをたべてよろこんでくれる!
だからにじこ、
ユキおねえちゃんのおへやにいっても
チョコをがまんするの。
おにいちゃんが
やってきて、
チョコがあるって
よろこんでくれるようにね。
ユキおねえちゃんにもあえた!
チョコもたべた!
よくユキおねえちゃんのおへやにいる
にじこともあそんだ!
そんなに
うれしいことがあったら──
おにいちゃんが
また、きてくれるかもしれないもの。
チョコをがまんして
まっているあいだは──
にじこはどうするの?
それはね。
にじこはたのしい
おどりをおどるよ。
おどると、
たのしいし
あったかくなるし
おどりがじょうずになるし
みんなよろこぶし
おにいちゃんにもみせてあげたいし
ふりふりだし
とってもいいことだ!
だからにじこは
わけがなくても
おどるかもしれないな──
おにいちゃんは、もうすぐあいにくる。
ユキおねえちゃんがさみしいとき──
それは
らいしゅうのすいようびの
ゆうがた!
という、やくそくなんだって。
それまでに
かぜをひかないようにして
みんながユキおねえちゃんのおへやに
いってみたいっていってるの。
まちどおしいね。
たのしみだ。
ついつい、にじこはおどってしまうね。
みんなもそうなのかな?

綿雪

『ご招待』
お兄ちゃんへ。
これからしばらく
寒さが今まで以上に
厳しくなると聞きます。
ユキも部屋から
出られない日が多くなるかもしれない──
熱が出て
ずっとベッドから起き上がれない日が
また増えるのかもしれない。
体が弱いのは
仕方のないことだけど
でも、やっぱり想像するだけで
少し寂しいです。
がまんしないといけないことなの──
そこで!
吹雪ちゃんや麗ちゃんに相談したら、
そういう時は時間を決めて約束をして
会いに来てもらうのが
相手も予定を立てやすくていいですよ、
と言っていたの。
本当でしょうか?
それが本当ならとてもいいことだと思うけど、
でも──
忙しい氷柱お姉ちゃんみたいに
急に用事が入ることだって多いでしょう?
お兄ちゃんも
みんなに頼られて大変みたいだし──
それに何より、
一番の問題は
時間を決めて
もうすぐ会えると思っているユキが
待ちきれなくて
そわそわしすぎてしまうこと。
お兄ちゃんと待ち合わせの約束をすることを
考えるだけで──
ちょっと落ち着かなくて
どきどきするんだもの。
本当に予定が決まってしまったら──
それをどれだけ頼りにするかわからない──
悩んだけど。
結局、一度はやってみないと
どんな様子かわからないとも聞いて
確かにもっともだと思ったので、
もしも、お兄ちゃんが
これから先に空いている時間があったら
ユキの部屋に来てお話をしませんか?
今なら、チョコレートもあります。
青空ちゃんや虹子ちゃんが遊びに来た時に
なくなってしまうかもしれないけど──
その時は何か考えておきますね。
もし予定を入れてもらえるなら
お返事を下さい。
待っています。
ユキはいつでも、お兄ちゃんに会えたら
幸せだろうと考えています──
おうちの中でふいに会うのも、
時間を決めて待ち合わせるのも──
そんなことがあったら
いつも喜んでいるに違いない。
寒さに負けて
ベッドに眠っているときのユキには
お兄ちゃんが必要なんです。

『オービット』
そうか──
オマエも気付いているという顔だな。
ああ、その通りだ。
怖ろしい気配が近づいている──
人は抵抗の術もなく
ただ身を丸めて
通り過ぎるのを待つしかない
そんな出来事がもうすぐ──
いや、もうやって来ていると言ってもいい。
だけど、それを乗り越えなければ
暖かい春もなく
縁側で日向ぼっこをしたり
甘味のお店を歩いて回って新メニューを制覇することも
ないからな──
私たちでも乗り越えられるだろうか?
あの厳しい
寒さを相手にして──
毎年どうにかやって来ているのだが
それでも小さい子が風邪を引いたり
小さい子に交じって小雨が風邪を引いたり
虹子たちが千羽鶴を作るお手伝いに駆り出されたり
小雨が治って元気になったり──
いろいろばたばたすることも多いからな。
冬の寒さはこれからさらに注意が必要だという。
私たちはもう
白旗を上げて
抵抗をやめ、
家にこもって過ごすのが一番なのではないだろうか?
特に、明日から寒気の影響があって
なんだか大変だと聞くじゃないか。
学校を休むとはいかなくても、
寄り道をせずに
早く帰って、
家でおいしいものを食べるのが
今の私たちに求められる
最善の行動と言えないだろうか?
他の何を
後回しにすることがあったとしても
今だけは──
そう思ってしまっても
仕方のないことだ。
なに、焦らずとも
体を大事に毎日を過ごしていれば
やがて季節は巡り
あの待ち遠しい春もいつかは訪れる──
こういう時にあまり買い物に出歩かなくていいように
日持ちのするお菓子も買い溜めておいたのが
今になって役立ちそうだ。
あれはどこにしまったかな──?
本当にまだしまってあるのかな──?
まあ、暖房のある場所で
暖かい服をしっかり着込んで、
ゆっくりしながら思い出すとしよう──
春はまだ遠く、
しかし確かに近づいているはず。
ついに来た
乗り越えるべき本格的な冬の寒さがその証明となるのなら
まあ──お茶でも淹れてなんとかがんばっていくことにしよう。

観月

『うたかた』
暗くて
寒くて──
凍りついた静けさの中に、
冷たく何かを反射する光のように
またたくのは──
ここしばらくは、年明けのおめでたい雰囲気と
にぎやかな暖かさがあったからか
森の重なる枝が作る黒い影も
星が見えない夜のお庭も
あまり、よくないものは
あらわれなかったようだが。
人の明るい暮らしが落ち着いて
だんだんほころびのような隙が出てくるところへ
音もなく入り込んで
のぞきこむ
あのものたちは、
たとえば、すやすや眠っている子供の顔をのぞきこもうと
窓を開けたままにしておいたり──
いたずらで布団をめくりあげたりと
悪さをして、
この寒い時期に人が風邪をひく
原因になってしまったりする。
ただの窓の締め忘れや
寝相の悪さと区別がつかないのが
やっかいじゃ!
まだ力を身につけ良い子になる修行の途中で
あまり変なものを
追い払う力がないわらわでは──
小さな子供たちで集まって
布団をかけてあげたりするだけで
せいいっぱい。
せめて──もう少し暖かくなるか
節分の鬼払いでもやってくるなら
できることもあるのだろうが。
今は──
ひとまず
息をひそめて
寄り集まってふるえながら、
冬が過ぎるのを待つばかり。
一緒に眠る子供たちが
ぐずってまた布団から出て行かないように、
読んであげる絵本を選ぶのも
おしごとじゃ。
わらわにできることをして──
あのような、おうちでわいわい明るくしていればすぐに薄れてしまう
怖い暗がりの奥など
近づけたりはしないようにして
あったかく──
日々を過ごしていかねばの。
今夜の絵本は、
ふむふむ。
ねないこ──?
おおっ、これは
興味深い内容じゃの。
ほう、そうであったのか。
そうか──わらわがまだ知らぬことも──世の中にはたくさんあるし、
兄じゃに頼んで読んでもらいたい絵本も
このように見つかるとは。
冬の夜というのも、がんばって乗り越えてみるものじゃ──

春風

『これから』
年が明けてからの大さわぎも
なんとなく落ち着いて、
少し先に寒い日がある予報だけど
今日はまあまあ
日差しがあるのはありがたい──
特にこれといった
急な用事もなく、
気持ちにもどこか余裕がある
こんな日は──
いったい、何をして過ごしたらいいかしら?
今までなかなかできなかった
難しい本を読む、
気になっていても作ったことのないお料理を調べる、
少し街を歩いてみる──
そんな新しい出会いに期待してみるのがいいのかな。
もしかしたら
時間があるからこそ──
普段通りの仕事を片付けて
今後も気持ちのゆとりを維持していけるのが
いいのかも?
部屋の掃除をふだんより丁寧にしてみたり──
冷蔵庫の中に長く居座っているあれこれを
ぱぱっと片付けたり
子供の遊びに混ぜてもらって
懐かしいあの頃の
気持ちに帰ってみたりなども──
たまには、必要なことだと思います。
ああ、でもこうして迷っているうちに
時間が過ぎて何もできないまま終わるのが
一番ありそうなことなんだけど。
まあ、それはそれで
余裕のある時間の過ごし方としては
らしいというか
しっくりくる気もしますね。
春風の気持ちが
なびく方向はと言えば──
そうだな、
昔から
こわがりのくせに──
逃げて隠れるようなことばかりだったのに
今日は──
せっかく新年を迎えて
2月にも行事が目白押し。
こんなときに立ち止まったりするのは
もったいないと思ったりします。
これは大きくなったのがいいのかしら?
それとも、春風を止まることのできない子にしてしまった
特別な出会いがあったのかもしれませんね。
こうなってしまったのだから
しかたがないな!
臆病な子が
隠れ家から顔を出して
きょろきょろして
そして、せのびをして──
さて、やる気だけはいっぱい!
何からはじめようかな。

小雨

『あらゆる種類のあったかい』
曇り空!
寒い日が続いています。
このままでは大変。
風邪をひいてしまっては
おそすぎる──
だから、みんなに
冷えないように、
いつもあったかくしているように
言いながら、
汗をかいて服を脱ぎ出した子を見つけては
隙を見て
タオルで拭いてあげて──
小雨が走り回っています。
ふう、ふう──
もっとみんなが
あったかくなれるような
いろいろな工夫があったらいいのですけど、
何があるかなあ?
と、たずねてみると
いろんな声が帰ってきて──
やっぱり寒くてもお外で遊ぶのが一番、
いやいや暖房のそばでゆっくりするのがいい、
こんなときには栄養のあるものをとって
食べ物や飲み物で体の内側からがいい!
あるいは楽しいことをして
心の底からぽかぽかになれる鉄道スタンプラリーもおすすめ。
いやそれより何よりも、
好きな人と一緒にいて
どんなときも離れないでいるのが──
私たちには向いているんじゃないかな?
その人のことを考えるだけで
胸が暖かいのに──
おうちで一緒にいられて
おやつもごはんも並んで食べられたりだって
いいんだもの。
好きなものだってすぐに聞きに行けるから
なんでも作ってあげたい──
うん、思ったよりたくさん意見が集まりました。
みんながそれぞれ、
一番いい方法で冬を乗り越えていけたらいいですね。
協力してあげたいです!
そして小雨は──どうしたらいいのでしょう?
あれなのかこれなのか──
ああ、なんだか考えることが多くて
熱が出てきたような──
うーん──あったまるというか──あつい──
ふらふら……