観月

『春が来る』
ここしばらくは
あたたかくて良く晴れた日が多いので
暗がりを隠れて移動するのが好きな生き物や
かくれんぼをする子供たちが──
あまりいきいきと盛り上がって
はしゃぐことがない。
わらわはもっと
兄じゃに探してほしいのじゃ。
あっちこっちを迷って
右往左往してほしいのじゃ。
困らせたいのじゃ──
あんまり明るい日差しの下では
遊べなくなる遊びもあるということを
春を迎えた晴れやかな毎日では
忘れがちになる──
おいかけっこをしているが
よく考えてみよ。
ごっこだって
真剣になって逃げるのは
つかまったらどうなるかわからない時こそであり──
必死に逃げる相手だから
鬼の役をする子も楽しくなる。
闇から手を伸ばす相手に
逃げることしか知らないあの感覚が──
もう冷たくて薄暗い季節が終わってしまうから
どこかへはばたいて行ってしまわぬか心配じゃ。
まだまだ遊び足りぬ。
兄じゃを困らせ足りぬぞ──
まもなく日々は
浮かれたお祭りのような騒ぎと
まぶしい明かりに包まれる。
全てが人を祝福し──
歩みを始める手足に
活力を注ぐ──
こうなってしまえばもう
いたずらをしたり
つまみ食いをして逃げたり
寒くてくっつきあったり
布団にも潜り込んだりする遊びも
これまでじゃ。
新しい楽しみを知るために──
新しく出会うものたちの
教えを乞わねばならぬ。
そんなにいい出会いばかりが見つかるであろうか?
わらわはまだ小さいのに──
夜の闇で見る夢にすがって
はじめて世界とつながることを知る
ものを知らないわらべだというのにな──
いつも遊んでくれる兄じゃも
これからは──もっともっと夢の中に出てきて
暗闇にいた者たちよりもたくさん
わらわと遊んで
いろんなことを教えてくれて
それから──季節が変わっても
ずっと離れないと言ってもらわねばならぬ。
そうでなければ小さい妹は安心できぬのじゃ──