海晴

『あさひちゃんの好きなもの』
すごい速さの
はいはいと──
必死のよちよち歩きで
あーちゃんがつかまえようとしたのは、
土色の輝きもたくましく
よく洗った後なのに
見ているだけでいい匂いがしてきそうな
それは──
鍋。
上から見ても下から見ても
鍋以外の何物でもない
100パーセントの純粋な鍋。
昨日の晩御飯に使った調理道具よ──
あーちゃん、
なんでそんなに
鍋に執着があるの!?
やっぱり、ゆうべ
おいしい鍋物が始まるという時に、
みんなが取り囲んで
わいわい騒いでいたのが気になったのかしら。
でも、そのあとで
食べ物の周りであぶないでしょうって
氷柱ちゃんがげんこつを落としていたのも
あーちゃんは見ていたはずなのに──
それでも、どうしても
みんなをあんなに笑顔にする
鍋の正体が気にかかって仕方ないみたいね。
でも──重いし
あぶないし
みんなのおいしいごはんを作ってくれて
この冬、わがやで一番の注目を集める
りっぱな鍋。
いくらおうちの天使のあーちゃんといえど
おもちゃにさせるわけにはいかないわ──
でも、ここまで大事そうに
まぶしい瞳をして抱えている宝物を
奪うことなんて誰ができるというの?
子供の頃は、いろいろ大人から見たら変なものだってお気に入りになるけれど、
抱きしめて離さないのが
まさかの鍋。
将来、料理人になったりして?
でも、まだまだこの世に生まれて間もない
全てが新しくて驚きに満ちた世界を生きるあーちゃんが
鍋を見つけたんだもの!
かわりに──鍋みたいなおもちゃがあったら
買ってあげてもいいかもしれないわね。
鍋みたいなおもちゃ──
な、なんだろう?
いいえ、
あーちゃんがとうとう
この世に新しい特別なものを見つけ出したんだもの。
私たちだって未知の体験をこれから重ねたって不思議じゃない。
変なものを見つけ出してもおかしくない。
本当にそうかしら──?
こうなると、未来は神のみぞ知るとしか言えないわね──