立夏

『トーイズ』
んんっ!?
掃除機がいきなり重くなったような?
あっ、にじちゃんどうしたの!
おねえちゃんはおしごとちゅう。
掃除機にまたがっちゃ
ダメだヨ♪
ねっ。
ほこりっぽいし、
あぶないし、
おじゃまだし。
あんまり面白いものでもないでしょ?
ひっぱってくれる人がいないと意味がないうえに
にじちゃんと遊んでくれるのは
みんな、にじちゃんがかわいくてしかたないお姉ちゃん。
怪我をさせたくない気持ちは
掃除機に乗ってお姉ちゃんたちを困らせたり
あぶなく怪我をしそうになった経験が
あるかどうかはあんまり関係ないんだよ!
へへへ。
ちっちゃい頃のリカみたいだね。
困らせちゃうのが得意なのって。
お掃除のジャマばっかり。
せっかく休憩してくれて
いい子にしていてねってかまってもらっても
だってリッカは
おそうじするおねえちゃんよりも
遊んでくれるほうがうれしいのにな、
なんて考えていたのが
いつのまにか。
何度もおもちゃをおっことしたり、ジュースをこぼしたりしているうちに
自分できれいに出来るようにしないと
この大胆な汚しっぷりは
家の中が
ちょっとまずい気がするぞ──
そう思った破壊魔。
苦手なお掃除を
こうして続けているところだから
にじちゃんと遊んでいたら
ぽろぽろこぼしたお菓子のかけらが
いつまでたってもきれいにならないよ!
にじちゃんも散らかすの得意だからわかってしまうかも?
失敗したときの
あのさーっと冷えていく
こ、こりゃ
やばいって感じ──
もうちょっと落ち着けたらいいのにね?
姉妹はこんなに似ているというのに
オニーチャンも小さい頃は
元気すぎて怒られたりしたのかなあ。
小さくてもしっかりしてそうな気がするな。
かわいかったとは思うけど
どんなだったんだろう?
やっぱり落ち込むリカのことを優しくなぐさめてくれて
追いかけてみたいって
思うようになるのかな。
かわいくて意外と甘えてあげさせたくなったりして?
うーん
わからん。
とにかく、そろそろ次のお手伝いに行かなくては。
ああ大人は忙しい。
家事が下手っぴで、つい遊びたがるほうでも
乙女の試練からは
逃れることはできないから。
エプロンに着替えて
次はキッチンの下働きだよ。
にじちゃん、どうやらリカは子供の頃よりはちょっと
できる女になった。
ような気がする。
こんなお姉さんになりたいって憧れていたのとは
まだまだ近づけた気がしない距離で引き離されているけど
にじちゃんから見たら
ちょっとかっこよく
お掃除のときの邪魔者が前向きにレディになっていく道を示すのだ。
よし、このイカの煮物をあっためたらいいんだね。
じゃあレンジで──
ぴぴっ
ぽちっ
ふう──
できた。
わあっ!?
ぼんって
ぼんっていった!
イカがばくはつをした!?
レンジの中が──
悲しいくらいにイカの破片だらけ。
おそうじ苦手なのに──
うえーん、にじちゃん……
かっこいいお姉ちゃんになれなくてごめんなさい。
リッカのことはあんまり見習わなくてもいいからね……