『サイドバイサイド』
蛍が時間をかけて
見つけ出したお宝の中に──
まだ修繕の手が入る前の
ぬいぐるみがある。
さすがの蛍も手が足りなくて後回し。
むしろ家族を支えてくれている今でさえ
獅子奮迅の大活躍といっていいのに
これ以上を望むのはいけないものだ。
そういうわけだから
布が破れて綿が飛び出したぬいぐるみの
修繕は──
暇な人間が立候補する形となる。
霙が──
やってみようかなと言い出すのは
自然な流れと言っていいだろう。
ある者は
直すものと直されるものの邂逅を
運命と呼び。
またある者は
長続きしない
思い付きの気まぐれと語る。
日々綴られていく歴史において
全ての評は
きっと正しく──
何を真実とするか
決めようと奢るのは
後世に生きる人々の特権──
あるいは罪深さ。
おそらく私の気まぐれは
小さな混乱を呼ぶばかりの
ちょっとした話の種で終わるのだろうな。
それが成功するにせよ
失敗するにせよだ。
ある者は、破れたぬいぐるみを
私の小さな頃からの友達と考えているようだ。
またある者は
いつものんきに過ごしている姉も
得点稼ぎのチャンスを見つけ出したとみている。
だが、ありとあらゆる
この宇宙を飛び交うすべての意見が一致する
ひとつの特異点が存在するならば、
それは。
霙が本気になった時の裁縫の腕前は
星の光も届かない闇に閉ざされて
誰も予想すらできないということだ──
数奇な事態に翻弄される
か弱いぬいぐるみの明日の姿は
いかに──というやつだ。
うーん……本当にどうなってしまうんだろうな。
やるだけやってみるとしよう。