夕凪

『冬の魔法』
今日も明日も
夕凪の毎日は
特別な発見であふれている。
聞いて聞いて!
夕凪の知った
とんでもないこと──
それは
麗ちゃんの秘密。
とうとう知ってしまった。
前から思っていたの!
夏にはあんなに
みんなでおいしく食べた
おろしうどん。
しらすもあれば豪華すぎて
いつまでも食べられる。
もう終わらない──
無限の食欲が
夕凪をおそう。
まだ小学生なのに
こんなに世界の特別を知ってしまったら
どうなってしまうんだろう。
どこからともなく
やってきた天才、
魔法のアイデアを駆使して
家族の食卓を豊かにする!
そう信じていた
夕凪だったというのに
つい昨日、
んんっ!?
冬のおうどんは
油揚げが最高じゃないか──?
ほうれんそうにも卵にも
しめじやにんじんさえも
じゅーっと染み出た味が
よく合って──
うどんの味はどこまでも豊かにおいしくなる。
またひとつ
すごいことを知ってしまった夕凪──
みんなにも教えてあげたよ。
ところがなんと
麗ちゃんは!
フッと穏やかに──
まだ夕凪ちゃんは
知らないのね。
そう笑った。
教えてくれた秘密の
その正体とは、
おいなりとうどんを合わせて
食べること。
うどんを食べ進んでから
タイミングを見て黄金のおつゆに放り込むきつね色。
油揚げの味の染みたおつゆを楽しんだら
ごはんもいい具合に
おじやになっているという
この秘密──
麗ちゃんは
旅雑誌で見たというの。
なんということだ、
旅って
夕凪の知らないことを
まだまだ教えてくれるかもしれないんだね!
明日はお兄ちゃんと
スーパーにお買い物の旅に行きたいな。
いいでしょ?