星花

『旅路の果て』
電車に乗って長く果てしのない旅。
なかなかじっとしていられない子が多いので
長い旅は常にトラブルと隣り合わせ。
緊張と驚きの連続。
だけど今年の道のりは
念のため忘れ物の確認に車両に戻った小雨ちゃんが
降りてこないまま電車が発車してしまったこと
それくらい!
駅で待っていたらまもなく合流できたのは
麗ちゃんがとっさに駅員さんのところへ向かって話し
隣の駅に迷子の連絡をしてもらったことと
はしゃいでいたとっても小さい子供たちが
ちょうどおやつの時間にチーかまを大事そうに両手で持って
お兄ちゃんと食べながらいい子にしてくれていたから。
実は麗ちゃんはあまりにも動揺しすぎて
自分で何をしているのか記憶がないという。
覚えているのは──
何も見なくてもすぐわかるくらいにくり返し確認していた
乗り換え駅の見取り図。
駅員さんに連絡できる場所、
それが頭に思い浮かんだことだけらしいので
やっぱり普段とは違うように見える旅先でも
何気ない日頃の行動がものを言うというわけなんです。
そうなると、備えることは必要な行為であって
小雨お姉ちゃんが確認を怠らなかったのも
他の誰も気がつかないことに思い至った実はすごいことなのではないか?
などという話を吹雪ちゃんとしている道のりでした。
動揺しすぎたのと暑いので興奮したみたいに
いつもきれいな白い顔が少し赤く染まって
濡らしてよく絞ったハンカチをきれいにたたみ
ときどき顔を拭き、膝の上に戻しては
さまざまな仮説を提案していました。
きのうの夜、星花がお気に入りの本を持っていけないのがさみしくて
ずっと繰り返して読んでいた横で
早々にとてもコンパクトに荷物をまとめて
そう簡単には動じない心の準備もすでに万端だったように見えた吹雪ちゃんが
実際に出かけてみると落ち着かないらしいのは
不思議なことで。
しかもなぜか、やっぱりうろちょろうるさい夕凪ちゃんを見ていると
どうも安心するらしくて
旅先の気持ちは自分ひとりではなくて自然なことだとわかるからなのか
何度もそちらを確認してはほっとした表情をして……
あれはもしや目を離したら夕凪ちゃんのことだから
こんなに興奮して何かえらいことをするのではないか?
という心配だったような気もするけれど
ともかく、ばたばたしつつも人が多いところではしっかり離さず手をつないで
とうとう長い旅は大磯プリンセスホテルへと星花たちを運びました。
ついに来てしまったね、
すぐには帰れないずいぶんと遠くへ。
お兄ちゃんも、おうちに残してきた一週間のお別れをする大事なものたちへ
きちんとあいさつは済ませてきた?
そんな子供っぽいことはしないですか……?
だけどあんがい大切なことかもしれないんです。
気持ちの切り替えをして
寂しい気持ちがあっても新しい場所で楽しもうとするって
そういう約束を星花は
おうちで帰りを待っている関羽様と強く誓ったような
そこまで大げさな話でもないような……
ともかく、今はいちばん近くにいるお兄ちゃんと約束するをしなければなりません。
遠い場所へ旅に出て少し心細くなっても
星花はしっかり楽しいことを見つけ
良い旅行をしたと胸を張って帰るのだと
今のうちから宣言しておいて
きっと必ず、お兄ちゃんに
本当にそうなったねって言ってもらえる日を迎えるの。