観月

『解放』
真夏の海は、水着の海。
たくさんたくさんの人たちが波に濡れ、肌をさらし
水平線ひろがる大きな海では恥ずかしがることもない。
あんまり濡れた服では帰れないので
そうなったら着替えるか、夏場ならまあ乾くまで待ってもいいが
あらかじめ海水浴を予定して
準備万端でやって来たわらわの家族は
もちろんみんなが楽しみに選んで
自分のかばんに用意してきた水着。
布の少ない水着は小さくたためてかばんで場所をとらない利点があるのか
たためばあんまり変わらないような気もしてきたりするが
海のまぶしさに負けないように
色あいもかたちも華やかで女の子らしい水着。
小さい子も海を楽しみにしていたことは
きれいな水着と白い浜辺が似合う姉じゃたちにも負けないくらい。
かわいいやつを──
明るいやつを──
とっても似合いそうなのを
いっしょうけんめい選んだのじゃ。
海に来てしまったら観念して
誰でも水着にならずにはいられない。
勇気を出した人、悩んだ人全てを
一番似合う水着姿に変える
そんな力が海にはあるそうな。
夏の海にとらえられる。
わらわもついにただ一日だけ巫女のお役目も忘れて
清らかな装束を勢い良く真上へほうりなげ
白い水着になった。
砂浜をぽっくりで踏みしめ、素足でぱちゃぱちゃせざるを得ない姿。
こうなってはどんな言い訳も通用しない。
夏の暑さといい景色のために
わらわは海に遊ぼうとにここへ来たと。
兄じゃと手をつないで波にくるぶしを浸したら
水をはねさせて喜ぶことしかできず
だいぶ遊んでやがて引き上げの号令を聞くと
だだっこみたいにがんばって
人が減りはじめた景色にとどまろうとしたのも
大きな海があったから。
白い波のほうで
何か、誘うものでもいたのであろう。
小さいかにや貝の姿をしたものが
けむりを吐いてまぶしい景色を見せて
離れないようにしたのだろう。
寂しがりが誘っているから、またすぐに来ないといけない。
手をつないで連れてきてもらって
恥じらいもぜんぶ忘れて肌をさらし
帰れなくなるまで
打ち寄せる浅い波を受け止めようとする。