春風

『あなたのおそばに』
春風はいつも
寂しがりで怖がりで──
頼れる誰かのそばにいられないと
生きていけないの。
小さい子供のときから
海晴お姉ちゃんの服の裾をつまんでは
あとを追いかけて
ヒカルちゃんの手を握って歩いて
支えてもらっている。
そしてこのごろはもちろん
わがやのたった一人の男の人で
臆病な春風がこの世で一番信じている
愛する王子様がいなくては
胸の奥の涙が出そうな切なさが
いつまで経っても止まらない。
一目見たときから
永遠に変えることの出来ない運命を
知ってしまった──
そんな出会いをしたあなたへと
今年の暑い夏も
心地よくなる冷たい飲み物を運び
食欲があまりなくても栄養がつくものを探して
ときどきうちわで風を送り
汗を拭いてあげるふりをして
その姿のとなりに春風のいる場所を見つけようとしていた。
こんなふうに暑くなった日には
まだあなたのお世話のために
近くにいてもいいですか?
ああ、それにしても
秋の日々に王子様のそばにいられる理由が
だんだん少なくなくなるかと思うと
おそろしい!
積極的なみんなは
新しく覚えたお歌を聴いてほしいとか
百点のテストをもらってきたって
いつも一緒にいたいと素直に言えるのに
春風の百点点の小テストの解答用紙なんて喜んでもらえないもの。
どうしても──
まだ北風が吹く冷たさから守り
暖めてさしあげるには早い気がするし
私を必要としてくれる季節がもう少し続いたらな、と
夕焼けで赤く染まる時刻の早さが悲しいの。
王子様、春風はいつも王子様のことを思って
待っているから。
何か必要なことがあったら遠慮しないでくださいね。
あなたのための春風でありたいです。
心なしか秋の訪れよりも先に
冷たく不安なため息が増える女の子を
助けて挙げられるのはあなただけ──
どうか願いを叶えてください。