立夏

『うみのまち』
まぶしくて広いビーチ、
かがやく砂浜。
ママが育ったふるさとには大きな海水浴場があって
あついあつい夏になるとたくさんの人が
波打ち際ではじける水しぶきと、ひと夏の思い出を求めて集まる。
小さい頃からいつも、旅先は海って決まっていたから
たまには涼しい山のほうを目指して
ハイジのような緑の丘に囲まれる高原にも行きたい、
声が遠くから帰ってくるんだって!
いっぱいおねだりもしたものだ。
どうしてママの実家は海があるところなの?
また今年も海なんて飽きちゃうよ!
なんてね。
行けば行ったで誰より先に水着に着替えてめちゃくちゃ楽しむくせに
勝手なことを言うものだネ!
ちっちゃい妹たちは毎年必ず誰かが
一度も見たことのない新しい海を目を真ん丸くしてみている。
今年はもうそんなことはないのかもしれないけれど
でも、初めて勇気を出して砂浜と触れ合う波のもとまで歩いて
ひんやりして、だけど冷たすぎない包み込む海の水の感触や
おおきなうねりと
なんだかいつもよりまぶしいきらきらしているすばらしい光に
おどろいているのを見る。
何度体験しても知らなかったことを見つける
大きな海のそば。
にぎやかな青くて広い光の場所。
水の事故は怖いから、調子に乗りやすい立夏
ちゃんと小さいみんなのこと目を離さないで見ていなくっちゃ。
たくさん遊んであげて
たまにはこっちが子供みたいにどきどきしながら遊んでもらって
お姉ちゃんもこんな風にしてときどき海を見て育ってきたんだって
伝わるかな──
まあなんでもいいか。
そんな夏。
みんなが大きくなったら他の候補もいくつかふえて
お出かけする場所はいろいろあるけれど
今年の夏はママの地元で、うちの家族もだいぶ馴染んでるあの海。
いつものプリンセスホテルに一週間だよ!
そんなに泳いでいたらふやけてしまわないか?
だいじょうぶ!
だいたい毎年、3日も泳げば疲れきって
涼しいところでゆっくり過ごすほうがいいって感じにみんななるって
海晴お姉ちゃんの経験!
ええーっ
こんなに元気なリッカでさえ
海にはかなわないなんて!?
でも海晴お姉ちゃんが言うならきっとそうなんだろう。
本人は良く覚えていないけれど
そういえばホテルの部屋でとびはねて遊んでいた記憶も多いような?
氷柱ちゃんも旅行のことを思い出して
リッカは疲れてもうるさいって良く言ってるの。
それって疲れてないってことじゃない!?
なんとなくで部屋にいたってことでは?
なんだ、そうだったのか。
わかってみたら
今年は今までよりもいっぱい
何日も遊べそうな気がしてこない?
海でずーっと
たくさんの楽しい思い出だけを作り続けられる
まぶしい渚の女の子に生まれ変わる。
そんなことがあるかもしれないし
やっぱり無理かもしれない!
昔から住んでる土地だから、海ばっかりじゃなくてお墓参りにも行かないとね。
静かなお墓にセミの声が聞こえているの。
うるさいリッカだってたまには静かに手を合わせて。
ごせんぞさま、
元気にしていましたか?
いつも見守ってくれてありがとうございます、もちろんわかっていると思いますが
今日も子孫は元気にしています。
もはや元気すぎてそわそわして
疲れても止まらないくらいだし
誰にもどうなってしまうかわからないくらい
リッカたちはまるごと元気だけでできています。
何も心配しないでください。
この土地で生まれ育ったわけではないけれど
きょうだいみんな、ママがいたこの場所がダイスキでまた帰ってきました。
これからもうるさくなってしまってすみません。
リッカにこんなにたくさんのきょうだいと
いちばん好きなお兄ちゃんをもらえて
ありがとうございます!
みたいなことを
お墓の前で
大声で話し出して
また氷柱ちゃんにうるさいって怒られるのかなあ!?
オーノー!
お兄ちゃんは、リッカがあんまり黙っていることができないやかまし屋でも
もうわりとそういうものだと思って
あんまり気にしないで、いつまでも一緒にあげてね。
いつものうるさいおねがい、
これからもずっときいてください!