『時の流れ』
もうすぐ夏の旅行がやって来る!
荷物を選んでかばんにつめる忙しい日々は
まだなんにもできていないうちに
あっというまに過ぎて行ってしまう。
どうしても持っていくものを選べなくて
一人分の旅行かばんに入りきらなくて
あまりにもあわてるあまり
しかたないからもう旅行に行かないと
すねて宣言する子があらわれるのも
このくらいの時期はいつものこと。
お兄ちゃんに喜んでもらいたい
一番お気に入りの服が持っていけない、
というぜいたくな悩み。
気持ちはわかるけど
でも、支度ができていなくても旅行の日はやって来て
すねていたって出かけることになるのはまちがいない。
なんにも持って行かなかったら
着ているもので一週間を過ごすことになってしまう!
ということに気がついたら
荷物をまとめるのが苦手でつい時間がかかってしまう
こだわり派の乙女たちも
しぶしぶ荷造りに戻っていくの。
でもちょっと要領がいい子は
何人も声をかけておいて
今から服の貸し借りの話し合いをきちんとまとめ
自分の荷物は小さくしておく工夫をしている。
さらに頭のいい子は
普段着に洗ってすぐ乾く薄手のものを選んで
数も少なく、小さくたたんで持ち運べるようにする。
心配性の蛍は
そんな子たちが、肝心の交換の約束をした服をうっかり忘れてしまったり
夏らしい透き通るような薄い生地が夢中で遊んでいる最中にくしゃくしゃになってしまう
そんな事態を想像して
また荷物はふくらんでゆく。
小さい頃はやっぱり
旅行なんて行かないってすねるほうだったけれど
荷物がさらに多くなりますますまとまらなくなった今では
すっかりあきらめが悪くなり
時間いっぱいまで吟味をするであろう
そんな未来を当たり前のように見つけているんです。
だいたい蛍がちっちゃい頃は
まだお兄ちゃんと一緒に住んでいなくて
一番気合を入れてたった一人見てほしいこの世界でただ一人の人がまだいなかったのに
お兄ちゃんにかわいいところを見てもらえないから行かないなんて
いまどきの子はなんてぜいたくな!
そんなこと言ってたら
今までさみしかった分も蛍がお兄ちゃんをもらっていってしまうぞ、
なんておどかしてみたいところだけど
やっぱりそれはかわいそうだから
ちゃんとみんなで一緒に夏の旅行を楽しんで
会えなかった時期を埋めるようなお兄ちゃんとの二人きりの思い出を作るのは
とりあえず今年はみんなの知らないところでこっそりということにしたいと
今のところは考えています。
うーん、そうなると荷物が限られる分、ホタの得意分野である
かわいさ自慢の潤沢なコスプレのお着替えで大きな差をつけるのはむずかしいところ。
となると、今までにない経験が距離を縮めるチャンスとなるのではないか。
あたらしいこと……
苦手だな?
だけど、やらないわけにはいかないな。
荷物も何もなく
小細工も抜きで体一つで挑むのが理想の夏のスタイル。
成功する自信は全くないので
何もなくて当たり前、
うまくいったらラッキーだと
割り切る自分には──
なかなかなれないんでしょうね、やっぱり。
決めたと思っても何度も荷物をかき回しては
日に日にぐっちゃぐちゃになっていくかばんの周囲を見ながら
がっかりしたり気を取り直したりを繰り返して
そうしてホタはいつものように最後までばたばたしながら
また今年もみんなと過ごす楽しい旅行の日を待っているのだと思います。