小雨

『またあした』
2月10日。
今日は果南ちゃんのお誕生日です。
おめでとう!
それと、祝日の前の日ということで
立夏ちゃんは気合の入ったお買い物のために準備する
大切な日だと言います。
でもそれって結局、普通の日なのではないでしょうか……
やっぱり違うのかなあ?
夕方からたっぷり時間をかけて計画を練るの。
何を着ていくのか。
お目当てはどこにあるのか。
気分次第で予定変更できるのはどのあたりか。
最近お手伝いをしたりこの日のために取っておいたおこづかいをにぎりしめて
デパートのチラシを広げているんです。
何かすごいものを見つけたように声を上げては
小雨の腕を引き寄せて
どう思う? って返事をねだるの。
ええと……
立夏ちゃん大きい声だね、
としか小雨には言えないよ……
どうしたらいいんだろう?
迷っているうちに話は次に進んでいきます。
というか、最初から何の話をしているのかわからないし
どこに進んでいったのかも小雨にはつかめなくて
わからない通し
霧の中を手探り、
確かなことは立夏ちゃんの大騒ぎ。
同じものを食べているのにどうしてこんなに声の大きさが違うんだろう?
おかわりしたカレーの一杯分なのかな?
それとも重ねられたチラシの間にわりこむ下着の広告……
こんなに豪華な刺繍の下着を小雨なんかがつけたら申し訳なくていたたまれないと思うの。
立夏ちゃんは本気で検討しているみたいだけど
こういうところに気を使って、内側から違っているの?
見えないおしゃれも大事で
さらにその奥のもっと内側の
ここの胸の中も違うの……
明るくて前向きでまわりを元気にできる力がいっぱいでかがやいてる。
心はどこにも売っていないですものね。
立夏ちゃんだけの大切な宝物なのだと思います。
だけどバレンタインデーであげるのはなかなかできないもんね。
大人になったらちゃんと体の内側の目に見えない思いを上手に伝えることも
できるようになるとねがって
希望を持って
立夏ちゃんならもうすぐだよ、と
伝えてあげたいのに
どこからこんな話になったんだっけ?
小雨が勝手に考えすぎて道に迷いすぎたみたいで
いったい何から話したらいいのかまるで整理できなくて
そもそも、体中をぴこぴこ派手に動かしている立夏ちゃんには
こんなとりとめもなくてつまらない感想を聞いてもらえるのかどうなのか
うーん──
だから小雨は
立夏ちゃんなら大丈夫、と伝えるだけで満足することにしました。
これ以上のことは全然なんにもできないですから。
でもこんなに不可能だらけで手足ががんじがらめになったのと同じくらい
もう一歩も自分のするべきことさえも動けない小雨が
どうしても気持ちを伝えたいときって
何をしたらいいんだろう?
明日は立夏ちゃんに手を引っ張ってもらってついていくことになったんです。
ぜったい家の中にいてぼんやりしているだけだからって。
その通りなの……
きっと答えも何にも出ないで膝を抱えてうずくまっているだけに決まっているんです。
どんなに晴れた日でもそうなの。
出かけてもそんなに変わりはないかもしれないですけど
したいことがあるから
思い切って挑戦です。
明日の祝日は小雨にとっても特別な日。
本番はもう少し先だけど……
ちょっとは前向きに悩めるようになったら、と思います。
悩んでうじうじするのは結局同じなのかな?
あとは明日ということで考え事を打ち切って笑って今日を終える、
ということは小雨にはなかなかできないみたいだから
やっぱり困ったようにちょっとくすくす揺れているくらいで
明日を迎えることに満足しなくては、なのです。