氷柱

ネクスト』
今日の天気は雨。
大勢の人が行き交う道も
私たちの家の近くの裏山も
もれなく町中が雨。
朝早くに、庭でみんなで集まってのラジオ体操は中止。
室内でヒカル姉様が教える簡単なストレッチで一日がはじまって
そわそわ青空が窓から外を見ていたって
ざーっと降っては
そろそろやみそう──
なんて予想が空しいくらい
いつまでもぽつぽつ音を立てて滴っていた雨。
机に向かって課題に集中していても
どうしても耳につく雨粒の音。
耳を傾けていたら
思ったように進まないうちに、のぼった太陽は沈んでいく。
まだまだ31日まで夏休みは続く。
だからなのかな。
一日ずーっとしゃっきりしなくて
考え事の答えなんて全然出なくたって
まあこんなものかな、
そんな日もあるわよね、
なんてのんきに構えているの。
本当は無駄にできない貴重な時間。
誰にでも生まれながらに与えられた
貴賎を問わず平等の二十四時間。
忙しくても気をかまわなくても通り過ぎる。
明日になればもう少し
頭がすっきりするかもしれない
言い訳のくり返し。
ううん、今日済ませる予定だった勉強はきちんと終えたのよ。
そこはきちんとしておかないとね。
理由をつけて後回しにしたら、その時に大変になるのはわかっているし。
毎日必要とする知識は増えていくものだから
先送りにしたら、後で必要になる大事な時間がとられていく。
明日かあさってか、もう少し後になったら
私は一秒だって他の何も気にならないほど夢中になれることができるかも、
というか実際にあるでしょう?
毎日ずっとこの知識の海におぼれていられたら!
みたいな……
いや、おぼれたりはしないけど。
節度を持って、毎日を大切にすることが必要。
でもたまには
こんな時間がもうちょっと長く続いてもいいものなんじゃないかな、
というか
そんな希望さえ頭に浮かばないほど
目の前の何か
新しく踏み出した分野を見つめて
ふと水中から顔を上げたみたいに何の気なく時計を見たときに
ああ、
今日もはまりこんじゃったなあ
っていう経験。
ページを次々踏破して、広げた参考書を征服する快感。
最後に本を閉じたとき、
たどった道のりが今は胸の中で燃えている。
今きっと夢に本のわずか近づいたんだ、と
胸が熱くなる実感。
それはときどき錯覚で
たまに何かの機会に蘇ったように燃え上がるものもあって。
私は自分の歩んできた道を忘れない。
誇りを持って、進む先を自分の目で見据えてきた。
決意の通りに一歩も引かずに
私はいつも歩みを進めてきたのだから
ときどきは転んだり
踏み込んだ水溜りの水を高く跳ね上げることがあったって
自分で決めたことだもの。
落ち込んだり振り返ったり
うじうじ沈んだりするのは好きじゃないの。
そんなくだらないことで
本当ならもっと力強く迷わないはずの足取りをゆるめるなんて気にはなれない。
もう少し進んだ先には
また新しい見たこともない景色があると
私はもう知っているんだから。
小さな悩みが引っかかって手を止めて
ずっとやまない雨音に
世界が沈んだみたいに閉ざされている感じ。
ずっと変わらない場所に
このままいつまでも揺れている幻は
最初から叶うわけがないとわかっている妄想なんだから。
私はそんな夢を見たりしない。
意味のない無駄な時間を振り切るまで、私は強くならないといけないの。
立ち止まっている余裕なんて、私には少しもないと知っているはずだから。
ただ雨の音がうるさいだけ。
ちょっと顔を合わせると
つい、いつも過ごしている小さな毎日のことばかり思い出して
何を言ってしまうのか自分でもわからない
一人だけの相手がいる
ただそんな気がしているだけ。
気にする必要なんてない。
私には最初から悩み事なんてあるはずがないの。