ヒカル

『大きくなっても』
あれはまだ
手を離して歩くと迷子になるって
やんちゃで心配をかけてばかりで
ずっとまわりをはらはらさせていた頃。
長いお休みが始まると
あまりに果てしなく遠くに
休日の終わりを思っては
もうそんなにはるかな彼方の日なんて
決して訪れることがないのではと
少しの怖さも混じりながら
それでも、どんどんふくらむ心のうちは
きっと楽しむことでいっぱいだった。
夏休みを何度も繰り返して
今年もまた残りあとわずかとなった今も
始まるときのほんの一ヶ月前の気持ちを思い出したら
まるで夏休がまもなく終わってしまうことのほうが
ある寝苦しい暑さが消えない明け方の浅い眠りの中で見た夢で
その気になってぱっと目を覚ましたら
延々と先が見えない長い日々の途中なんだと
まだ高校生になってまで
そんな変な感覚がこっそり体の底あたりで
浮いたり沈んだり漂っているような……
さみしいのかも、そうでないのかも
自分の中ですっかり割り切れていない
──それが夏休みの終わり。
ずいぶん長く続いて
いっぱい遊んで
もういつ終わっても大丈夫、
新しい生活に進んでいけると
何度も確かに本心でそう言っていた
とても忙しくて大変だった毎日なのに
なぜか今になって
ぜんぜん具体的な提案は浮かんでこなくても
あとちょっと。
もう少しだけ。
なんて言葉が舌を動かしてするりと出て行ってしまいそう。
とっても楽しかったじゃないか。
いつだってへとへとになるまで立ち止まることなんか気がつかないほどだったのに。
まだ物足りない気持ちが残っているのかな。
それとも今でもまだ
終わらないお休みの中にいるみたいに
明日もこれからもずっと遊んでいられるって
もう夕暮れの庭へ向かい、日が沈むのも遠い先の話だと信じて
汗だくで走って行けるんだとどこかで思っているだけなのか。
秋が近づくと日暮れの時間はどんどん早くなっていく。
でも私はまだ
終わりが近いような変な気分を放り投げて
一緒にいたい人の手を強くつかんで
長すぎる夏の午後に
時間を気にせずに飛び出していってもいいのだろうか。
今日はまだ。
もう少しの間だけ。