観月

『プール』
そこは大きな水の都。
真夏の陽光とはじける青が集う歓楽の地。
どこを見回しても楽しそうな笑顔。
たまに迷子になったような気がして泣いてしまう間際の子供。
どうやら無事に母親とめぐり合えた様子。
いつも見ていてくれていたのじゃ。
心細いことなど何もなかったな。
ところで、世の中には
道をどんどんどこまでも行くと大きな海が広がっていて
そこからは船もたくさん出ていて
港の賑わいは夜もやむことなく続くという。
とおい彼方のお話。
波は岸に打ち寄せ、引いていくように
人々も流れる水のように旅立っては戻りを繰り返し
山奥と都市にできたさみしい小さな淀んだ沼の水も
招かれるように空に登って雲に乗って
やがて変える広い海。
遠いはるか彼方にあって
長い旅行でもしなければ見ることもないありがたい光景。
だと思っていたものが
まあだいたい似たような雄大な景色が
電車とバスを乗り継いで
あんがい近くにあったものじゃ。
世の中は広い。
探せばどこにでも望んだ通りに
何もかもがあるのかも知れぬ。
うむ。
暑い日は無邪気にはしゃいで
純白の清らかな水着もすべて脱ぎ捨てて
踊るように水をはねあげて喜んでもいい気持ちいいプールが
手の届く近くにあるだろうし
兄じゃがわらわの期待するとおり
身も心もきりりと引き締まる
神事に挑む覚悟に似た凛々しい衣装!
で、わらわの前に現れてほしいと話しても
あたかも昨夜、偶然に兄じゃがお風呂で氷柱姉と出くわしたときのように
言葉も出ないほど狼狽しなくてもいい
自慢の二人でプールを泳げたらな、
という願いも近く叶うものであろう。
今日は心地の良い水辺のにおい。
潮風よりも少しおとなしい
たぶんこれも大きな海から分かれたかけら。
吸い込むと胸を満たす、命の源。
そんな場所に来たのだから
今日はもう小さなわがままなんてひとつも言わないで
帰ってから、お庭で広げるプールのときのお願いに
ひとつとっておこう!
と、決めたものなので。
ちょっとぴちぴち、羽を広げるようなヒラヒラを増やしたハイカラな水着で
これはわらわに似合うものなのか?
蛍姉じゃのおすすめで
しょうしょう落ち着かない気がしても
今日は楽しく遊ぶのが
こんなにも広く、神秘の力を感じる場所に訪れた者の
真っ当な心得と言えるはずなので。
帰り道までは体力がもたなくて
兄じゃに背負われて帰ったことは予定外だったが
海晴姉が言うには、おでかけにはトラブルが付き物だというし。
みんなが無事に楽しんで帰ってきたのだから
氷柱姉の機嫌がまだ少し揺れているようでも
まあ細かいことは気にしないままでいるのが
楽しんだ日の子供の、夕方のお仕事。
少し眠った後だからなんだか少し目が冴えたよう。
兄じゃはどうであろう?
もしも眠れないまま同じ気持ちであったらいいのにな。
そうしたら少し文のやり取りもして
楽しかったと伝えることができたらいいのに。