春風

『相手にとって不足なし』
たとえ家族思いの
立派なライオンと、まっすぐ向かい合ったとしても
春風は胸を張って言える。
大切な家族を愛することなら
春風だって負けてなんかいないと。
こわいライオンがいくらにらんできたって
たぶん負けない。
大丈夫。
少しくらい震えてしまっても
いいんですもの。
春風は本当の気持ちをそのままに、まっすぐ。
負けないって言える。
それからまた、
たとえふわふわパンダや愛らしいペンギンや
ふれあいコーナーのかわいいモルモットの
きゅんとなるしぐさを前にしたって
ぜったい春風のほうが
王子様に愛されるようになるんです。
愛してもらえるよう
がんばってると
自信を持っています。
きっと誰にもわからない
人の心の中でも、
春風は──
必ず、思ったとおりに動かしてしまうんだから。
魔女ではなくても。
全ての願いがかなうわけではなくても。
ひとつだけ。
いちばんに願ったことだから、確かに叶う。
それだけでは、願いが叶う理由になっていない?
春風の思い込み?
でもこれだけは
春風は、いつか本当に起こる気がしているの。
運命の人と
もうすぐ出会えると知ったときの気持ちと
よく似ていて、
もうすぐだって気がするの。
うまく説明できないけど
胸の高鳴りで
本当だって思えたら
それ以上、信じる理由なんていらない。
不確かな未来のこと。
いつやってくるかわからない先のことを
信じるなら
春風の体を作っている何もかも
全ての細胞がひとつ残らず告げてくれるから。
きっとだよ、って知らせるみたいに熱くなっている
それ以上の理由なんて何も必要はない。
朝の占いも
暗い帳が落ちるごとに運命的に降る星の
あらゆる導きも、見抜けないこと。
それを春風は
一度、経験しているのだから
今度も間違いないはず。
だいたい、春風はふれあいコーナーと違って
いつでもOK。
二十四時間待っていて
触ってくれたらいつでも喜ぶ
あなた専用の動物園にいる、たったひとつだけの生き物。
ガラスや柵の向こうというよりは
おそらく
愛の巣を作って待っている。
たとえ、くじゃくが羽を広げるのがオスの役割だからって
女の子が少しでもきれいになって
好きな人に喜んでもらいたいと思うのは
不自然なことではないはずです。
我が家のいつもの行き先の
井の頭公園になるのか
それとも、ついに念願の
上野への旅路が叶うのか
そこはまだ春風には想像もつかないのだけど
一応、まだ行き先が決まったわけではなく
こうだったらいいな、という話し合いの途中。
王子様の意見が聞けるなら
みんなも耳を傾けると思うし
春風は
全力で味方をしてしまいます。
もう、一瞬も手を抜くことなく
あなたのすてきな願い
叶え!
ぜーんぶ
春風の祈りの代わりに
神様に届いて、
と──
願います。
というわけで、春休みの行き先はまだ決まっていないから。
今日のところは
気になる明日の──
これはあまり
期待するのは、つつしみ深くありたい女の子としては
どうもはしたない?
三倍返しなんて願っているわけではないの。
ただあなたの気持ちだけが届くなら
それは間違いなく、うれしいこと。
というわけで、これもひとまず
困っていたらいつでも相談してくれたら
当日になってから間に合うことなら協力できます!
と、春風のことを
困ったときもうれしいことがあったときも、いつも浮かぶ笑顔だなって
思い出してもらえたらと願うにとどめておいて
うーん、困ってしまいましたね。
ついに、かわいいあーちゃんまで
背中を丸めてほくほくしている王子様の隣で、愛くるしい寝顔。
寒い冬が戻ってきたような日が続いているもの。
いくら元気のかたまりだって
これでは、暖かなこたつの魔力に負けてしまってもしかたないですよね。
そろそろどうにか
本気にならないと!
のっそりしたこたつむりさんたちの増殖を食い止めて
もうすぐ春を迎える日々を楽しむお手伝いをする方法を
何か考えて
王子様がいきいきしていてくれないと
春風は少しさみしいので。
考えています。
あなたのことだけを。
それと、これから一緒に歩いていく新しいはじまりの季節を。
だんだん暖かくなっても、春風はいつもあなたのおそばで
変わっていく景色を見つめています。
ふつつかものですが、これからもどうかあなたの春風のことを
よろしくお願いします。