春風

『あなたの知らないこと』
小さかったあの頃の春風が
思い描いていた夢は
いつか王子様が目の前に現れて
私はその人へ愛を捧げ、いつまでも力一杯に支えていくのだということ。
少しだけ大きくなったら
簡単に夢は叶うものではなく
うまくいかないことがとても多いとわかるの。
思っていたような瞬間はやって来ないのかもしれないと。
それでも──
もしかしたらと心の隅で思い続けることだけは
いつまでも止まらないのではないかしら。
決して叶わないとわかった後でも
抱き続けた大切な夢は最後まで悲しい思いに塗りつぶされないで
ずっときらきらしたままでいてくれるんじゃないかと、
そういう忘れられない気持ちと寄り添いあって
私は大人になっていくのではないかと
一瞬考えてはまた忘れて、そのあとたまに思い出していました。
わりとあんがいとんでもないところから
夢見た瞬間はやってくるんですね!
そういうわけで運命の出会いを果たした春風は
思い描いていた楽しい毎日が本当は
想像もできなかったほど大変だと知って、
それと同時に、まったく思いつくことさえできなかったほど
にぎやかでいろんなことが押し寄せてくるものなんだと
朝から目を閉じて眠るときまでくり返し実感しながら過ごしています。
あんなふうに、いつか未来へつながる夢を見られる子供時代を
春風の愛するみんなにも経験してもらえるようにと願い、
一緒に遊んであげて、お話を聞いてあげて
そうしていられたら春風が幸せだと教えてあげたりして──
もちろん、春風が何をしたって全然関係なく
愛らしくてたくましい小さな妹たちは
自分の力で未来を見つけていくのかもしれない、
というか春風ができることなんてそんなにないんだろうけど
ともあれそうしたいというだけで
春風は今日も元気でいるのです。
ハロウィンもそろそろ準備が整ってきた段階。
春風は蛍ちゃんの仮装に自分の好みで口出しをして
無茶な要求で怒らせたり
この時期ならではのかわいいお菓子をみんなにいっぱい買ってあげて
たくさん怒られたりしています。
どうもイベントの時期になると、やる気にあふれる蛍ちゃんが頼りになって
春風とはまるでどちらがお姉さんか逆転してしまったようになる、というのが
たまにあるの。
もっとしっかりしないといけませんね。
でも、大きくなった今だからしてみたいことが山のようにある春風なので
多少は仕方がないんです。
王子様は叶えてみたい夢はあるのでしょうか。
それとも、夢に見た道を進んでいる真っ最中か、
あるいは春風があなたにすてきな時間とすてきな夢をさしあげられるのか
春風はそれをとってもとっても知りたくて
そして春風でもお手伝いができるのかどうかとっても気になっていて、
なんだか夢のようにきれいでにぎやかな景色が
だんだんと街にもあふれていくハロウィンの頃に
春風はいかにもという感じのそれらしい魔法をいきなり手にして
あなたのために普段できないようなお手伝いをして
幸せにしてあげることができるのかな?
というところが気になっています。
普段できないことって何かって?
さあ、春風にもまだそれはわからないの。
しゅーん、つまらないですね。
でも王子様のためにできることがあったらという思いは
今日もまた変わらず春風を
あっちやこっちや、たぶん前のほうへと動かす力になるんです。