ヒカル

『猫の手』
コートを脱がすのは太陽。
北風じゃない。
力技でこたつからひっぱりだしても
目を離したらすぐ
もそもそ。
戻っていく。
そういうわけで、
蛍の目を見ると
これはどうも、私に期待するというよりは
誘い出して、ひきずっても
くたんくたんに力が抜けた体が
目を離すと消えてしまうから
意地になって。
私を呼んだみたい。
すでに押入れを片付けて
冬服をしまう場所を作ったのに
今のところはまだ
最近、さくらがかくれんぼで入り込んで
心細くて泣いてしまったほかには
誰も利用する気配がないすきま。
昨日、春風と見に行って
ここにそろそろ
寒い季節に鍵をかけて
押し込まなくっちゃあ!
あんなに鼻息が荒かったのに
今日は、あさひを膝の上に乗せて
ほんの少し前まで霙姉が使っていたはずの座椅子に丸くなっている。
こたつのメンバーから
ゆずってもらったものだという。
王子様が
すすめるから
いけないんだから──
ということらしい。
かくれんぼから出てきたさくらは
それ以来ずっと寂しさのあまりに動かないでいるみたいに
オマエを挟んだ春風の向こう側。
増え続ける
こたつの崇拝者。
誰もが、こたつのとりこ。
海晴姉が
このごろの寒さの前では
仕方ないか、と言ったので
気象に詳しいお天気お姉さんでも寒いんだから
これはもうお墨付きということでいいのではないだろうか。
いいんだろうか?
私の疑問を置き去りに
霙姉の、こたつ独立国宣言が発せられると
オマエが広げたクッキーの匂いに
ついに最後の砦である蛍が
呆然と……
ふらふらしながら
こっちへおいでと用意されていた場所に収まる。
あとに一人きりで取り残された猫の手としては
この状況は、どう対応したものだろう。
こたつから引っ張り出す手伝いをしていたはずが
とうとう、わずかな仲間もなくして
矢尽き、刀折れ。
私はあんまり
寒くても。
遊んでいたらすぐほかほかになるよ、って思うんだけど
こたつ……
入ってみたら
変わるのだろうか。
学校から帰ったときは
廊下まで走り出してきて、遊んでもらいたがる元気な家族が
ひねもす休日をまったり。
伸びをして、窓の外の寒そうな曇り空が目に映ったら
家の中にいられて
よかったー。
うんうん、と
もそもそした返事があちこちからやまびこ。
そういえば迷ったときにこういうのも買っておいた、
ホワイトデーの相談を受けたらしいみんなが
運び込む箱から
ほどかれるリボンが、こたつの上に広がる。
もしも今日まで困っていたら
これで助けてあげられるはずって
どうも、自分の好きなものを選んだだけみたいに
カラフルだったり
花柄だったり
深い貫禄があったりする
続々積み上げられていくおやつは
やっぱり、今日のために買ったものなんだから
今日のうちに食べてしまうのがいい、と。
言い出したのは
夢の国にいるみたいな顔をして
きょろきょろ忙しそうだった立夏の声だったんじゃないだろうか。
結局、誰も
明日からのおやつにとっておいたらいいって
思いつかなかったらしくて。
それとも、気がついても
言い出すのが惜しいような気がした、なんて
そんなことを考えて迷った子も
いるのかな。
このまま、知らないふりをしていれば
こっそり。
食べきれないだろう、
仕方ないなって
助けてあげるみたいな顔をして
潜り込んだ不届き者が
一人くらいはいたような
そんな気もする。
もし、後で見つかって
本当は──
言おうとして、言えなかったと
恥ずかしがって告白する家族が
一人いたとしても
あんまり責めないで。
たぶん。
覚悟を決めたら
反省してます、って
ちゃんと言えるはずだから。