吹雪

『データベース』

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観光ガイド、児童書、楽譜、
伝統芸能の研究書など……
図書室の蔵書は豊富で
部屋まで運ぶために、
何度も往復が必要なほど。
今日の午後からの私の仕事は
昼寝をする子たちを見ているだけなので
そもそも、そこまで本が必要ではないと
確かにその指摘は当たっている。
時間が来れば、遊び相手をする場合もあるはずだし
いずれ家事の手伝いも人手があったほうがいい。
小さい子をベッドに連れて行って、寝かし付けを担当した春風姉は
部屋の隅に本を積み上げていく私の姿を
ときどき感嘆の声を出しながら、口を開きっぱなしで眺めていました。
こんなにたくさんいらないとは私もわかっていたのですが。
それに、せっかく持ってきたって
部屋割りもまだ決まっていないというのに。
そして私たちの一番の仕事は、家族が同じ時間を過ごすことであって
一人で本を読んでいる時間もおそらくあまりない。
台風の影響で大雨になれば、外出の機会が減るからというのは
図書室から一冊、もう一冊と選ぶ言い訳で
おそらく、雨の場合でも家族で集まっている機会が多いと思う。
今日から私たちの家族旅行が始まったのだから。
この夏の旅行は、プロモーションビデオを撮るという目的もあります。
本に夢中になっているところを
気づかないうちに撮影されている可能性を考えると……
というのも、途中の電車の中で、
眠った子を撮影するときに立夏姉がそっと近づいていったのを見ていたので
今日の午後も何度も周りを確認して、集中できませんでした。
もしもビデオを撮る場合には黙って撮らないようにしてください。
一声確認してからお願いします。
事前の掃除は、図書室まで完璧に仕上げる時間はなかったようで
隙間にだいぶほこりを残していますが、仕方ありません。
ほこりっぽい場所が苦手な私でも耐えられる程度だし
本を捜索したい衝動を止めるほどではないのだし。
小雨姉の掃除に不満を感じているわけではない。
小雨姉は大変でしたね。
お疲れ様でした。
駅からの坂道を登っていくと
そこで玄関前で待っていてくれた小雨姉。
駆け寄って行く私たちを迎えながら
突然ぽろりと涙を流したときには
みんなが心配して大騒ぎになったものですが。
いつものようにゆっくりではなく、大急ぎで仕上げた掃除に
不安があったという話で。
管理人さんと二人の一日も、急な話で大変だったはず。
だいぶ緊張が続いていたらしい時間を過ごした小雨姉も
キミになぐさめてもらって安心したようでした。
もともと家は人が住まないと痛みやすいから
管理人さんが手入れをしていたといっても
急に20人も生活できるような環境にするには苦労が多かったと思います。
行きの電車の中では、小雨姉がいないことを気にして
ビデオカメラを回してはしゃぎながらも
なんとなくまだ旅行が始まったような実感がないような話をして
早く会いに行こうとなんとなく落ち着かなかった私たち。
やっと全員が揃って、これからが家族旅行の始まり。
保養所の玄関に到着して、小雨姉の話を聞いて
ぴかぴかに磨かれた家に飛び込んで、全員で揃って声を上げたときに
いよいよ誰もが旅行の
立夏姉が言うには
プロモーションビデオは
このあたりでタイトルが出る!
とのことでした。
雨に降られることはない道中でしたが
だんだん強くなってくる風は
静かになったかと安心していると、ふいに勢いを増して吹き寄せて
荒れた天気が迫っていると実感させるよう。
少ない着替えを持ってきただけなので、
着替えを希望する子は衣装室に飛び込んでいって
着心地が良さそうな普通の服もいっぱいあるのは、
私も様子を見に行って確認したのに
なぜか衣装室からはテレビで見るアイドルしか近いものがない
機能性に欠ける服を来た子が
次々と出てくる事態になって
氷柱姉は先が思いやられると、到着そうそう疲れたような顔でしたね。
移動中は気を使ったのだし、休んだらどうかと薦めても
雨や風が強くならないうちに、家の周りの様子を確認してくるからと
キミをひっぱって庭へ出て行きました。
止める人がいなくなって
その後どうなったのかは、私も話は聞いていません。
いつもよりも涼しい気温でしたが、
この季節なら、肌の露出が過剰に多い服でも問題はないでしょう。
私もこれから先の予想ができないはじまりになった気がしますが
今日は、全員が何事もなく旅行先に集合できた日。
まずは旅の無事を喜ぶことにします。
大きな部屋に布団を並べて、小さい子たちも集まって
はたしてこれからすぐ就寝できるかはわかりませんが。
私は一日の終わりを迎えた今、
安心して気が抜けたみたいに
いつもよりも重いまぶたを感じています。
知らないうちにはしゃいでいたのか、
今日一日、たくさんの用事があったキミが
ようやくここでそばにいてくれるからなのか。
見てもらいたかった本はたくさんあるのに
今は、同じ部屋で一緒に眠ってくれると思うだけで満足している。
もしも明日の朝、寝坊をする子が多かったとしても
きっとみんなが疲れている長旅のあと。
ゆっくり寝かせてあげてもいいと思います。
私もいつもより少し余計に眠るつもりです。
今日はお疲れ様でした。
おやすみなさい。
明日は、あまり強い雨にならないといいですね。