海晴

『リーダー』

近づく台風の影響で
昨日は夜からどんどん風が強くなった。
森に囲まれた保養所の窓からは
いつもより早い日暮れの色を迎えた景色に
強い風でたわむ枝が、見回す限りを埋め尽くす。
ときどき、さーっと降りしきる雨の音がすると
またすぐ強い風がかきけすように暴れだす。
やっぱりどうしても不安になる荒れた天気の上、しかも
初めての場所で迎えた夜。
ぐーっと伸ばした指の先にも、
疲れがたまっている重い感覚がある旅の一日のあと
眠りに落ちたらとても気持ちいいだろうと思うのに
布団に入って目を閉じても
ぐずぐずと考え込むように確かめている
明日の天気を占う激しい風の音。
みんなの規則正しい寝息に囲まれていても
どうも寝付けない気がしていた嵐の夜に
そっと眠りの霧の中に落ちていったのは
いつごろだっただろう?
目が覚めたときに寝ぼけ眼で見つけた家族たちは
ああ、白と黒と……
黄色とピンクと……水色と紫と……
目覚めたばかりの私の周りを
プリキュアがたくさん歩き回っている!
実際は、ママの事務所とは関係ないから
プリキュアに影響を受けた別の衣装だけど。
昨日はあんなに気になっていた突風も
ずっと強くなっているのに
気にならないほどの驚きの目覚め。
おはよう!
今朝は長女としては少し遅めの起床。
もう疲れも取れた!
ついつい不安になって、
難しく天気のことばかり考え込んでしまったのは、疲れていたから?
それとも私も吹雪ちゃんみたいに
考え深いかしこい子になる素質が?
いまだ発動をしていない知的な遺伝子……
それに覚醒した私。
みなさん!
数学を駆使した緻密な計算の結果、
今日の降水確率は10パーセントです!
そして、あなたが人生でかつて経験のない幸運に出会える確率は
私の計算の結果100パーセントとわかりました!
どうか、科学的に証明された複雑な理論をもとに
一日を明るく、
今日も元気にお過ごしください。
いってらっしゃい!
と、なるわけね。
そのへんの詳しいことはよくわからないけど。
ともかく、まぶしい朝日に目を開けてすぐ
わあ!
かわいい!
なにごと!
ドッキリ?
飛び起きた、旅行先で迎える最初の朝。
疲れてなんている場合じゃなかったわよね。
家族のおかげで一気に目が覚めて、飛び込んでいく
なんだか華やかな景色。
その後、私が管理人さんと話し合って、万が一の場合の避難場所の確認や
非常食の点検をしているうちに
妹たちと弟くんは衣装室に集まって
プロモーションビデオに残す家族の楽しい思い出に
新しいページをすごい速さで重ね続けていったそうね。
いいわね!
今日も外では突風が吹き荒れて、
急に怖い音を立てたりするので
露出の多い服を着た誰かが、びっくりしてキミに抱きついてしまうなんてことが
やっぱりあった?
なかったなら
私がいれば、そんな思い出一番乗りだったのに。
まあ
プリキュアっぽい衣装は無理だけど……
いろいろあるものね。
私に似合う服も。
衣装室の品揃えはどうだった?
ママに好きな服を使っていいと言われて
その変わり、守るべき決まりは
ちゃんと自分たちで洗濯して、もとのように片付けること。
私たちの旅行なので、これから先は
管理人さんは、たまに家事のお手伝いをするだけ。
洗濯なんかは自分たちでとママからも聞いているらしい。
みんなが好き放題に引っ張り出して、試着していたみたいだけど
ちゃんと片付けできるのかな?
明日は早速、このあたりは夏の暑さが戻るいい天気になりそうな予報。
みんながお洗濯をしている間に
私も自分の衣装を探さないと。
似合うかどうか見ていてくれる男の子が近くにいてくれたら
うれしいんだけどな。
私の着替えを見ていい男の子は、この世界にひとりしかいない。
それで、キミの明日の予定は?
今日は年上の子が協力して食事の支度をするから、
衣装室にあるのを探しておいてと頼んでおいたエプロン。
春風ちゃんが並べたのは
胸にピンクのハートマークが
大きなのが一つ、だったり
スキップみたいに並んで三つ、だったり。
海晴お姉ちゃんは長女だから大きな一つ、
みんなでおそろいにしましょう、
と春風ちゃんは盛り上がっているけど
そうするとキミのエプロンもハートマーク。
ヒカルちゃんと同じハートの数。
春風ちゃんも気がついたときは
ヒカルちゃんだけずるい、だって。
自分で用意したのに。
というか、それより弟くんにもハートマークって。
かわいいと思うから私はいいけど
キミはちょっと抵抗があるわよね?
まったく。
案の定、今夜もハートマークの弟くんのまわりを
かわいいかわいいって喜んでいる子ばっかりで
ちっともご飯の支度が進まない。
プロモーションビデオの記録が膨大な量になったのはいいけど。
キミもみんなのお手伝いをする一日で
似合うかどうか見てあげて
なかなか自分の服が選べなかったみたいだし
明日は、二人でゆっくり。
今日の服選びでは体験できなかったようなことも
私ならなんでも許してあげるから。
もっともっと、ビデオのデータを増やしていこうね。
それから、明日の予定になりそうというか
気になっていることがもう一つ。
吹雪ちゃんがどっさり本を積んだ部屋は
みんなが集まるようになって
読書室というか
くつろぎの部屋というか、そんな感じで
図書室からどんどん本が運び込まれている。
芸術の棚にあった写真集も
少々過激な芸術が結構あったりする。
芸術に興味を持つきっかけになるならいいのかな。
小さい子もみんな大きな絵本をいっしょうけんめい抱えていって
部屋にいるお姉さんたちに読んでもらおうとする姿はかわいいけど。
あの部屋がすっかり本来の用途で使われないのは
まあ空いている部屋だからいいとしても
ちゃんと帰るときには元通りにしていくってわかっているのかしら?
だいぶ本が散らばってしまった部屋。
あんまり過激な写真集がいっぱい転がっていたら
いざというとき頼りになりそうな
氷柱ちゃんや麗ちゃんが手伝ってくれなくなっちゃうかもしれないわ。
というのは冗談だけど
少しづつ片付けるように言ったほうがいいかもしれないね。
でも巣を作るみたいにしてみんなで好きな本を運んでいく様子は
なんだかほほえましい。
手間をかけて秘密基地みたいに作り上げた環境を
すぐ壊すようにとはなかなか言えないし。
どこにいても、やりたいことを見つけ出してしまうものなのね。
元気いっぱいの家族が揃った旅行。
今夜もまだ風が強くて少し怖いけど
明日の朝になったら、私はまた元気に起きていけそうな気がします。