立夏

『はりきっちゃお』
リッカとあそんでほしい子、
あつまれ!
ヒカルお姉ちゃんは今日も
子供たちといっぱい遊んでおつかれ。
だったら次は
体力に自信のあるリッカが
お仕事を引き受けるしかない!
明るいことと
がんじょうなことしか取り柄がない子が──
ついに、ごはんの味見や
つまみぐいばかりでなく
みんなの役に立つことができるかもしれない──
今、季節は運動の秋。
こんな時には
立夏
はりきらなくっちゃあ!
それに、みんなと遊びたいこと
いっぱいあるし、
体を動かした後はなんでもおいしいし、
ここで運動しなかったら
立夏はいつ、
なにをするというのか!
だらだらするだけの日も、終わりなのだ──
それにそれに
なんだか今までとことんだらだらしてきたような
言い方をしたことからもわかる通り、
そろそろ体が
いい汗をかいて
肉を落とせと
言っている気がするな──
いや、そこまで厳しくはないかな?
もうちょっとやさしめに、
立夏ちゃん、
お肉を落とすのに
うってつけの季節が来たよと
ささやく声がある──
そんな感じ!
まあ、なんでもおいしくなるのは
この際置いといて。
ここに
体を動かしたいリッカちゃんがいるよ!
誰でも大歓迎、
いまなら特別に
やる気いっぱい、
なんでもする!
ごっこの鬼も
とびばこの下になるのも
鉄棒だってなわとびだって──
難易度が高い技でも、
体を動かすなら
できないことはない──ような気がする。
この機会を逃すのはもったいないよ──
立夏がわくわくしているよ──ね、一緒に気持ちのいい汗を流そうよ!

真璃

『うつくしいわ』
マリーはまだ小さいから
審美眼もたいしたことないけれど、
わかることだってあるわ。
人の心に
忘れられないものを残してくれる
喜びや愛おしさ、心震えるすべてが
芸術だというのなら──
この秋──
みんなを思って
春風お姉ちゃまが一生懸命に作るお料理や、
霙お姉ちゃまのおすすめする本、
さくらや虹子がヒカルお姉ちゃまに
いつも遊んでくれるお礼で描いた
似顔絵と同じくらいに──
私たちを思って、
へとへとになるまで
体を動かして遊んでくれた
ヒカルお姉ちゃまのすてきな寝顔もまた
疑いようもなく
芸術であることを
マリーは知っている。
体力に限界がない
子供たちが
甘えてばっかりで
ついに、ヒカルお姉ちゃままでも
倒してしまったわ。
こんなことってあるのね──
遊んでほしいちびすけたちのおねだりは
まだまだ止まらないのかもしれない!
暑い日は続くけど、
秋らしく涼しい時間に出会うことも増えて
これから、わがままな小さな妹を持つみんなは
どうなっていくの!?
マリーは考えたんだけど、
秋のお楽しみは、芸術もあり、そしてまた
行楽もあるというわね──
あら!
これって、なんだか
マリーがお出かけをおねだりしているみたいになってしまうわね。
でも、まあそれでもいいか。
かわいくて元気な家族に囲まれた
わたしのすてきなフェルゼン──
マリー、こんなにいい季節に
おでかけに行きたいわ!
世の中が大変で、簡単なことじゃないかもしれないけど
秋めいた気持ちの良い風が吹くと
つい、願ってしまう。
どこだっていいのよ。
ちっちゃい子たちにも
広いところへ連れて行って疲れさせるくらいのこと、やらなくちゃ!
マリーも──あなたと一緒に、行き先を考えたい気分だわ。
今、みんなや──フェルゼンと、そんなふうに過ごしたいの。

ヒカル

『ヒカルの秋』
ふわああ──
今日はずいぶん
体を動かしたな。
ちびすけたちも満足してくれたらいいけど。
9月も半ば。
まだ暑い日は続くけど、
よく見れば──
だんだんと
家族それぞれ、
いろんな秋を迎えようとしている頃。
走り回ることしか知らなくて
一年中まるで変わらないような私でも、
なんだか前より
心なしか、
体が動くようになっているのは
気のせいだろうか?
遊んでほしがっている
子供たちも──
転がるように駆け出して
楽しもうとする時間が
多くなったようにも見える。
しばらく相手をしてやったから、
今ごろはぐっすり眠っているか
おなかをすかせてキッチンのほうに向かったか、
それとも今度は芸術にも手を出すのか、
難しいことを知らない
私を置いて──
どんな秋を
これから過ごしていくんだろうな──
春風や霙姉たちと違って、
私ができることはあんまりないから
こうして運動の秋に相手をしてやれるのは
うれしいな──
この季節だけの
特別な思い出が作れそうだ。
妹たちも──
楽しく走り回ってくれたかな。
すっかり満足して
ベッドに入って、
そしてまた明日には元気な顔を見せてくれるような
そんな充実した時間を
一緒に過ごせただろうか?
ふわあ──
もともと頭を使うのに向いてないのに、
思いっきり動いた後だから
どんな疑問だって、もう私の頭では答えなんて出ないけど──
今日は、がんばった気がするぞ。
いつもよりもよく眠れたら、最高の日だな!

虹子

『センチメンタル』
どうしよう!?
なつがおわり
にじこが
かさねぎをするころ──
なんだか
さみしいの。
みんながおうちに
いつもいた
なつやすみがとうとうおわったから?
いしのしたを
ひっくりかえしても
もう、おおきいむしは
あまりでてこないから?
はるかおねえちゃんが
みんなにかぜをひかせないと
おりょうりを
がんばり
みんなでおてつだいするきせつ。
にじこちゃんが
あそんでほしくて
こまっている!
でもね、あきがくると
おんがく──
ごほん──
うんどう──
げいじゅつに
よいきせつなんだって。
にじこ、にさいだから
げいじゅつといっても
よくわからない……
そらちゃんにきいても、
あーちゃんにきいても、
げいじゅつってなんだ!?
とか、
あっばーだっだ!
とか、
ばぶー!
とかばっかりなの。
あっばーだっだ、と、ばぶー、は、あーちゃんだよ。
これはいけない!
みんなのために
にじこがどこかで
げいじゅつをまなんで
ちいさなこどもたちのおへやに
たいせつに、もちかえらなくては。
あきがきたら
いまこそ
あきらしい
たのしいあそびを
おぼえなくちゃ。
だれが
しっているだろう──?
このはがおち
かぜがふくひも、
ちっともこわくない
すばらしいあそびを。
きっと──
にじこにいつもやさしい
おにいちゃんなら
しっているかもしれないな。
むずかしいことを
しらないにじこ、
そんなきがするの!
おにいちゃんも──そう、おもうでしょう?

春風

『秋の予感』
夕暮れがやって来ると
ふいに──
とても昼間のうちは
想像もできないような
冷たい風が吹き始める。
私たち家族の住む街にも
秋が来て、
こんな風が吹く日を
よく知るようになるのだと思います。
あのぎらぎらした日が
なんだか寂しく、
切なく感じて──
でも、こんなに
一日の気温差が大きくて
毎日暑かったり肌寒かったりでは
おうちの子も
体調を崩してしまうかもしれないし──
おなかを出して眠ってしまう子だっていそう!
そわそわ──
このままではなんだか
寂しがっている場合ではない気も
してきます!
春風が見ていてあげないと
無茶をする子もいそうだし──
でも、春風だけでは
あまりたくさんのこともできないし
みんなを見守る大変な仕事も
うまくいくかわからないし──
どうしよう!?
センチメンタルな小さい秋の気配が
すぐそこまでやってきているというのに、
春風の気持ちは
どうも激しいまま──
じっとしていないで、
あまり静かな季節を迎えるのを
待っているようでは
ありません。
うーん、昔からそうだったかしら?
年を取って心配性になったのかも?
それとも、守る人が
増えたことで──
春風もだんだん変わっていったというの?
まあ、考えても
落ち着くわけではないし──
薄着の子がいないか
きびしく見て回る方が、
春風は落ち着くかもしれないわ。
誰も風邪なんか
ひかせたくないんだから──
うーん、でも、もしも
こんなにうるさい春風が
今度はもしも
守ってくれる人が現れて
全部身を預けてもいい時が来たら
また何かが変わっていくのかな?
──まあ、そうなったら
そうなった時の事。
今はまだ──
そんな春風を誰も知らない。
やがて来る時を
待つだけ──
きっと、これから長い夜を過ごすことになる秋には
読書とか
芸術とか運動ではなく──
落ち着きがなく、
何かを待ちきれず、
いざとなったら自分から迎えに行きそうな
そんな秋。
静かで少しだけ意地の悪い寒さの風が頬を撫でる季節が
もうすぐ──やってくる気がします。

氷柱

『運命のうさぎガール』
べつに!
さくらの腕立て伏せができて
一番喜んでいるように見えるのが
私だなんて──
ただのうわさ話で
本当のことじゃないと思うから!
勘違いしないでよね!
それはまあ、小さな家族の成長を
喜ぶのは当たり前だし──
大はしゃぎしているようでも
不思議じゃないと思うわ。
でもね。
まさか私が
人前で──
気持ちを全部さらけ出して
何もかもばればれだなんて
うかつなことをするはずがないって
よくできた下僕なら
そのくらいのことはよく知っているわよね?
こほん。
というわけで
つまらない脇道はこのくらいにしておいて──
いよいよまた
さくらちゃんに──
これから本当の
試練の時がやって来るわ。
体を鍛え、
みんなとよく運動して
いっぱい遊んだ後の
鍛えぬいたさくらは──
今日、お月見のおだんごを
みんなのところに運んでくるというわ。
しかもホタ姉様は
うさぎの格好までさせるという──
さくらちゃんの努力を
私はよく知っている。
それでも──
いつでも、うまくいくなんて
どれだけがんばったって
誰も約束してくれないんだから
もしかすると──
こんな時に限って──
だから、もしうまくいったら
少しくらい喜んでしまうのだって
普通だと思うわ。
誰にでもあるわ。
よくできた下僕なら見て見ぬふりくらいできるわよね?
そうなるといいけど──
え?
着替え?
なんのこと?
ホタ姉様が──全員分?
あなたも?
よくわからないわ。
何にも聞いていないんだけど。
いや──聞いた気はするかもしれないわ。
とにかく、私はそんなことは知らない。
知らないったら知らない!
ふーんだ!

観月

『さくらはつよい子じゃ』
今日もさくらは
一回も腕立て伏せをできずに
ぺったん腹ばいになっていたが、
すぐ立ち直り
めげずにまた挑戦するところが
大事じゃ!
家族みんなも見守っておる。
いきなりできるように
ならなくても──
一緒に遊んで
はげまして、
やがて一回でも
腕立て伏せができるようになったなら
自信もつくであろう。
お皿運びもかるがるこなすのは
もうまもなくじゃ。
わらわはすこし
修行もしておるから──
たまに出会う
特別なあやかしとはまた別に、
人の営みのおもしろさやおそろしさを
おばけのようにおそれたり──
神霊のようにあがめたり
そんなことも人間だったらするらしいとは
なんとなく聞いている。
いま、さくらの身の内に宿り
力を与えているのは
わらわのいまだあずかりしらぬ──
もしかすると、何かの名前が付いた
ものすごい現象なのかもしれぬ。
それは実際に
何かにとりつかれたわけではないけれど、
みんなの見守る前で
おどろくような
さくらのがんばりを発見させるのじゃ。
こんなにも──
兄じゃの妹はつよいぞ。
あまり無理をしすぎても
いっぺんになにもかもできるようにならないし、
無理をしすぎるときにやってくるおばけも
いるのだろうけれど──
わがやには、ヒカル姉じゃのように
みんなを引っ張る
明るくまぶしい力を持つ子もいるから
さくらも、休めと言っても
なかなかきかぬのじゃ!
であるならば、なるべく目を離さないようにして
応援しているのがいいのだろう。
ぺしゃんこになっても
はらばいになっても
どれほどたおれようと
さくらの中の
よくわからないふしぎな力はなくならない。
いつかお皿を落とさない
りっぱなお手伝いになる夢を見ながら──
あれがわらわと兄じゃの
たくましい、汗だくな小さな家族の姿。
わらわはずっと──あの姿を忘れないであろう。
腕立て伏せができたら──みんなで大喜びをはじめるのじゃ。