観月

『さくらはつよい子じゃ』
今日もさくらは
一回も腕立て伏せをできずに
ぺったん腹ばいになっていたが、
すぐ立ち直り
めげずにまた挑戦するところが
大事じゃ!
家族みんなも見守っておる。
いきなりできるように
ならなくても──
一緒に遊んで
はげまして、
やがて一回でも
腕立て伏せができるようになったなら
自信もつくであろう。
お皿運びもかるがるこなすのは
もうまもなくじゃ。
わらわはすこし
修行もしておるから──
たまに出会う
特別なあやかしとはまた別に、
人の営みのおもしろさやおそろしさを
おばけのようにおそれたり──
神霊のようにあがめたり
そんなことも人間だったらするらしいとは
なんとなく聞いている。
いま、さくらの身の内に宿り
力を与えているのは
わらわのいまだあずかりしらぬ──
もしかすると、何かの名前が付いた
ものすごい現象なのかもしれぬ。
それは実際に
何かにとりつかれたわけではないけれど、
みんなの見守る前で
おどろくような
さくらのがんばりを発見させるのじゃ。
こんなにも──
兄じゃの妹はつよいぞ。
あまり無理をしすぎても
いっぺんになにもかもできるようにならないし、
無理をしすぎるときにやってくるおばけも
いるのだろうけれど──
わがやには、ヒカル姉じゃのように
みんなを引っ張る
明るくまぶしい力を持つ子もいるから
さくらも、休めと言っても
なかなかきかぬのじゃ!
であるならば、なるべく目を離さないようにして
応援しているのがいいのだろう。
ぺしゃんこになっても
はらばいになっても
どれほどたおれようと
さくらの中の
よくわからないふしぎな力はなくならない。
いつかお皿を落とさない
りっぱなお手伝いになる夢を見ながら──
あれがわらわと兄じゃの
たくましい、汗だくな小さな家族の姿。
わらわはずっと──あの姿を忘れないであろう。
腕立て伏せができたら──みんなで大喜びをはじめるのじゃ。