虹子

『めいろをすすめ』
いりぐちから
はいったら。
かならずどこかに
でぐちをみつける──
めざせ!
でぐち!
にじこはめいろをとくのが
じょうずなの。
だってだって、
こどもむけの
まちがいさがし
いつもかんたんに
といてしまう。
なぞなぞを
きいたらすぐ
こたえをあててしまう。
さがすひとをすぐ
みつけてしまう。
にじこのまえに──
とけないなぞはない。
ユキおねえちゃんの
ジグソーパズルを
おてつだいして
つくりあげてから
パズル
なんでもこい!
ちょうしがよいので。
おねえちゃんたちから
なぞときのほんを
たくさんもらったよ。
これは、おねえちゃんたちが
こどものときに
とけたなぞ。
そして
いくつか
とけなかったなぞ。
こたえはどこだ?
それは──
にじこのてににぎった
いろえんぴつがしっている。
めいろをぬけて、
またつぎのめいろへ。
にじこはきょうも
やすまずあわてず
かぞえきれない
なぞときを
つづけているの──

立夏

『おしとやかチャレンジ』
誰にも優しくて
相手のしてほしいことに
すぐ気が付くし
いっつも笑顔でいる。
困った人がいるところへ
必ずやって来て
話を聞いてくれたりもするよ──
ああ、みんなのあこがれ。
うるさくなくて
ばたばたしない、、
それはおしとやかなお姉さん。
海晴おねーちゃんは
お仕事もできるんだな!
春風おねーちゃんは
やさしいね!
みんなが注目する
霙おねーちゃんは──
おやつをくれるし
なでてもくれるし
遊んでくれる。
いったい
あの姿は
おしとやか?
女の子の夢見る理想像なのか
そうでないのか──
立夏は考える。
迷いがないように
自分の進む道を見つける
凛々しい後ろ姿は──
というわけで、ぬいぐるみが帰ってきたよ!
まるで千切れていた部分は
少しもなかった頃に
時間を戻して連れてきたかのよう。
わわわ!
こんなふうに
隠していた腕前があったなんて。
でも、霙おねーちゃんの針仕事は誰も見ていない。
もしかしたらおやつで頼んで
誰かに助けてもらったのかも──
みんなが心配していたぬいぐるみを助けてくれた霙おねーちゃんは
普段は真っ先に名前が挙がる
あこがれではないのかもしれないけれど、
本当はとっても頼りになる。
しかも同じぬいぐるみが
もう一つ元気にやってきた。
霙お姉ちゃんの抱っこする
右と左に一体ずつ、
増えた!
なんで?
誰にも見せなかった作業の間に
一体何があったのだろう。
謎は多く、
でもみんなが大好きな霙おねーちゃん。
あんなふうに
立夏もなりたいな!
お裁縫が下手でも
なれるかな?

『フローレンス』
女の子たちは今日も
それぞれの毎日を過ごしている。
全員が、必ずしも
穏やかなばかりではなく
具体的には──
昔の人が言ったように、
天使とは、美しい花をまき散らす者でなく、
苦悩する者のために戦う者である、というわ。
戦いよ!
そして、激しい前線にはいつも
情報収集が必要なの。
斥候を務めるのは青空ちゃんと虹子ちゃん。
小さいからどんなところにも入り込めて、
見つかってもごまかせる。
正直にスパイに来たとばらしても
あんなに可憐で愛くるしい二人を
捕らえることなんて誰にもできないわ。
その有能な二人からの報告によると、
どうやら霙姉さまは
誰にもその実力を見せることがなかった
針仕事の腕前を──
子供たちに披露してあげたそう。
小手先の工夫で
ごまかせる技術ではないことは──
普段からよくお手伝いを任される私たちなら
よく知っている。
みんなが子供の頃に
一度は遊んでもらった思い出のある
大事なぬいぐるみの修繕を
はたして実績のない霙姉さまに任せていいものか?
正しいのは
疑っている私たちか──
疑われる覚悟で行動を始めた霙姉さまなのか。
頼れる蛍姉さまや小雨ちゃんは、
任せてもいいんじゃないかって態度だから
たとえぬいぐるみを奪い返したとしても
上手に直せる自信のある子は
あまりいないみたい──
それとも、みんな
暑い夏が終わったあと
学校行事も家庭内のイベントも少ないこの時期に
暇を持て余して
盛り上がる機会を探しているのかしら。
まだまだ作戦は継続中で、
見張りは続けられ、
ぬいぐるみに何かあったら
いつでも取り戻しに行く準備はできている。
たとえ布と綿で作られていても
大事な友達を見捨てる者は私たちの家には一人もいないわ。
全員が助けてあげたいと思っている
傷ついたあの子の運命は──
これからいったいどうなるのだろう!?

『サイドバイサイド』
蛍が時間をかけて
見つけ出したお宝の中に──
まだ修繕の手が入る前の
ぬいぐるみがある。
さすがの蛍も手が足りなくて後回し。
むしろ家族を支えてくれている今でさえ
獅子奮迅の大活躍といっていいのに
これ以上を望むのはいけないものだ。
そういうわけだから
布が破れて綿が飛び出したぬいぐるみの
修繕は──
暇な人間が立候補する形となる。
霙が──
やってみようかなと言い出すのは
自然な流れと言っていいだろう。
ある者は
直すものと直されるものの邂逅を
運命と呼び。
またある者は
長続きしない
思い付きの気まぐれと語る。
日々綴られていく歴史において
全ての評は
きっと正しく──
何を真実とするか
決めようと奢るのは
後世に生きる人々の特権──
あるいは罪深さ。
おそらく私の気まぐれは
小さな混乱を呼ぶばかりの
ちょっとした話の種で終わるのだろうな。
それが成功するにせよ
失敗するにせよだ。
ある者は、破れたぬいぐるみを
私の小さな頃からの友達と考えているようだ。
またある者は
いつものんきに過ごしている姉も
得点稼ぎのチャンスを見つけ出したとみている。
だが、ありとあらゆる
この宇宙を飛び交うすべての意見が一致する
ひとつの特異点が存在するならば、
それは。
霙が本気になった時の裁縫の腕前は
星の光も届かない闇に閉ざされて
誰も予想すらできないということだ──
数奇な事態に翻弄される
か弱いぬいぐるみの明日の姿は
いかに──というやつだ。
うーん……本当にどうなってしまうんだろうな。
やるだけやってみるとしよう。

『ライフカーニバル』
生ごみ
可燃ごみ
雑誌に新聞紙、
プラにペットボトル、
それからこちらは
牛乳のパック。
すぐに捨てるようなものは
多いけれど──
蛍の目はまだまだ使えるお宝を
見逃すことはありません。
洗えば使える
しっかりした入れ物、
湿気取りに押し入れに敷く新聞紙が
ちょうど足りなかったところだし
小さく切ってメモに使える白紙も
子供の工作で一緒に遊べる材料も──
この手にかかれば
たちまちのうちに生き生きと命を吹き込まれていくはず。
捨てるものが減っていけば
自然と片付くのも早くなって
蛍は今や
みんなが片付けを見に来るほどの
整理整頓のお手本になるお姉さん。
いったいいつからでしょう?
ちっちゃなころは
いたずらばっかりで散らかして
怒られていたような気がするのに。
面白がって掘り返すごちゃまぜの山は
いつのまにか
隅々までよくわかっている友達のようです。
このあたりに
まだ使えるものを隠し持っている癖も──
昔のままですね、
なんて。
あの困った子供が
実は発掘の才能を開花させ
片付けも得意だったなんて
誰が想像したでしょう?
実は後継者に目を付けている子が
何人かいるんです。
散らかすのが得意で
落ち着きがなくてうるさくて──
いったいどの子が
期待に応えてくれるのか?
鍛え抜かれた観察眼は全てを正確に見通すはず──
って、夢中になっているうちに
とうとうこんな時間。
日も暮れて手元もよく見えなくなって
においも──ちょっとするかも。
あーあ、調子に乗ってしまって
本当は時間の配分も下手で
自分のことすらうまくいかないのは
昔から変わらないまま!
お兄ちゃんには──困った妹がいます。
いつも大変ですね。
もう少ししたら、おいしいものをたくさん作るから
おなかがすいても、どうかがまんしてくださいね──

氷柱

『真夏のよう』
あつい!
久しぶりのような気がする。
もう9月も終わろうとしているのに
こんなに気温が上がってどうするっていうの。
まあ、毎年たまにあることだけど……
いつもならあついあつい言っているところへ
暑苦しく飛びかかってきて
余計に暑くなるから言わないようにと
あれこれいたずらをするふりではしゃぐ子供たちが
転がりあっている頃だけど──
今日はそれどころではないみたい。
しばらく需要のなかったアイスが
ここにきて急に求められ、
冷房の効いたキッチンに集まり
がんばるぞーって張り切っているのは
料理の腕には多少の自信がある子たちと、
この夏にだいぶアイスの作り方を教わって
できないこともなさそうだと気が付き始めた子たち。
そして──
面白そうだから集まってきた子たち。
暑い日だっていうのに、
むしろ暑い日だからこそなのか、
やっぱりここも
暑苦しい──
でも、気が付いている子は
まだ少ない。
いま、こうして暑くなった9月は
あることを
知っていなければならないのに──
なにしろ日が落ちるのが早くて
気温がすぐに下がるのも
真夏では考えられないほど。
それが今。
もしもアイスを作りすぎてしまったら
食べ過ぎた体は冷えて、
おまけに冷凍庫を圧迫する膨大な容量を残すことになる。
先のことを考えて自分の行動を律するのは
勢いだけの子供たちでは決して叶わないわ。
秋が来たことを私たちは知っている。
ちょっとアンニュイで肌寒くて
多少の物思いと長い夜の計画性が求められる──
まさに大人の季節がやってきた。
まったく、小さい子はまだ気づいていないみたいだからいけないわ。
でも、あんまり大人大人っていうほうが
子供っぽいんじゃないかって
海晴姉様なんかはときどき面白そうに笑ったりもするけれど、
別に準備をしておくくらい、
いいわよね。
そう思うでしょ?
タンスの中身もだいぶ入れ替わったこのごろ。
あったかさを考えつつ、この日のために夏の名残を残しておいたのも
計画性の一環というわけ。
え?
行き当たりばったりの行動を強がっているように聞こえる?
そ、そんなはずは──
まあいいわ。
あなたもあんまりアイスを食べて体を冷やさないようにね。
秋の日が暮れたら、
ちゃーんと
あったかくするのよ。

吹雪

『データ管理』
情報を集めることは
迷った時の判断の材料として
とても有効である──
その傾向があります。
かといって、常に良い結果を出せるかと言えば
必要に応じて取り出せるデータが
その時、本当に使えるものなのかどうか、
これは一律に基準を作ればよいと
言えるものではなく、
過去のデータ管理をもとにした
経験に頼ることになります。
たとえば夕食の献立を
相談されたとき、
好きなメニュー、
苦手なメニュー、
栄養があるメニュー、
栄養バランスをとるうえで
添えたいメニューなどを
家族の話を聞いて記録しておくだけでは
うまく使えるか頼りない。
苦手でも食べられないことはないメニュー、
これがあるだけで
他が苦手でもうれしいメニュー、
最近の献立の傾向、
また、準備の時間を考えて
用意できる範囲のメニューなどを
出来れば家族みんなが喜ぶように、
そしてなるべく時間に余裕を持てるよう
早めに答えを出す──
あまり急いで答えを見つけようとすると
みんなが好きで簡単なカレーの日
多くなりがちなので注意、
といったように
データの管理はいつも難しいものです。
キミは最近──
いいことがたくさんあった時の顔をしています。
それでいて
大変なことも多い時の表情がよくあります。
どうも家族でただ一人の
男性の毎日は
私が考えているほど単純なものではないらしい──
こんなとき、どうしてあげればよいのか?
一緒に喜んでいればいいのか。
何も言わないでそばにいるのがいいのか──
まだデータは蓄積を試みている最中です。
必要なデータを取り出す経験を積むのは
これからのこと──
試行錯誤する日々はどうやら、
私の生活も想定していたよりは簡単ではないのかもしれませんね。