青空

『でろんでろん』
でろろーん。
よくはれたひの
おにわでは
みずまきをするの。
かだんに
おみず。
やまにも
おみず。
みずたまりに
おみず。
せかいじゅうの
ぜんぶがみんな
おみずで
どろだらけ
でろでろ。
あるいてどろはね
はしってどろはね
でも、そらは
げんきなこだから
どろをはねあげるよ。
そらはばったを
おいかけたり
いいかたちのいしをさがして
つちをひっくりかえしたり
するものでしょう?
みんながどろに
まみれるころ──
あしから
あたまのてっぺんまで
はねたどろでまっくろで
もうだれだかわからない
そらができたよ。
このこは
だれだ!?
どろか!?
そらか!?
おふろにいれて
あらってみないと
わからない。
おにいちゃん、
せっけんのあわで
どろどろは
ぶくぶく
すっきり。
そのどろのしたから
なにがでてくるか
だれもしらない。

観月

『名月』
お月見は
いつの世も楽しいものじゃ。
普段はむずかしいお話が好きな
吹雪姉じゃも霙姉じゃも
わいわい言いながら
みんなで。
まんまるい月の煌々とした輝きを見つめて
よろこぶ気持ちは──
誰にとっても変わりはないと
信じられる時間。
あんまりみんながうれしそうだから
あさひまで、心が一つになったようにはしゃぐのじゃ。
あさひにもわかるのか?
お月様は今夜もまぶしいと──
立夏姉は夜空も見ずにお団子に夢中だが
そんな楽しそうな家族の姿を見るのも
とてもうれしい──
こんなに良いものなら
毎日毎晩でもかまわないのに
でも、一年に一度の美しさだから
感じることもあるのかもしれぬ。
ほら、見上げればやはり
今年の月は、
今年は──
あ、あれっ!?
もくもくのくもりで
厚い雲に覆われて
なーんにも
さっぱりなにも見えぬ!
そ、そんな──
せっかくみんながうれしくなる
この日を──
わらわは楽しみにしていたというのに……
もう、こうなったら
やけ食いじゃ!
おだんごがおいしいのが
まだしもじゃ!
立夏姉じゃの気持ちがわかるよう──
ああ、おいしい。
ふー。
まあ、家族で見られる夜空は
来年もこれからも
まだまだあるからの。
なにしろわらわはまだ五歳。
これから先もずっとずっと兄じゃといられるからな。
大きくなって、五歳の時の観月は
お月見ができなくてわんわん泣いたと
毎年毎年言われるようなことになったら
困ってしまう。
兄じゃも──
今年のわらわのつまらなそうな顔や
お団子ばっかりに夢中だったぷくぷくのほっぺは
見なかったことにするのだぞ。

小雨

『心配事』
今日も!
小雨は
わたわた
あたふた──
落ち着きがない。
なぜって言えば
今が、タンスの入れ替え時だから
なのです。
昼間はあんなに
日差しが強くても
なぜでしょう?
帰る頃には
鼻水を出している子もいるほど
気温の変化は
わかりにくい。
いいところといえば
洗濯物や
長い間押し入れにしまってあって
かびくさい……ような……
そんな服を
ぱっと乾かして!
ぱっとしまえる!
うっかり干したまま忘れてしまうことも多い
小雨にはありがたいです。
みんなで靴を洗って
すぐ乾いたって見せあうのも楽しいし
よく晴れる日は、
夏が過ぎてプールやアイスの季節じゃなくなっても
いつだってとってもいいものです。
でも、みんなが
半袖でいたら
すぐ困ることになるでしょう?
たいてい、そのまま服を羽織ったりもしないで
遊んでいたい子供ばっかりだし
せめて寒い風が吹くのに気が付いたら
取り出せるように
タンスの中を片付けておきたいし
小雨もそのお手伝いをしたい。
でもそれが
小雨には難しい。
物置へ行けば
お部屋へ呼ばれ
お部屋にいると
物置に用事ができて
小雨はいつも
どうしようって泣いてしまう。
だけど、そんなことを言っていたら
何もはじまりません!
今日もみんなは
暑がって寒がっては助けを呼び、
呼ばれた小雨は
すべってころぶ──
また、いつもの秋の日がやってきます。

『秋の空』
今日も、空は高く
千切れて広がるうろこ雲。
汗ばむような日差しの中に
どこからか涼しく
吹く風があって──
いい天気の日は
ちびっこたちが庭へと向かうので
私は見ていないといけないの。
みんな、いつもは私のことを
ちびっこだって言うくせに
こういう時は都合がいいのね。
ルールもよくわからずに走り続ける
サッカーに誘われても
そんなにいつも軽快な服装をしているとは
限らないし、
おいかけっこもかくれんぼも
ほこりが立ってあんまり好きじゃない。
子供にこっちから細かい注文を付けるのも
何か違う気がするけれど、
まあ、できれば
棒を立ててのお絵描きや
キャッチボールにバトミントン、
これならどうにか
一緒に遊べるかな──
私も特別に運動が得意なほうではない。
でも相手はちびっこだから
山なりで投げ込む
ボールやシャトル
こう見えても──
子供が喜ぶように
適当に花を持たせるのは
できないわけでもないのよ。
それに、大はしゃぎをさせておけば
すっかり疲れて
家に帰るのも早くなるし、
子守の時間もそんなに長引かなくて済むというもの。
いくつも打ち上げる
スマッシュにお手頃の
お手本のような軌道──
今日は冷たい風で震える前に全員が家に戻ったわ。
空の色はまだ済んだ青。
雨の心配もない白いきれいな雲──
夕暮れ間近にどこで遊ぼうか
少しだけ幅広い選択の余地があるのが
年上の子が
一仕事を終えた後の──
悩みといったところ。
海晴姉さまによると、明日も天気は晴れのち曇り。
また騒々しい声が
どこまでも届きそうな
お庭の眺めになる気がするわ。

さくら

『あめはもう』
あめがふる!
だけど──
まよなかに
さくらのめをさまし
わんわんなかせていた
はげしいあめは
もうにどと──
ふらないの。
あついあついなつが
いってしまったあと、
にゅうどうぐもも
せのたかいひまわりも
つよいあめも──
あのなつが
まとめて
つれていってしまったよ。
これからさき、
すべてのあめは
もうこわくないの。
まどにぽつぽつ、
みずたまりにしとしと。
きこえるのは
やさしいおと。
おやすみのひ、
おそとには
でられなくても
おままごとをして
あそぼうね。
お兄ちゃん、おかえりなさい!
おそとのあめは
どうでしたか?
こわくなかった?
なかなかった?
ひろげたかさは
とんでいかなかった?
そうでしょう!
だって
なつがもうおわったのだから。
おうちのなかは
どったんばったん
あそぶこや──
かさねぎを
ひっぱりだすこ。
みんなはきょうも
ころんで
ないて
わらってる──
やさしくきこえる
あめのなか。
さくらも、あったかくしなくっちゃ!

夕凪

『やってきた!』
あの遠い
はるか過ぎて行った季節。
光はまぶしく
鳥は歌い
みんなの声が青く澄んだ空まで
届いていた日々のこと──
夏休みもついに終わってしまい、
夕凪はどうにか宿題を間に合わせ
読書感想文の大変さを
今でも時々思い出す
あのころのこと!
毎日お休みで
ときどきビニールプールも広げて
水鉄砲の打ち合いまでして
びっしょりだったというのに
お庭はすっかり片付いた。
台風が来るからなの?
殺風景になったようで
ひまわりの花もない。
ありを捕まえるためにひっくり返していた石も
転がっていないし
捕まえては逃がしてしまったかぶとむしも、
どこからかやってきてみんなを襲う
おそろしい蜂もどこにもいない。
ただ、見つかるものと言えば
次に植える花や野菜を迎えるべく
大きく広く
花壇をどこまでも伸びる
果てしなく長くて
底が見えないほど──でもないけど深い穴。
花壇に残っているのは
背の高いひまわりとは全然違う
小さな黄色い花びらが
ここにもあそこにも。
と、いうことは
夏が終わったショックで
気が付いていなかったけれど
そろそろ秋がやって来ると
そういうことになるのかもしれないよ!
お庭の木の葉は
赤く黄色く色を付けて
いい香りのかわいらしい花が
目立たずさりげなく
景色を飾るようになる──
テーブルの果物も変わり
三時のおやつも新顔が増え
やがて迎える
みんなのご飯の時間には──
ああ、もしかして
あんまり食べることもなくなった
甘いアイスや真っ赤なスイカ
食べ物の話を聞くことが
このごろ多いのは
消えて行った分の新しい楽しみが
食卓に増えていくことを
予言している
密やかな神秘の声──
夕凪、もっとみんなの間を
今日も明日もちょろちょろ回って
新しい話題をたくさん仕入れたなら
もしかして──
秋の予感をもっと楽しめるのでは?
お兄ちゃん、走り出した夕凪の存在感が
最近元気でどうもうるさくても
どうか許してあげて──
新しい毎日を
発見しているかもしれないの!

海晴

『答え』
今日も子供たちは
真剣な顔で考えている。
バニラ? チョコレート?
ミントにレモン──
答えの出ない難題だらけ。
でも、不思議に思うの。
私たちが子供の時も
あんなに一生懸命に
真面目な顔をして
あれほどまでに──
悩んでいたっけ?
かくれんぼか鬼ごっこかを決める
じゃんけんの時でさえ
絶対に負けたくなくて
紅潮した頬、
高鳴る鼓動、
熱く燃えるような声で
伝える大好きな気持ち!
あれはまるで
見間違いをしそうなほどに
恋をしているよう。
ああ、わかった──
子供の頃のあの気持ちを
私たちが忘れてしまうのは
もっと激しく心が揺さぶられる
恋をして、
もっと決して譲れない
大事なものばっかりが
心に増えていくということなのかも──
だってあの
真っ直ぐな瞳の霙ちゃんは
子供たちとは少し違って
真面目は真面目でも、
もうすでに一生を捧げると
心の中で覚悟を決めた
一人の大人の横顔。
今日のおやつにたくさん用意されたミニパンの
粒あんこしあん白あんうぐいす、
マーマレードやピーナッツバター。
人は大事なものを
見つけたのなら、
あんなにきれいな目の
魅力的な顔ができるのね。
私もまさか
大事な人と食べるおやつの時間を
絶対に外れない答えを見つけるために
どれならキミにも
最高に気に入ってもらえるのか──
考えながら素敵な顔をしているのだとしたら!
知らないうちにそういうことも
あるのかしら?
霙ちゃんも同じことを考えて
いい顔をしているのかな。
キミもときどき、
そんな目をしているような──
やっぱり今日も
答えを外したくないおやつタイム。
いい顔を
もっと見たくなる!