『名月』
お月見は
いつの世も楽しいものじゃ。
普段はむずかしいお話が好きな
吹雪姉じゃも霙姉じゃも
わいわい言いながら
みんなで。
まんまるい月の煌々とした輝きを見つめて
よろこぶ気持ちは──
誰にとっても変わりはないと
信じられる時間。
あんまりみんながうれしそうだから
あさひまで、心が一つになったようにはしゃぐのじゃ。
あさひにもわかるのか?
お月様は今夜もまぶしいと──
立夏姉は夜空も見ずにお団子に夢中だが
そんな楽しそうな家族の姿を見るのも
とてもうれしい──
こんなに良いものなら
毎日毎晩でもかまわないのに
でも、一年に一度の美しさだから
感じることもあるのかもしれぬ。
ほら、見上げればやはり
今年の月は、
今年は──
あ、あれっ!?
もくもくのくもりで
厚い雲に覆われて
なーんにも
さっぱりなにも見えぬ!
そ、そんな──
せっかくみんながうれしくなる
この日を──
わらわは楽しみにしていたというのに……
もう、こうなったら
やけ食いじゃ!
おだんごがおいしいのが
まだしもじゃ!
立夏姉じゃの気持ちがわかるよう──
ああ、おいしい。
ふー。
まあ、家族で見られる夜空は
来年もこれからも
まだまだあるからの。
なにしろわらわはまだ五歳。
これから先もずっとずっと兄じゃといられるからな。
大きくなって、五歳の時の観月は
お月見ができなくてわんわん泣いたと
毎年毎年言われるようなことになったら
困ってしまう。
兄じゃも──
今年のわらわのつまらなそうな顔や
お団子ばっかりに夢中だったぷくぷくのほっぺは
見なかったことにするのだぞ。