夕凪

『やってきた!』
あの遠い
はるか過ぎて行った季節。
光はまぶしく
鳥は歌い
みんなの声が青く澄んだ空まで
届いていた日々のこと──
夏休みもついに終わってしまい、
夕凪はどうにか宿題を間に合わせ
読書感想文の大変さを
今でも時々思い出す
あのころのこと!
毎日お休みで
ときどきビニールプールも広げて
水鉄砲の打ち合いまでして
びっしょりだったというのに
お庭はすっかり片付いた。
台風が来るからなの?
殺風景になったようで
ひまわりの花もない。
ありを捕まえるためにひっくり返していた石も
転がっていないし
捕まえては逃がしてしまったかぶとむしも、
どこからかやってきてみんなを襲う
おそろしい蜂もどこにもいない。
ただ、見つかるものと言えば
次に植える花や野菜を迎えるべく
大きく広く
花壇をどこまでも伸びる
果てしなく長くて
底が見えないほど──でもないけど深い穴。
花壇に残っているのは
背の高いひまわりとは全然違う
小さな黄色い花びらが
ここにもあそこにも。
と、いうことは
夏が終わったショックで
気が付いていなかったけれど
そろそろ秋がやって来ると
そういうことになるのかもしれないよ!
お庭の木の葉は
赤く黄色く色を付けて
いい香りのかわいらしい花が
目立たずさりげなく
景色を飾るようになる──
テーブルの果物も変わり
三時のおやつも新顔が増え
やがて迎える
みんなのご飯の時間には──
ああ、もしかして
あんまり食べることもなくなった
甘いアイスや真っ赤なスイカ
食べ物の話を聞くことが
このごろ多いのは
消えて行った分の新しい楽しみが
食卓に増えていくことを
予言している
密やかな神秘の声──
夕凪、もっとみんなの間を
今日も明日もちょろちょろ回って
新しい話題をたくさん仕入れたなら
もしかして──
秋の予感をもっと楽しめるのでは?
お兄ちゃん、走り出した夕凪の存在感が
最近元気でどうもうるさくても
どうか許してあげて──
新しい毎日を
発見しているかもしれないの!