吹雪

『再現性』
青空の豆まきが
うまく山の天狗まで
届いたようで──
今日は風が収まり
穏やかで温かい日になりました。
二月になってから
日々を重ね、
もう春になったような日差しも
ときどきは
私の姉妹を楽しませているようです。
しかし天狗の風に対抗するとは
どんな本にも書いていないことでした。
何事もやってみるものだと
感心している霙姉と──
ただの偶然だと主張する氷柱姉が
日向で議論をしています。
いくら同じ条件下で
もう一度繰り返しても
効果は期待できない、
迷信に頼るのは
科学的ではない──
しかしそれを言うなら
節分だってあまり科学的根拠はないし
鬼もいない──
おそらく、いないと思います。
それにしては
毎年ある程度の
豆まきの効果は見られ、
楽しい穏やかな日を
過ごすことができている──
毎日でなくとも
人間の生活に得難い
貴重な時間を見つけられたと
いうのであれば、
来年もまた
同じようにしてみんなで
科学的根拠のないことを
繰り返しているかもしれません。
あの暖かな縁側で
氷柱姉の膝枕を狙って
小さな妹たちはいたずらをはじめたようです。
おねだりすれば
聞いてもらえることもときどきありますから。
成功率の高さは考えず
試してみる価値はあると考えているのでしょう──
わたしがあの少し騒がしい場所で
これから読もうと思っているのは
観月から借りた妖怪や古い言い伝えの本です。
まだ知らないことがたくさん書いてある
どっしりと重みのある一冊。
確実ではないですが──
役立つ何かの知識が得られることを
期待しましょう。

青空

『おかわり』
あったよー!
まだまだ
おまめがあった。
ほたるにいったら
いっぱいでてきた。
おしえて
あげたからね!
おおかぜ
びゅうびゅう
ふかせる
わるものは──
こわいこわい
おやまの
てんぐ!
はっぱの
うちわで!
ながい
おはなで!
てんぐは
かぜをおこして
ひとをこまらせる。
わるいねー!
おには
おまめをぶつけて
やっつけた。
てんぐは
わすれてた!
みんな
うっかりしてたの。
だから、おやまに
おまめをなげるよ。
おにいちゃん!
そらをもっと
たかくもちあげて!
そうしたら
おやまにとどくまで
そらがちからいっぱい
なげる!
えいえい!
もっと、
もっとたかくだよ。
そらのなげるおまめは
ほたからもらった
いいおまめ。
おやまのてんぐに
とどくまで
もうすぐだよ──

『悩み』
あっ!
蛍ちゃんが
悩んでいる。
お兄ちゃん、聞いてくれる?
昨日の節分、
とても楽しくて
みんながんばってくれたから
今日はおいしいものを
食べてもらいたいと思うの。
多めに買い込んだお魚を
あったかつみれ汁にするか
ピリ辛南蛮漬け、
はたまたマリネで裏方として支え
力の付くお豆の方を
工夫してメインに持っていくか
考えているの。
ああ、悩まなくてすむような
お買い得がちょうどスーパーで見つかるなら
とってもいいのに!
あれ、欲望まみれになってしまいましたね。
でも節分は除夜の鐘と違って
煩悩を払うと言われているわけではないから
いいのかな?
やっぱり、だめなのかな──?
豆まきを特に盛り上げてくれたのは
鬼役として活躍した
星花ちゃん!
今日はカンフー教室で汗を流して帰ってくるであろう
愛らしいスポーツ少女。
力いっぱいに怖がらせる演技もいいし
たくさん豆をぶつけられたら
ついに逃げてしまうところも
かわいいの。
あんなにがんばってくれたら
なんでもお願いを
かなえてあげたい。
節分の福の神だって
たぶん同じ気持ち──
蛍には
それくらいのこと
わかってしまいます。
好き嫌いがない
星花ちゃんでも──
大好きなお兄ちゃんの好きなもので
お兄ちゃんが喜んでいたら
ちょっとうれしくなると
思いませんか?
ううーん──
あれ、ちょうどおうちには
晩ごはんで悩んでいる子が
いるような──
勘の鋭いお兄ちゃんは
そんな気がしませんか?

星花

『運命の分かれ道』
節分です!
豆まきをして
鬼を追い払い
福を呼び込む──
一年に一度の
大事な日!
みんなの一年分の
福のためなら
どんな方法をとろうとも
かまわない!
というわけで
くじびきをして
豆まき役と
鬼役をする人に分かれる
節分の夜。
二つに一つ──
まるでこの場で
今年の運命が
大きく変わってしまうかのように
豆まき役を引いた子は
ほっと安心し、
鬼役は
仕方がないから鬼になりきり
おどかして
今年の節分で誰より何より
一番に
怖がらせる!
鬼になる!
不思議と張り切る
そんな一日。
さて、星花はどちらのくじを
引いたのかというと──
えへへ。
……
明日から先のことは
誰にもわからないけれど、
みんなが一生懸命に福を願い、
悪いことも
もうなんにもなくなると
はしゃいで騒がしく
夜は更けて──
一生懸命お願いしたんですもの。
これで来年の節分が来るまで
鬼は来ないし
かわりにおうちには
天井までみっちりたくさん
招き込んだ福が
出番を待って積み重ねてあります。
二十人きょうだいの一年分、
いいことばかりを運び込みたくて
豆まきは行われます。
どこのおうちも
きっとそうであるように
私の家だって今日は特別な
優しい祈りがいっぱい。
みんなの心からの
大きな声が響いた──
まだ寒さに震え
春を願いながら待つ日が、
だんだん暖かくなる良い日々の
はじまりになるといいな。
どうか星花のそんな願いが
節分のお祭りのどさくさで叶いますように!

真璃

『ティンクルスター』
もしも人生で
たった一度!
いちばんのお願いを
どこかで使うとしたら
いったいどこで!?
何に使う!?
つい最近、
ユキお姉ちゃまが
そんな話を聞いてくるから
きっとどこかで
使う予定が決まったに違いないわ。
一生のお願い──
それは
いつものわがままな
自分を捨てて、
明日も明後日も
その次も
ぜんぶぜんぶ何もかもを
だいたい我慢するから
全てと引き換えでもいい、
そんな気持ちで
聞いてもらう──
特別の中の
またさらに特別。
決して軽いものではないわ──
そうね、マリーが使うとしたら
せっかくの一度だけ、
どうしてもというところを選びたいわね。
何と引き換えにしても
ほしいもの──
お菓子の家だとか
空飛ぶ馬、
眺めのいい天を衝くお城に
どんなときも友達でいられるきれいな薔薇の一輪、
迷うものだわ──
お夕飯の献立を
一度だけお願いしてもいいけれど
お誕生日のプレゼントに
お夕飯の献立を一度だけお願いできる権を持っている子は
実は何人かいる──
すぐに使ってしまったマリーと違って
今でも叶うとは限らない
とても大変な戦いの場所よ!
ユキお姉ちゃまのお願いは何かしら──
もしもマリーとぶつかってしまったら
ああ──
悲しいけれど
さすがに激辛カレーだけは
良い子のマリーでも食べられないし
そうでないといいけれど──
辛口くらいならがんばるけど!
女の子はいつも迷い
決める時を探している。
世界をさまよいながらやがて見つける
一生のお願い。
マリーはいつか──
全てを賭けたお願いをする日が来るのかしら。
そのお願いをする相手がフェルゼンだったらいいわね──
どうか心の準備をして待っていてね。

海晴

『相剋』
私たちの周りの
大きくゆっくり確かに動く
季節の移り変わりは
うまくできているもので、
これからもうすぐ
三寒四温を繰り返すうちに
ずんずんどしどし
春へ向かって
進んでいく。
寒くて凍える
冷たい冬の日も
身を寄せ合い──
その日が来るのを待つ。
あまりに冷たくて
信じられなくても
待ちくたびれて
あきらめても
ついに暖かく
つぼみがほころぶ時は
私たちの街に
いつか──
訪れると知っている。
なんだか小さい子が寒そうな格好でいるのを
おいかけたり捕まえたり
おしおきでひっくりかえしたりして
あんまり慌ただしい時間が続くと
もういつのまに
そんな時期に!?
って──
なることもたまにあるわね。
今日は久しぶりに暖かくなってよかった。
日なたにはのどかな顔が並び
子供たちは勝手に追いかけっこを始めて
何かよくわからないものを拾ってきてはうれしそうに見せてくれる。
なんだったんだろう──
まあそれはいいか!
家の中で遊ぶすごろくもお絵描きも
そろそろいらなくなるまで
もうあとわずか。
役目を終えたものを
振り返りもしないで
わくわくしながらみんなは出て行って
隣に寄り添いぬくもる姿も消え
少し寂しくなる春のはじまりも
きっともうすぐ──
帰って来るのを待っている人がいることも
すっかり忘れるかのように──
しかたのない
若い躍動する命たち。
いつでもまた胸に飛び込んできた時には
たくさん遊んであげて
おなか一杯食べさせて
ときどき小言もこぼす準備は
お姉さんたちにはできているんだから
好きなようにするといいわ!
キミももうすぐ
暖かい場所を探しに出かける時もあるのかしら。
いいよ!
季節は移り
めまぐるしい世界で
まだ寒かったって
震えて帰ってきても
ぽかぽかに変える用意をちゃんと整えている
家族はいつも
ここであなたを思っている──
変わることのないそんな人たちを
ときどきは
思い出してね。

虹子

『ぼうふう』
はしるはしる。
おにわを
かぜがはしる!
まどのそとを、
とおくのまちを
うらのおやまを
どこまでも
すごいはやさで
かけぬけて
なんでもふきとばしていく。
どうしてあんなに
ちからづよい?
よくたべるから?
うんどうするから?
それともほんとうは
なきむしで、
おにいちゃんに
あいたくて
すごいちからで
はしっていくの?
にじこも
よくみるよ。
さくらちゃんが
ゆうなちゃんが
はるかおねえちゃんが
はしっていく。
にじこもまけずに
おにいちゃんに
あいたいようって
それはもう
はやくはやくはしる。
みんなみんなが
おおきくなると
かぜになって
ものすごくつよくなるの?
もっともっと
ものすごい
いまよりずっと
ちからづよくなるの?
はしれ、
かけてゆけ
すごいはやさの
おおかぜ!
どこかへむかって
ちからいっぱいに──
たまには
ひといきついた
そのよこを
さくらちゃんや
にじこが
かけてゆくかも
しれないぞ!
まけるな、
すごいちからのもちぬしたち。
みんなで──
はしっていくんだよ。