氷柱

『凍った街』
寒さもいよいよ厳しく
風がびゅうびゅう強烈になる
今日みたいな場合
誰も外に出ることもできず
しっかり閉じた窓が震える音までおそろしく──
家の中で身を寄せ合って
過ごすしかないわ。
まだ寒い日が続くようだけど
このままでは買い出しに行けないで
とっておいたお菓子や
棚にしまい込んだまま忘れていた保存食、
なぜかたくさんあるチョコレートに至るまで
なくなってしまうのも時間の問題。
そうなったら少ない食料を
下の子たちに譲っていかないといけない場面や
おなかをすかせて取り合いになったり、
弾薬も不足し外部からの侵入も激しく
最後には追い込まれて屋上のヘリで脱出──
その時は立夏
チェーンソーを先に予約しておくんだって。
何か色々混じり始めたわね。
こんなに強い風なのに
春一番がまだ遠いなんて
なんだか嘘みたい。
手をさすったり
誰かの毛布に潜り込んだり
助け合ってなんとかやっていける日々は
もうすこし続きそう。
春の先触れになる
節分さえもまだやってきていないくらいだし──
いえ、今年は節分が一日早いから
もしかすると油断しているうちに
この家に訪れているなんてことも──?
考えてみたら
土日に寒くて買い物に行けなかったら
月曜にはなるべく準備をしておかないと
豆まきで張り切る我が家では豆の数が間に合わないかもしれないわ。
大変!
なんだかもしかして
ゆっくり家にこもり
たまには
ばたばた追い立てられて
思いがけず早いうちに
春は来るものなのかもしれない──
なんてね。
とにかく
寒い週末はなるべく外に出ない決まりになったわ。
わんぱくな子や
下の子のおねだりに弱い下僕が
約束を破らないか──しっかり見張っておかないとね。

春風

『あーちゃんのこと』
おうちのあーちゃんは
とってもかわいい。
お兄ちゃんのことを
大好きで──
すぐに遊んでもらいたがるところが
かわいいの。
大人になったら
とても甘えんぼうの
お兄ちゃん大好きな子に育つに
違いない!
春風とどちらが
甘えんぼうになるでしょうか?
それに、よく食べるところもかわいい!
好き嫌いなく
なんでもおいしそうに食べては
にこにこしている。
まぶしい笑顔は
わがやで一番の輝き──
誰にも真似ができない
すごい存在。
あんまりよく
食べるものだから
みるみる大きくなって
春風の背丈を追い越すまで
すぐのはず!
楽しみですね。
あっ、でもそうすると
体も大きく
食べるものも多く
山も谷もひとまたぎで
川でおぼれた羊もつまんで助け出すようになると
それはもう
今よりももっと食欲旺盛で
春風におねだりするようになるのかな。
これは
忙しくなりそうです──
どうしたの、あーちゃん?
王子様に
遊んでほしいの?
王子様もこれから大変になるかもしれないです。
今のうちから
たくさん体力をつけてもらって
おかないといけない──
あら!
春風は今日からもう忙しいのでしょうか?
外はちらちら雪まじりの雨。
このあいだの夕凪ちゃんの
しっかり元気いっぱいのおつかいがなかったら
みんなおなかをすかせていたところだわ──
もしもそれでも足りなくて
王子様も力をつけられなかったとしたら!
春風の責任だわ!
なんとなくそんな気がします!
うふふ。
あーちゃんは
今日も明るくてかわいい──
春風はあーちゃんや
王子様といられる
やさしいまじめな──
今よりちょっとしっかりした存在になりたいと
よく考えているんです。
この冬の寒そうな窓を見て震えている春風にも
叶う願いなのかしら?
よしよし、いい子。
あーちゃんといると春風はうれしいのよ──

あさひ

『ちゅうちゅう』
ちゅうちゅう
ぱっ!
けぷぅ。
──
ぶっぶ
あっばー!
ちゅっばっば。
ちゅう。
にゃーにゃ
ねーちゃ
あぶぅ
あぶぅ
おうにゃ!
もうもう
おぶうにゃー!
ちゅう。
(おいしいごはんも
 たべた!
 げっぷもした!
 あとは
 よくねむれるよう──
 あそぶだけだ!
 あさひとあそぶのが
 みんな
 だいすきだもんね。
 しってるよ!
 あさひもあそぶの
 だいすきだもの。
 おにいちゃんとおねえちゃんたちが
 だいすき!
 はやくあそぼうよ!
 ねむらないでまってる──
 ほらほら
 はやく──)

夕凪

『冬の魔法』
今日も明日も
夕凪の毎日は
特別な発見であふれている。
聞いて聞いて!
夕凪の知った
とんでもないこと──
それは
麗ちゃんの秘密。
とうとう知ってしまった。
前から思っていたの!
夏にはあんなに
みんなでおいしく食べた
おろしうどん。
しらすもあれば豪華すぎて
いつまでも食べられる。
もう終わらない──
無限の食欲が
夕凪をおそう。
まだ小学生なのに
こんなに世界の特別を知ってしまったら
どうなってしまうんだろう。
どこからともなく
やってきた天才、
魔法のアイデアを駆使して
家族の食卓を豊かにする!
そう信じていた
夕凪だったというのに
つい昨日、
んんっ!?
冬のおうどんは
油揚げが最高じゃないか──?
ほうれんそうにも卵にも
しめじやにんじんさえも
じゅーっと染み出た味が
よく合って──
うどんの味はどこまでも豊かにおいしくなる。
またひとつ
すごいことを知ってしまった夕凪──
みんなにも教えてあげたよ。
ところがなんと
麗ちゃんは!
フッと穏やかに──
まだ夕凪ちゃんは
知らないのね。
そう笑った。
教えてくれた秘密の
その正体とは、
おいなりとうどんを合わせて
食べること。
うどんを食べ進んでから
タイミングを見て黄金のおつゆに放り込むきつね色。
油揚げの味の染みたおつゆを楽しんだら
ごはんもいい具合に
おじやになっているという
この秘密──
麗ちゃんは
旅雑誌で見たというの。
なんということだ、
旅って
夕凪の知らないことを
まだまだ教えてくれるかもしれないんだね!
明日はお兄ちゃんと
スーパーにお買い物の旅に行きたいな。
いいでしょ?

さくら

『おとしもの』
うわーん!
うわーん!
……
さくらがまた
泣いている。
きょうはどうしたの?
さくら?
くすんくすん……
お兄ちゃん、
聞いてくれる?
さくらはかなしい。
でも、お兄ちゃんなら
ぜんぜん泣かないで
つよいとおもうの!
こぼしたミルクは
あたためてすぐの
ほかほかゆげのたつ
いちばんのホット。
こんなにあつくて
おいしいミルクは
どこにもないよ!
よかったねえ、
うれしいね、
って
はるかおねえちゃんが言ってた。
でもさくら、
おとしちゃった……
ゆげがたつ
じゅうたん。
からっぽの
マグカップ
お兄ちゃんに
こんなにおいしいミルクをもらったって
おしえたくて
いそいだら
こうなった……
かなしい……
だけど、おねえちゃんは
さくらもお兄ちゃんのいもうとだから
つよいよ!
またあっためるまで
まっていられるよ!
なんだって。
そうか!
お兄ちゃんの
いもうとだもんな!
でも……
やっぱりさくらはかなしくなっちゃう。
いったいどうやって
お兄ちゃんは
かなしいときもいられるの?
ふしぎなことね──
お兄ちゃんにだっこしてもらえると
かんがえる。
どうしておおきいの?
どうして
なかないの?
どうしてさくらは
すぐなくの?
うーん
ふしぎだな、
わからないことだらけだよ──

綿雪

『冬の上から下まで』
寒さはついに厳しくなって
お姉ちゃんたちがいつも
ユキの体を心配する。
ちゃんと──
気を付けないといけないよ。
ただでさえ体の弱い子が
調子を崩してしまったら
ずいぶんお休みしないといけなくなるもの。
学校にも行けなくなってしまう。
ところが
なんと──
お兄ちゃん、知っている?
ユキはどうもこのごろ
不思議と体調がよく、
不安なく眠れるし
何も怖いこともない。
春の来る頃には
普通のこと全然ちっとも変わらないみたいに
元気になっているんじゃないかな?
一人で勝手にそう思っている。
それとも意外と
みんなユキの顔色を見て
もしかしてと
思ってくれているのかしら?
念には念を入れてだけど
もしかしたら──
と。
冬の冷たい
まだ暗い朝、
すっきりよく眠った目を
ぱちぱち──
布団に包まれていると
どこからか明るい声がする。
ちゅんちゅん──
ちちち──
お兄ちゃんも聞いたことがある?
天使みたいにきれいな声。
音楽の時間に音楽室で聞くのと
どこか似ている踊るような──
それは小鳥のさえずり。
ユキよりも小さい体で
震えていたら寒さにも
あっという間に負けてしまいそうな
ささやかで
精一杯の声──
ユキは、元気になったら
あんなにかわいい声で歌う
小鳥たちをよく観察するために
白い息を吐きながら朝のお庭にも出てみたいな。
暖かく着込んで
わくわくしながら
生まれたての日差しを浴びに行く──
お兄ちゃん、ユキのわがままは
今年の冬のうちには叶うでしょうか?
今朝も聞こえた声は
お兄ちゃんと手をつないで目を閉じた
夢のあとにも──
明るくユキを待っている。
ああ、明日も早く起きれたらいいな。
お外に出ていく前に
もうわかっていること。
冬の朝はとてもきれいです──

観月

『冷たい雨はやがて』
ざあざあ
しとしと
ぽつり、
ぽつり
──
街を覆う雨は
もうまもなく夜になると
雪に変わり、
見渡す景色全てを
白く包み込むそうな。
毎日走り回った
いつものお庭も
手をつないで歩いた道も
まるで見たことのない
異国のような眺めに
すっかり染め上げてしまう。
そんな雪が
今年もやってきて
ついにこの夜──
みんなの街を変えてしまうという。
森を行くけものや
古きあやかしどもが
どこか人の知らぬ隠れ家にこもって
夜を過ごす頃──
暖房が効いたおうちの中で
あやとりをして遊んでいた子供が
ときどき窓にほっぺたを寄せて
すっかり冷えて戻ってきては
雪の降るのを待っている。
あの子らはきっと
いまだ人の踏み入れぬ景色も
足跡のない新雪
なんだかまるで
百年も待っていたみたいに
駆けだしていっては、
いろいろとわけのわからないものを抱えて
帰って来るのじゃ。
どうもひとごとみたいな
言い方をしてみたが
きっとわらわもよくわからないものを
また冷蔵庫に隙間を開けて詰め込みたいと
だだをこねるのかもしれぬな──
そう、あたかも
今日を逃しては
二度とこんな遊びはできないとでもいうように
競い合いながら
無茶をするであろう。
子供だからの。
そういうものじゃ。
兄じゃ!
今から窓に頬を当てて
見てくるが──
あんまり冷えていたら
温めてたもれ。
雪が降ったら
一番に聞いてたもれ。
兄じゃだけに
頼みたいのじゃ──