星花

『その次へ』
観月ちゃんは無事に
キュウビちゃんと出会えたようで
よかったですね。
人間の理を超越した出来事や
わけのわからないパワーがあふれ出す瞬間だとか
とにかく何かとんでもないところには
もしかしたら人がまだ知らない不思議があって
子供たちだけはそれを鋭く見抜くのかもしれない、
とは霙お姉ちゃんも言ってましたが
星花には何だか難しくてよくわからないの。
とにかく観月ちゃんが喜んでいるから良かったです!
昨日は楽しいことが
たくさんあった気がして
わいわい言って喉まで痛くなってきた、と
がらがら声を出したら
それは風邪では?
あるいは花粉症?
なんて心配されてしまいましたが
これから新学期までは特に予定もなく
穏やかに過ごせそう。
寒さはもう少し続きそうだけど
体を大事にしながら
新しい始まりを迎えたいものですね。
何もない日もそれはそれで
お料理日和だってお姉ちゃんたちは張り切るから
お手伝いもあるんだけど。
昨日までばたばたしていても変わらなくて
やっぱりお姉ちゃんたちは大騒ぎでもすいすい泳ぎ渡り
星花がひとりで力をつけて元気にと思っているうちに
どんどん栄養のあるお料理が並んで
ぽっかぽかになっていく様子が
誰の目にも明らかであるように
家中であっちでもこっちでも
いっぱい楽しんだ後のまったりした顔がみるみるエネルギーに満ちていく。
これも不思議なキュウビちゃんが帰ってきて
みんなをこっそり謎の力で助けているからでしょうか?
星花が新しい場所へ走り出て行くとき
スタートはいつも必ず
よく見慣れた景色のこの家です。
お兄ちゃんもこれからのはじまりに向けて
みんなとこの場所で
力をつけていってくださいね。
元気にはしゃぐ星花がいつも応援しています。

『終わらない騒がしさ』
はじまるぞ──
新年度の始まりの一日目。
私たちが次に向かっていく新しい時代の元号も決まった。
そして家族で出かけるお花見は
やがて花が散るときに残る喜びと同じように
私たちのところへ──
食べ切れなかったお弁当が装いを新たにする
大量の夜食を届け
健康な消化器官を試す熾烈な挑戦もまた始まるのだ。
みんなで作っていたものだからな。
風が冷たくて早めに切り上げてきた後でもかまわない──
子供たちを抱っこして運んだ体力の分も
これから新しい時代に向けて力をつける分も
理屈も何もなくただおいしそうだと思った分も
愛情料理を残さず食べられるのならば
新しい始まりの日にふさわしい……ような気もちょっとするかな?
まだまだ私たちの胃袋へと狙いを定め
弁当箱で臨戦態勢を取っているおにぎりはたくさんある。
ところでオマエは
スタンダードにおいしいおにぎりと実験性を極めたおにぎりの
どちらが好きだろうか──という問いに
なんと答えるつもりがあるだろう?
問いがあり、それでいて
思い浮かぶ選択肢の中に答えがないと言ったら
あたかもみかんが好きなメンバーの名前を答えるときのように
そういうのもありなのか!?
とたまげるだろうか──
同じ味が続いても飽きるかもしれないと
春風と蛍がおにぎりを崩しておかゆにして
新鮮な味付けをしてくれると聞いたら
まるで予感があって数えていたときに現れる
今何問目? の問題と同じように希望の光の存在を知る──
あの感覚を
まだ寒い日に凍えて震える胸のうちで暖かく灯すだろうか。
そして運命を知らせる鐘の音がどこかから聞こえるように
ママからの連絡の電話が鳴り響き
少し前にマリーや星花が突然の仕事を勤めあげみんなを楽しませてくれた
あのときのように──
料理番の決して欠かせない要である蛍と
キッチンの力仕事を担当していたヒカルと
なぜかママの声を聞いて探していた存在を見つけ出したような顔の観月が
そっちで仕事をしていたのかと何かを納得しながら
あわてて必要な荷物だけかき集めて嵐のように駆けていってしまったものだから
おかゆを作りきれないで
どうやらまたしても残りのおにぎりと向き合うことになると
誰が知っていただろう。
これからの日々を象徴するかのように
まだみんなが駆け回る一日は終わることはないかのように見えるな。

真璃

『あの子を探して』
大変よ!
観月のかわいいキュウビちゃんが
いなくなっちゃったらしいの!
くりくりおめめと
柔らかくふくらむしっぽ。
愛くるしいしぐさで
見るもの全ての心を和ます
かわいさの化身!
──だと言っていたわ。
そんなに愛らしい子が
誰にも知られず私たちの周りにいて
ひそかにマリーやみんなを守ってくれていたなんて──
こうして知ったからには
助けてあげないではいられないわ!
でも、手がかりが少ないのも問題なのよね。
寒さが早くどこかへ行ってしまうようにと
観月は魔術を工夫し──
お庭を回っていい形の丸い小石と
すっきり伸びた小枝を拾い集めて
なんとなく気になるところへ
気持ちのいい感じに並べるという
横で見ていたら何をしているのかさっぱりわからないお仕事を
うきうきしながら進めていったのを
マリーは見ていたわ。
なるほどこういうのがいい感じなのねって
ついつい手を出して
マリーも手伝ったものよ。
そうしていたら気がつくと
キュウビがいなくなっていたんだって。
そこらじゅうをぴゅんぴゅん飛び回り
不思議な力をかき集めて
キュウビはいっしょうけんめい汗をかきかきがんばった。
もともと小さな頭の上サイズ──というから
汗をかいたのと日なたの暑さで
溶けてなくなってしまっていたとしたら
どうしよう!
と、観月はあわてているの。
そういうなんだか神秘的な存在って
えーと……
溶けるものなの?
霙お姉ちゃまは何やら納得して
そういうものは溶けるようにいなくなるときがある──
なんてうなずくけども。
適当に話をあわせているんだかわかっているんだかさっぱりで
あてにならない気がするの。
とにかく、私たちには遠くて知らないことが多い世界の話。
ただキュウビちゃんの好きないなりずしを明日のお花見のついでに多めに作って
帰りを待つしかできることはないわ──
甘辛い味が染み出るジューシーなおいなり、
フェルゼンはなにか
観月が味付けに細かい注文を出しているみたいな好みはある?
今から頼んでおけば
中身が五目になるとかのグレードアップも
まだ間に合うかもしれない!
マリーも手のひらにごはんつぶをつけてお手伝いをするのが
この季節の楽しみとしてだんだん体に染み付いてきた気もするわ。
おいしいお弁当に妥協はしないのがわがやの決まり!
桜の下に踊り出るまでの
もう数時間の間、
駆け回るマリーの姿がキッチンを彩るようね。

観月

『押し寄せるもの』
やってくるぞ!
春も近づいて
すっかり暖かい陽気を
楽しんでいたこのごろに──
ふたたび戻ってきた
恐ろしい寒さが
お天気予報の日本地図を
雪だるまで埋めてゆく。
この街まではさすがに雪雲は届かぬようだが
ついにこれまでの冬の最後となる寒さに要注意!
みんなで丸くなってしのぐのじゃ。
なかなかのしぶとさで
わらわの家族を困らせていたが
寒さに耐えようと鬼ごっこをして駆け回ったり
大事なお風呂をいっしょうけんめいに磨き
ならんでシチューに入れるじゃがいもの皮むきをした
あのそうぞうしい冬も
これでついにおしまいとなると
首元を通り過ぎて悪さをする風が
懐かしいようじゃ。
おまけに改元も間近に迫って
気がつけば平成最後の冬となった。
みんなと過ごした平成の冬に
思い出をたくさん作って──
もうこれ以上ないというくらい遊びつくしたはずなのに
終わるとなればまだやり残したことがあるような気分になるのは
いつものことなのに──
とにかく、今は力をつけて戻ってきた冬の嵐に
負けずに立ち向かい
元気で過ごすことが冬の最後の目的。
せっかく花が開いた春を
兄じゃと過ごすためにも
負けられぬ!
冷たい風には
同じく太陽の射すことの少ない
異界のものたちがくっついて
やってくることが多いようじゃ。
とりつかれたらなんだかさみしくなったり
朝には布団が恋しくなったり
気がついたらこたつの上がみかんの皮でいっぱいになっていたり
それでいながらもうちょっとおなかに入れるものが欲しくなったりと
さまざまな出来事が起こり
世の中を乱すものじゃ。
せめてこれ以上みんなが
だらしないおばけにとりつかれることがないようにと
わらわの修行の成果を見せることができれば
おそらく冬の最後に思い残すことはないであろう。
帯をきちんと締めて
こたつから出たら
寒さに立ち向かい最後の仕上げにとりかかるときがやって来るのじゃ。

氷柱

『午睡』
すー
むむう
……
むにゃむにゃ
うーん──
も、
もう食べられないわ……
はっ!
なんだか今、
大変な夢を見ていたような気がするけど
起きたら忘れちゃった──
きっとたいした夢じゃなかったのね。
それにしても日の当たるところに寝転がって
ついうとうとしていた記憶はあるけど
なんだか起きたら雲が出てきて
ちょっと肌寒いくらいになっている!
まだまだ油断できない季節の変わり目ね。
こんな様子でお花見に行って
楽しめるのかしら?
着て行く服はお外で過ごすぶん動きやすいものがいいとか
春らしい気分も感じたいとか
相談の声が聞こえてくるの──
そろそろ咲く頃だとしても
明日の夜辺りからの雨で散ってしまわないか?
お弁当に入れ忘れそうになっている
みんなの大好物はないだろうか?
なんて考えても仕方のないことを
世界の運命を左右する大事件みたいな顔で
私の家族たちは悩んでいる。
苦手な子が多かったにんじんも
刻んでごま油で炒めて風味をつけたら
なんとみるみるなくなって──
おなかのなかにとけていくと
世紀の発見を語るような顔で伝え合ったり
まったく我が家には
新しい時代の幕開けを告げる瞬間が多いわね。
世間が大騒ぎしている新元号
今日のところはまだ──
それぞれの間近に見えているお楽しみに押されて
あまり話題にならないようね。
やがて迎えるその時が来たら
歴史が変わる瞬間の厳かな気分とかいうのを
このいつも騒がしくて落ち着かない家でも感じられたりするのかしらね?
どんな漢字が入っているか予想している人もいるみたいだけど
私たちきょうだいも人数が多いから
一人くらいは文字が同じになったりすることもあるのかな。
きっと私の名前はそういうのとは一生かかわりを持たないままでしょう──
それだけは確かね。
春を迎えて暖かな日々の中にいて
ゆっくりと、だけど確かに
物事が変わっていく様子を見つめて──
すぐに馴染んでいけるかどうかは
まだ私たちは知らないけれど
せめてゆっくり変わっていく日々に
みんなで足取りをそろえていけるよう
まだ暖かく過ごせそうでちょっと春らしさを意識した装いなどを
下僕にも教育してあげてもいい気分になっているかもね。

虹子

『メロディ』
はじまる、はじまる
はるがはじまるよ。
おはながひらいて
ゆれててまねくと──
にじこはあかるいほうへ
はしっていくよ。
でも、おそとはかぜがつよい!
それでもって
まださむい!
そこで、みんなはあつまって
ひなたにいるの。
まどからけしきがみえるだけで
おちゃはおいしくなり
ころがるのがたのしい。
みづきちゃんははいくをよむのが
いいんだって。
はるはあまりにも
いいくがうかぶ。
おえかきちょうがごしちごでうまるよ。
おにいちゃんは
ごしちごをしっている?
たとえば──
おだいりさまと
おひなさま。
あとごをたしたら
ごしちご。
たすのはたとえば
うだいじん、さだいじん。
やえざくら。
あおによし。
なきぼくろ
でも、ぜんぶたしても
じゅうしちもじ。
ぜんぶつかっても
にじゅうにんきょうだいははいりきらないよー!
と、おもっていたら
そうでもないんだって。
そこをうまくくふうするのが
はいく。
それが、はるのおたのしみ。
もしかしたらおひるごはんに
テーブルからおちそうにならんだおにぎりも
たべまくるかぞくも
みんなみんながぜんぶ
はいくになるかもしれないの。
うめぼし。
えびてんむす
しそこんぶ──が、ごもじ。
ねぎみそ。
やきおにぎり。
ぴりからさんしょう。
からあげまよ。
つなまよ。
つぶあんこしあん──
あっ、これはおぐらサンドにはさむの。
はいくによめるかどうかもわからない
おべんとうのしたく。
ずーっとずーっとおべんとうだけで
おはなみのこうえんがうまるまで──
したくはつづき
みづきちゃんのおえかきちょうに
はいくはとまらないそう──なのですよ。

お持たせ
気のせいかしら?
夕凪ちゃんが昨日からどうも──
思っているより大きいような気がするの。
小さい子とよく遊んであげているから
大人っぽくて大きく見えるとか
そういうのではなくて──
まわりが小さい子だから錯覚で大きく見えると
いうのでもなく──
短時間で成長したとしか言えない
変化を起こしているわ。
まあ、よく育つ時期だから
春休みがきて日当たりもいいし
よく伸びているということなのかも?
たぶん私だって
同じくらいの年のころはそれなりに背が伸びていたと思うの。
そのぶん高学年になってからがいまいちなようだけど。
でも、身長がこのままで止まることもないと思うし
そこは大丈夫じゃないかな──
どうも我が家はよく食べてよく動いて伸びる子と
目に見えて急激に育つ感じではない子で
分かれる傾向がありそうね──
まあいいわ。
ともかく私も今夜はお友達の家に
泊まってくるから。
バスケットに作って持っていくサンドイッチは
晩ご飯をいただくときに食べてもらえたらと
友達にも伝えているわ。
残った分は夜食にすると話し合っているの。
あまり人様の家にお世話になって夜更かしをするのはと思うけど
非日常的な環境でおなかがすくと
帰って来た立夏ちゃんからのアドバイスもあるものね。
私はそこまで神経が太くないほうかもしれないけれど──
お泊まりのケースも二通りに分かれるかどうかは
現時点では正確な情報が少ないから。
何事も予測の範囲を広めに取っておくのは基本よね。
ただ、いくらお姉ちゃんたちと一緒に作ったとはいえ
おみやげが小学生のつたない手作りだけではいけない気もして
お菓子でもあったら持っていきたいの。
もしかしてあなたも
お菓子の詰め合わせの一つや二つ──
部屋にしまってあったりしない?
後でお礼をするつもりは充分あるから
もしも家族の役に立てる瞬間を求めているのなら
それは今なのかもしれないわね。
一応あなたでもお兄ちゃんだし
私を助けてくれることもあるのかも──と思って。
ま、できないなら
それでかまわないのよ。
たった一日の留守だけど
私がいない間は
浮かれた様子の立夏ちゃんと
それに巻き込まれて大変そうな小雨ちゃんのことを
見るだけ見ておいてあげてね。