真璃

『あの子を探して』
大変よ!
観月のかわいいキュウビちゃんが
いなくなっちゃったらしいの!
くりくりおめめと
柔らかくふくらむしっぽ。
愛くるしいしぐさで
見るもの全ての心を和ます
かわいさの化身!
──だと言っていたわ。
そんなに愛らしい子が
誰にも知られず私たちの周りにいて
ひそかにマリーやみんなを守ってくれていたなんて──
こうして知ったからには
助けてあげないではいられないわ!
でも、手がかりが少ないのも問題なのよね。
寒さが早くどこかへ行ってしまうようにと
観月は魔術を工夫し──
お庭を回っていい形の丸い小石と
すっきり伸びた小枝を拾い集めて
なんとなく気になるところへ
気持ちのいい感じに並べるという
横で見ていたら何をしているのかさっぱりわからないお仕事を
うきうきしながら進めていったのを
マリーは見ていたわ。
なるほどこういうのがいい感じなのねって
ついつい手を出して
マリーも手伝ったものよ。
そうしていたら気がつくと
キュウビがいなくなっていたんだって。
そこらじゅうをぴゅんぴゅん飛び回り
不思議な力をかき集めて
キュウビはいっしょうけんめい汗をかきかきがんばった。
もともと小さな頭の上サイズ──というから
汗をかいたのと日なたの暑さで
溶けてなくなってしまっていたとしたら
どうしよう!
と、観月はあわてているの。
そういうなんだか神秘的な存在って
えーと……
溶けるものなの?
霙お姉ちゃまは何やら納得して
そういうものは溶けるようにいなくなるときがある──
なんてうなずくけども。
適当に話をあわせているんだかわかっているんだかさっぱりで
あてにならない気がするの。
とにかく、私たちには遠くて知らないことが多い世界の話。
ただキュウビちゃんの好きないなりずしを明日のお花見のついでに多めに作って
帰りを待つしかできることはないわ──
甘辛い味が染み出るジューシーなおいなり、
フェルゼンはなにか
観月が味付けに細かい注文を出しているみたいな好みはある?
今から頼んでおけば
中身が五目になるとかのグレードアップも
まだ間に合うかもしれない!
マリーも手のひらにごはんつぶをつけてお手伝いをするのが
この季節の楽しみとしてだんだん体に染み付いてきた気もするわ。
おいしいお弁当に妥協はしないのがわがやの決まり!
桜の下に踊り出るまでの
もう数時間の間、
駆け回るマリーの姿がキッチンを彩るようね。