立夏

『楽園の泉』
うわああーん!
リカ
けがしちゃったよおおー!
オニーチャン……
あのね
縫い物をしていたら……
縫い物をしていたらね……
けっこううまくできて
ぴちっと針も糸もお裁縫箱にしまって
やった!
ひとつとびはねたら
タンスの角にすねをぶつけてね、
その衝撃で落ちてきた
空っぽのダンボール箱
ひょいっと身軽に避けた拍子に
足を滑らせて
ベッドにむかってみごと不時着をしたから
けがをしたのはすねだけだよ!
うう……
あとは氷柱ちゃんにひっぱたかれた頭とかかな。
擦り傷に消毒してもらったら
ちょーしみたよー!
ぐっすん。
でも、けがのお手当ては大事なことだし
ありがとうってお礼も言ったし
小さい子の見ている前ではそれくらいで泣いたらいけないから
がまんしたから──
オニーチャンの胸の中でないちゃお!
あのね。
おねがいがあるの。
うけとめて!
うわーん!
ああっ、あったかい胸の中──
いい気持ち!
ねえ
膝にウサギの絆創膏を貼って
猫の仮装はおかしい?
31日は学校だから
おうちハロウィンは日曜日にするんだって。
明日までにはなおしとこっと。
そういえば、リカは聞いてしまったの。
猫は大きくなっても虎にならないって本当?
うそだー!
じゃあ、ワイルドなヒカルお姉ちゃんみたいに
甘えんぼう子猫のリカはなれないね!?
すりすり。
そうかあ
ヒカルお姉ちゃんは小さい頃から子供の虎だったのかあ。
黄色と黒のしましま模様なんだね……
リカはね
お友達に聞かれたの。
どうしてそんなにハロウィンに夢中なの?
負けたくない相手でもいるの?
と、いわれても
負けたくないような
負けてもしかたないような
勝てるわけないような──
ハロウィンって、日本ではよくわからないお祭り。
ただちょっといつもよりほんのりかわいい格好をして
好きな人といられたら
だいたいオーケー。
みんなが笑顔でいられたら
それ以上は望まなくてもいいの。
それなのに──
どうして──
楽しいことをはじめるときって
胸がドキドキして夢中になってしまうの?
後で振り返ったら恥ずかしくなるの。
わかっているの。
もしも、
仮装しても本当は
なりたいものになれるわけでもないって言われたら
そりゃそうだって思う?
夢中になっても意味はないや。
なりたくてもなれないし。
まあ、
そりゃそうだ。
じゃあ、どうして?
ちょっとした遊びをしたくて
小さな思い付きが浮かんで
うまくいったり
失敗もして
すねにウサギの絆創膏が増えたのはなんで?
そりゃ
決まってるよね。
でも──たしかに
説明しにくいよね!
それはね、って
笑って見せて
他に何にも言わないことしか
答えはないもんね。
パーティーはもうすぐだ!
たのしくなるかな。
面白いことがあるなら
そのたびにオニーチャンに知らせに行きたいな。
全部なんてうまく説明できそうにないけど
したいんだもん。
だから近くにいてください!
ぎゅっ!
うっ!
足に力が入った……
これしきのきず!