真璃

『白と黒』
ぎらぎらお日様がまぶしい夏の一日。
小さな園児の年長さんのところにも
輝くダイヤを身につけた女王にも
同じように夏のきらめく日差しは降り注ぐ。
だから、物足りないとかつまらないとかは言わないで
手をつないで隣にいてくれる人と
この激しい太陽を楽しまなくてはもったいない。
べつに今すぐに思い立って海に行けなくとも
夏の思い出作りはできるわ。
みて!
何もかもが燃えるように熱く照らし出された景色、
足元に伸びる影ははっきりくっきりと間違えようもない深い黒。
こんなに鮮やかな光と影のもとでは
何かはっきりとした
どうしようもなく逃げることも隠れることもできず胸を揺さぶり
言い訳のできない熱い気持ちにさせる
そんな特別で忘れられない出来事が起こる気配がある。
夏の熱気あふれる世界からは予感がいつだってしているのだと
熱い季節はそんな感じがするでしょう!?
だって別にこれがいつものだらだらする日常の景色だというのならば
むしむしうっとおしく汗がにじんで
何もやる気がなくなってしまうだけの日。
だったらここはむりやりにでも
とにかく適当に気分を盛り上げて
何かが起こりそうな季節に変えてしまうのがいいと思うの!
こーんなに暑いと
きっと悲しみに凍りついた心まで溶かし伸び上がる炎の塊に変えてしまうことが
必ず起こってしまうのだ!
それはたとえば
アイスがおいしくてときめく気持ち、なんかもすてきだし
いつものおそうめんに一工夫をそえるプチトマトを
花壇からひとつひとつ心を込めて摘み取るお手伝いでもいい。
あとは、そうね──
せっかく今年も激しく燃える夏なんだから
全ての夏を過ごす人たちも燃え上がっていかなくては釣り合わない。
そう!
マリーとフェルゼンと
お互いを思い合う二人がいるのだから
こんなときこそ心を燃やし尽くすように
ごっことかで熱い勝負をしたりね!
もちろんお帽子をちゃんとかぶってね。
勝ったり負けたり、つかまえられて捕らわれたりするんだわ。
焼け付く日差しの下
あなたの腕の中──
そんな予定を立てていたら
お昼過ぎからだんだん雲が広がって
そのへんがみんなうすぐもりの下で灰色。
水墨画みたいな味わいの景色。
真夏の雨が降ってきそうでもなし
なんだか間延びしたような雲がゆったり広がり、のんびり感は増して行き
激しい出来事が起こりそうな気配などは特になし!
涼しくなったんだし
まあいいか……
みたいになるじゃないの!
もうっ!
ひと夏の恋はあっという間に過ぎていくものだから
きらめく太陽を浴びて思い出を作りたかったのに
涼しい風が吹く午後は
ときめく予感があんまりしないから、気持ちのいい風を浴びてだらだらするわよ!
よーし!
そうと決まったらこうしてはいられないわ!
やるからにはマリーが知っているおうちで一番のぐうたらスポットへフェルゼンを誘い
気持ちよさの虜にさせてみせる!
ふたりでゆっくり離れられずに
こんなはっきりしない特別なイベントが起こりそうもないうすーい曇り空の下で
世界の誰よりもまったり過ごすのよ。
決めた!
たまにたいしたことのない夏の一休みを感じながら
何事もなくのんびりする日の予感がしてきたわ。
フェルゼンもそんな気がするのなら
二人はおそろいよ!