『歓楽』
コーヒー、
紅茶に
砂糖とミルク。
妹たちと弟の
学校の様子や、
毎日の過ごし方を
ゆっくり聞きながら過ごす
平和な時間──
だから、
たまたまみんなのいる場所まで
聞こえてくるだけであって、
麗が言うように
お茶とお菓子で談笑しながら
人の恥ずかしいところを見物するのは
どうか、といった話ではないのだ。
結果としてそうなってしまうことも
あるのだけれど、
まあ、きょうだいが多い家では
誰かがいつも叱られているくらいは
ふつうだ。
ひとつしかないおもちゃの
取り合いのけんかを始めて、
うっかりティーカップ
ぶつけて欠けさせて、
何かの拍子で
たまたま砂糖を入れすぎた──
私たちが集まる場所に
騒ぎの種は尽きることなく、
今日もまた
どら焼きの大きい小さいで
くらべっこだ。
深みのある漆黒が
巨大な宇宙に数多ある
ブラックホールに似ているとするなら、
引力の大きさにかかわらず
それは知識とロマンに満ちた現象であるに違いないし、
果てしない宇宙の塵として
運命を共にすると知るならば
子供も大人も
関係なく愛を注がれるのと同じく、
どら焼きである限り
それは愛おしいものであると──
大きいほうを狙う欲張りたちに言い聞かせる。
自分もかつて、
目の前ばかりを見て
あの少しでも大きいおやつを追い求めたことを
懐かしく思い出しながら──
自分の手にあるのも混ぜて
じゃんけんで公平に決めるつもりが
結果的に手元に戻ってきたのが一番大きいどら焼きだったことで
公平なはずなのに怒られるのと
きっと状況は変わらず、
麗だって同じように日々の営みを過ごしているだけなのだろう──
でも、あんまり怒られて
門限を短くされても困るんだろうな。
そんな時は、フォローができたらいいんだけどな──
帰り道で見かけたら声をかけて連れて帰ってくる、というような。
家族と帰宅につく途上も
少し遅くなるのに付き合うのも、
おそらくは銀河の果てしない旅に似たようなもの──
私たちの選ぶ、確信を持った歩みだ。
家族と過ごす──こんな時間のただの続きだ。

『夕立』
今日はずっと
落ち着かないお天気の日。
庭で遊んでいた
子供たちは──
雷に驚いたさくらを先頭にして
雨が降り出す前に
間一髪!
濡れずに玄関へ
飛び込んできたわ。
まあ、泥だらけの服を
洗濯機に放り込んで
そのままお風呂に連れて行くコースだったから
濡れてもそんなに変わらなかった気がするけど。
小雨ちゃんもちっちゃい頃は
ぽつぽつ降りはじめただけで
あわてて帰ってきては
春風姉さまやヒカル姉さまの手をつかんで
離れなかったんだって。
怖がりの性格は我が家の何人かに
受け継がれているそうだけど
あなたはどう?
ちっちゃい時から
この家にいたら──
すぐお姉ちゃんのところに逃げ込む
かわいい写真が残っていたりして!
私も──
一枚くらいそんな写真があればいいのにねって笑われるわ。
何がいいのかな!?
でも怖がりなのも悪いことばかりではないそうよ。
今日だって、さくらちゃんのファインプレーで
誰も風邪をひかないで済んだんだから。
むしろ逆に──
暗くなっても何も怖がらないで
帰りが遅くなるほうがいけないわ。
あなたも暗いのが平気だからって
駅にいる時に
お目当ての車両を見たら帰ろう!
なんて思ったりすると
後で怒られたりするから──
気を付けてね!
また今度、海晴姉さまにも報告をして
怒ってもらうみたいな話。
すっかり夏で明るい時間も長いんだから
いいじゃない──
とはいかないみたい。
ああ、私がもう少し怖がりだったらよかったのかな。
いや、少し怖がりなくらいなら
帰る時間はそんなに変わらないかな──
危険を察知する敏感さって──きっと人間には大事なんだわ。
後天的に得るのがむずかしいのが唯一の問題ね!

さくら

『なにしてあそぼ』
今日も
がんばるぞ!
さくらのあそびは
今日もいっぱい。
つみきを──
かっこよくつむ!
マリーおねえちゃんが
つくるおしろを
さくらもつくるの。
つくれるよ!
たぶん──
はんぶんくらい。
だるまおとしを──
おとす!
じょうずな子でしか
できないの。
さくら、そんなに
きようじゃないけど
だるまをうまく
おとしたいなって
おもって!
おとせたらいいな──
できたことないの。
なわとびもとびたい!
あやとび!
にじゅうとび!
たまに──
じゅっかいに
いっかいくらいは
うまくいくこともあるよ。
お兄ちゃんも
さくらがうまくとぶところを
みたい?
さくら──
なんにもできなくて
しっぱいばかり。
いつもないて
はしってにげて、
いつもあきらめているように
見えるかもしれないの──
でもね、
お兄ちゃんも
おねえちゃんたちも
あとちょっと!
おしい!
さくらならできるって
はげましてくれるよ。
ときどきそばに
いなくても──
はげましてくれるかなっておもうよ。
だからさくらは
すぐないて
へこむけど──
また
あそびはじめるの。
きのうはしっぱいばっかり。
今日もしっぱいつづき。
なきむしさくらは
それでも──
あとちょっとがんばって
できたらいいなって
あそんでいる。
さくらのあそび、
あれもこれもしたいの。
今日もさくらが
しっぱいしているよ。
あそぶのを
つづけているよ──

『今日も一日』
あっ!
いつのまに──
気がついたら
日は傾き
風も涼しく
汗のにじんだ肌に心地よい
もうこんな時間。
お庭で遊ぶ子供たちを眺め──
はしゃぐ声を聴きながら
さやえんどうのすじを取り
じゃがいもとにんじんの皮をむいて
休憩しようかと顔を上げると
同じ遊びに飽きた子は
手を振ってこっちを呼んでいる。
目が合うと
駆けてくる。
いつも、こんなふうに
夕暮れの景色は近づいてくる──
今日も暑かったですね。
一日お疲れ様です!
蛍はどうも
誰かが声をかけてくれないと
ずーっとのんびり
家事を続けて
たまに手持無沙汰の時には
廊下の雑巾がけや
窓拭きまではじめてしまうしまつ。
今日もあとちょっとのところだったの。
こうして
自分の好きなことをして
時間が過ぎていくのは
たぶんいいことなんだと思うけれど
このごろは、
いくらなんでも
ちょっと時間が過ぎていくのが
早すぎないでしょうか?
これが──
噂に聞く
年を取って時間の進みが早く感じる現象だったら
どうしよう!
いや、どうしようってどうしようもないけど──
それともまさか
観月ちゃんとユキちゃんが前に教えてくれたような
お話に聞く
時間を奪っていくわるい妖怪のしわざ──
いやいや、あるいは
好きなことをしていると時間の進みが早いという例の現象──
それで言うなら
単に、こういう毎日が
性に合っているからこそ、
こんな日々が好きだから──ということかもしれません。
蛍の手は明日も
ちょっと空いていて
お手伝いを求めてうずうずしているのだと思います。
お兄ちゃん、少し物足りなさそうな蛍を見つけたら
何も理由がなくてもいいので──
声をかけてあげてね。
すぐに喜んで駆けていくに決まっています!

綿雪

『キッチンの魔術師』
もうずっと
長いこと──
キッチンではオーブンが活躍していました。
小さい子が多いおうちで
音を立てて働き、
朝も晩も
お料理を作る、
お菓子を作る──
昨日も後片付けが終わってから
さっと拭いて
お手入れ。
いつでも変わることなく
調子のいい状態で
使い続けられるように。
みんなから愛される
家電用品のひとつで、
大きくなったら
お勉強をして
お手入れを覚えて──
きっと上手に
ユキも使う!
そういう道具の一つです。
今日は久しぶりに
いいお天気。
気温も上がって
みんなで
お洗濯も捗った──
そろそろ本当に
夏が近づいてきた気が
しませんか?
お兄ちゃんもそう思う?
そうでしょう!
火を通して
汗をかきかき
おやつを作るのが
当たり前と思っていたから
忘れていたのは
お菓子の種類も
いろいろあるということ。
よく働いたみんなに
押し入れから
箱を出し、
箱からは
いいものを出す。
一年ぶりの、
アイスクリームメーカーで作る
アイスクリーム。
大きくなったら──
ユキもきっと
これでいっぱいアイスクリームを
みんなにつくってあげる!

真璃

『少年少女は力を合わせて』
ついにこの時がやってきたわ!
それは
試練の時──
そして、苦難を乗り越える
喜びの時よ!
それはお菓子作りとも言い──
おやつの時間とも──
良い子のお手伝いとも呼ぶ人がいるわ。
全てが確かにその通りで、
そしてさらに
私たちには特別な意味を持っているの。
おいしいだけじゃなくて
楽しい!
という──
大事なこと。
さあ!
みんな!
自分のできることを
一生懸命──
簡単なようで難しいけど、
今、私たちがやろうとしているのは
そういうことなのよ。
材料を
不足なく揃えて!
分量を
正しく計り!
かきまぜ!
焼いて!
お皿を並べる──
きっと、一人では
世界中の誰にもできないわ。
一緒に作る人。
応援して
支えてくれる人。
そして、笑顔で食べてくれる人──
誰も欠けては成り立たない
奇跡のような時間──
それがおやつタイム。
マリーは、どれだけ特別なことか知っているわ。
そしてみんなが
がんばって成功を迎えた日々も
見てきたの──
今日もやるわよ!
腕まくりをして
よく手を洗ったら
はじまる。
みんなで準備しているときって
テーブルを囲む時間と
同じくらい
楽しいってこと──あるのよね。

観月

『悠久』
男の子と女の子は
やがて結ばれ、
あるいはまた──
鬼を退治しようと思い立ち
正義をなす者、
自らの力を試す
挑戦の旅に出る者は
ひとつの例外もなくみな全て
長い旅で
同じ目的の
仲間と出会い
助け合って──
やがてつとめを果たすのじゃ。
むかしむかしからの
言い伝えの通り、
人の世にあるものがいつも同じであるように
おはなしの形は
何も変わらぬ。
決まり切っている。
だが、実は
お話の後には
続きがあるのだと──
それを知るのは
もう少し大人になってからのことじゃな。
たとえば、
本当の家族に会うまで
人をずいぶん待たせて
時間がかかった兄じゃは、
それからずっと
兄じゃを愛する家族に囲まれて
幸せに過ごし、
ずっと離してもらえない。
これから何があっても
ずっと、いつまでも。
そういえば、男の子と女の子の
おはなしは
この世では思いを果たせずとも──
と、そんなこともあるかもしれぬ。
まあ、長い目で見れば
常世も現世もそんなに変わらぬであろう。
どこにいても
いつまでたっても
わらわと兄じゃは家族のままということじゃ。
仲のいい二十人きょうだいのおはなし──
家族が出会って幸せになったおはなし。
氷柱姉じゃはご本の続きを図書館で借りて
夕凪姉じゃに届け、
面白そうに様子を見に来たあさひやユキ姉じゃたちも参加して
長い物語を前に
今日も仲よく埋もれておる。
ずっと先の──
語られることなく
誰も見たことのないかもしれない、
家族のおはなしの続きは、
うーむ、わらわにもまだはっきり見えて来ない。
いずれ出会う運命のその時まで
誰にも予想ができぬかもしれぬ──
それもよい──
楽しみにして日々を送るとしよう。