あさひ

『はぴ』
わあーい!
つらら、ら。
おや
ま!
たんたん
おろろ
ぼうあ~♪
ぶちょうあ~♪
むう、
むにゃむにゃ──
む、む
ぽてんっ。
ぐう。
(つららがねている!
 ゆうなとならんで
 ほんのやまにうもれている。
 よしよし、
 ねるこはあさひとおんなじで
 みるみるおおきくなる。
 しらなかったこと
 いっぱいみつける!
 ねるこはそだつ。
 きっとね。
 あさひがこもりうたをうたってあげる。
 ねむれ~
 あさひもすきなうた、
 すぐねむくなる。
 ふわわあ──
 のぼれそうな
 つららのあたまのうえでねむろうかな。)

ヒカル

『結末』
お姫様は困難を経て
めでたしめでたし。
男の子と女の子は
すれ違いを乗り越え
最後はハッピーエンド。
本をオススメされて
たいしたことないと思いながら
読み始めた子の
その後は──
私は見た。
放課後の図書館で
高等部も三年生の
生徒会長。
学校を隅々まで知り尽くした霙姉と、
まだ中等部二年生の
おっかなびっくり
知らない場所ばっかりの広い学園を
たまに少し緊張した面持ちで歩いている氷柱が
話しているのを──
うちの学校の図書室は
なかなかの品揃え。
中等部の頃、夏休み前に
課題図書を探して
あまりの広さに途方に暮れたこともあったっけ──
そういえばそろそろだな。
このじめじめした梅雨が終わると
もう季節は
すっかり間違いのない夏がやって来る。
着るものに気を使わないで
過ごせるのはいいけれど──
また、水着や浴衣の試着に
春風姉と蛍のおもちゃにされてしまうのも
覚悟しておかないと。
やっぱり氷柱は
長い夏の夜を
本でも読みながら過ごすのかな?
オマエは何か予定はある?
なかなか寝付けない蒸し暑い夜に
軽く体を動かそうというのなら
私も相談に乗れるかもしれない──
氷柱たちの話の内容はわからなかったけれど、
私が役に立てることはなさそうだからな。
苦労して探した課題図書は
その後どうなったか──
これも、氷柱に言わせたら
最初から何もかもわかっていた
お見通しの展開なんだろう。
楽しそうに話していた二人の邪魔はしなかった。
図書館では──私みたいなそそっかしいのは
どうなるか、
誰だって予想できるもんな。

氷柱

『思いもよらない意外な展開』
──
──
……
ん……
んんっ!?
……はっ!
夢か。
このごろ雨続きで
小さい子たちは力が余って
家の中で大暴れ。
夜もなかなか寝付けないありさま──
こういうときこそ
うまくおだてて
調子に乗せ
自分から布団に入っていくように
誘導するテクニックが
必要とされるものなんだけど──
なかなかあんまり
優秀な人材っていないものだから
私がいつも駆り出されるというわけなのよね。
なにしろ一緒になって遊んでいる大人もいるという!
しかもたくさん!
はー……
はーあ──
うたたねするのも理解できるというものだわ。
だいたい、絵本の一冊で
はいおしまい!
約束通り眠る時間!
が通じる年頃ならともかく、
この本を読んだら!
きりがいいところまで終わったら!
漫画や児童小説に
夢中になっているのを見つけると
こちらも大変。
先が気になって止まらないと言うけれど
どれもこれも
ただの作り話。
読まなくてもわかるような内容でしょ。
お姫様が出てきたら
あれやこれやの困難の果てに
めでたしめでたし。
男の子と女の子が出てきたら
誤解やすれ違いの紆余曲折を経て
ハッピーエンド。
夕凪から押し付けられた
子供向けの一冊だって
しょせん、その程度の内容でしょ。
まあ──明日には感想を伝える約束をしたから
仕方なく読んであげるけど。
ただでさえ寝不足気味なのに
眠気に耐えられるかまったく心配だわ。
明日にはあの子を傷つけないように
伝える言葉を今のうちから考えておかなくっちゃ。
ま、悩むのはきっとそれだけね。
さて──最初は──なになに?

海晴

『雨の日は』
今日も、家のどこかから聞こえてくる
楽しい雨の歌。
やっぱり雨の日は
外で遊べない分、
こんな日だからということをやらなくっちゃ。
家の中でできる、
アルバムの片付けや
タンスの整頓、
子供たちから歌と踊りを教えてもらったり
体操もしたり──
あ! そうそう。
たまってた掃除や
積ん読も崩したいし
あれ──なんだか
お庭に出られない
雨の日だからできることを探していたら
やりたいことでいっぱい。
なぜかいつもより忙しい──
不思議ね。
あれもこれも、
というやつだわ。
たとえるなら
ちょっと買い物に
行くだけのつもりが、
時間のあるからか
妙に目移りして
しっかりたくさん買い込む予定の時より
荷物がやけに重たく
かばんの持ち手が指に、肩に食い込む大変なことに──
という。
なんだかんだで
雨の音を聞く
のんびりと余裕のある気分の日。
こんな話をしている間に
どんどんやりたいことを
片付けて行けばいいのに!
とは思うけど、
そんなことを
しないのもまた──
やりたいことだらけの雨の日の選択肢の一つ。
日々、洗濯物が
溜まっていくから
よく晴れた時を狙って短期決戦で片付けるというのも
考えに入れて、
リビングのソファにいっぱい体重をかけて深呼吸──
読みかけの本が10ページでも進んだら自分を褒めてあげましょう。
そうしよう。
雨の日の歌を
一つ覚えたら──
それで大喜びしてくれる子供たちみたいに
一緒に手を取って喜んでみよう。
おうちで出来ることがある
雨の降る日だから
そういうことにしよう。

『なくしもの』
失われた
子供時代──
特に春風がこだわっているようだ。
大人の都合があったのはわかる、
仕方ない。
だけど、わかっていても
家族みんなが大好きな長男と
子供時代を一緒に過ごすことができていたらなあ!
という願いだ。
気持ちは理解できる。
どうにもならないことだけど
言ってみたくなる。
ただ、まあ
もともと出会わなかったかもしれない家族が
いろいろあって
離れたり
今、こうしてよくわからない話をして
ああでもない、こうでもないと
やくたいのない意見を交換したり
とりあえず今日も
一緒にいる。
私たちは宇宙の塵に過ぎないのに
出会った別れた、
同じ時間を過ごすことができたと
いちいち大さわぎをして
わけがわからないな!
いったい無にも等しいわずかな宇宙の欠片に
何があってこんなに話が複雑になるのだろう?
いつか、どこかの
頭のいい誰かなら
答えを出せるのだろう──
というわけで
私はこの件に
積極的に関わるつもりはないから
春風が何かとうるさい時は
細かいことは置いといて
ただそばにいてあげたらいい──
それだけアドバイスをして
あとは放っておくことにする。
人間のすることは
私のちっぽけな常識では表現できないほど
あっちにいったりこっちにいったり
ちっぽけな原子の運動にも似て
飛び跳ねるから、
たまにそのうち
時間くらいはどうにか手のうちにしてしまうかもしれない。
怖がりの子供の頃を一緒に過ごして
助けてもらいたかった
春風の願いも簡単に叶う時も来るだろう。
全ては宇宙の隅で起こる振動に過ぎない──
いつか、やがて時が来たら取り返せるのだろう。
その時は、当たり前のように
私もまた──
と、想像してみる程度に
私はとどめておくことにしよう。

『育つのは』
今日は一日
ずっと雨降り。
お手伝いが得意なさくらちゃんも
お休みの日でしたね。
雨が降って濡れないか
灰色の雲の切れ間を
見守るお仕事は
蛍も小さい頃からよく続けていました。
あれで意外と──
いざという時の
洗濯物を取り込む順番、
置く場所の確保と
考えることはいっぱいあって
縁側で薄い日差しを浴びながら
ぼんやりする
楽しい時間。
必ず将来役に立つお手伝いです。
そんな仕事が大好きだなんて
さくらちゃんはえらい!
立派になるに違いない!
将来有望の期待株──
蛍もすぐに追い越されてしまいそう。
やがてその時が来て
引退したあとは
昔とっても
みんなに喜んでもらえる
幸せな仕事ばっかりしていたんだなあと
日の当たる縁側でまた
ぼんやりする時間に戻っていくことだろうな──
早く大きくなってね、さくらちゃん。
こんなにすごいさくらちゃん、
とってもうれしいご褒美に
お兄ちゃんが眠る前に
ご本を読んでくれたりするというのだから
そんなの、明日も張り切ってしまうに決まっています。
あれ?
ちょっと不思議なことに気が付いたのですけど──
小さい頃にやっぱりお手伝いをしていた蛍はどうして
お兄ちゃんに寝かしつけをしてもらえなくて
一人だったのでしょう?
ははあ──なるほど。
これは、今からでも
失われた時間を取り戻すため
今だからこそできる夜のお茶会を開いて
お兄ちゃんの一日をねぎらうなど
すればいいんじゃないかなと
そういう話になっていくのですね。
子供のころから遊びでよく書いていた
おままごとへの招待状──
ときどきさくらちゃんからもらうのと同じのを
ずっと前から
蛍も練習していたんだもの。
こういうときに
使うものだ!
と、
お姉ちゃんとして
みんなに教えられるお手本になれ、みたいな話ですね。
とてもがんばって作った
招待状──
とてもがんばって準備するのは
愛しい人を招くお茶会。
子供のころから練習していたのと
なんにも変わらないそのまま──
お兄ちゃんにお届けできるようにしてまいりました。
フフ──
冗談っぽく言っているけれど、
半分くらいは──ううん、もっとかな──
そんなに冗談でもないんです。
お兄ちゃんの好きなものをたくさん準備しておきたいな。
今のうちに──たくさん聞き出しておかなくちゃ。
後できっと役に立つはずです──

さくら

『さくらにまだはやい』
さくらはちいさい
ねんしょうさん。
こーんなにおおきな
おうちのなかでも
したからかぞえたほうが
はやいほう。
だから、かけっこもにがて。
なわとびもにがて。
雨の日はおなかいたい……
なんにもできないの。
かいらんばんを
もっていくのも
まだはやい。
かだんのすみっこを
くさむしりなら
できる──
でも、ほうちょうは
まだはやい。
かきまぜきは
できる──
ちょっと、こぼすけど。
ちっちゃいさくら──
こどものまま。
こまったな!
できないばっかりでは
いつまでたっても
おねえさんになれないの。
だから、きょうは
おてつだい。
おせんたくものを
ものほしざおの
ところまで
おとどけ。
そして
ひろげてわたす!
これはシャツ。
これはパンツ。
これは──ながそで?
おしえてわたす!
せんたくものを
みはっていて──
雨がぽつぽつ
ふってきたら
おねえちゃんを
よびにいく!
でも、ホタおねえちゃんが
はやめにとりこんじゃった。
これでさくらのできることは
ぜんぶおしまい。
あとは──はやくねて
かぜをひかないのも
だいじなおしごと。
でも──
ねむるまえに
お兄ちゃんにごほんをよんでほしいの。
ひとりでねるのもできないさくら──
う、うええん!
だって、おばけがきたらこわいもの。
そしたら、
ねかしつけは
お兄ちゃんのおしごとだから
おねがいしていいって!
やった!
やったー!
おてつだいを
たくさんできた日の──
よるのおねだり。
お兄ちゃん!
さくらのねかしつけの
おねがい──
きいてくれる?