ヒカル

『疑問』
ぱやぱや
ふんふふーん~
ん?
あっ!
ああっ!
ごほん。
なんでもない。
そうだ、みんなの間で
ときどき話題になっている
ひとつの小さな疑問があるんだ。
もしかしたら大事な話になるかもしれない。
というのも
はっきりしないことが苦手な氷柱が
そのへんを放っておいて
どうでもいい顔をしているなんて
信じられない、と
はりきっているためだ。
聞いてくれるか?
話は単純なようで
複雑にもなりそうなんだけど
つまり、みんなが待ち望んでいる
ハロウィンのこと。
今年は原点回帰というのか
初心が大事というのか
蛍もシンプルでわかりやすいハロウィンを
みんなで体験したいようだ。
昔ながらのハロウィン、って言ってたけど
それが本当に昔ながらなのか
家族の誰にもよくわからない。
とにかく絵本でよく見かけるような
魔女の帽子にとがった靴、
かぼちゃのかぶりもの、
黒猫の耳としっぽや
美女をさらって血をすする貴族まで
わかりやすくてお祭り感満点の陽気なやつだ。
それはそれでまあいいんだけど
浮かれすぎじゃないのっ!?
はしゃぎすぎじゃあないのっ!?
のりのりすぎるでしょ!?
もともとは
あの世とこの世がつながる日のお祭りだったんじゃないの!?
どうなの!
と、毎年のことだけど今年もずいぶん氷柱は騒がしい。
あまりにも昔々の言い伝えで
おまけに世界中をめぐるうちに
収穫祭やらかぼちゃやらコスプレやらが
ぬえのように混じっていくのは人の営みの常だと観月あたりは答えるが
いったいハロウィンってなんなんだろうな?
ということだ。
おまけに文句を言ってるわりに
子供たちがどこかで聞いて持ち帰ってくる陽気なハロウィンの歌は
氷柱もときどき気分がいい時には口ずさんでいる。
と、いうこと。
世の中には割り切れないことってたくさんあるんだな。
私が少し浮かれた気分になっている時間が存在するとしても
理由は一つではなく、何かが原因だとは言い切れないと
そうも言えるのではないだろうか?
明日の本番も氷柱や子供たちは面倒くさいお話を挑んで
かまってもらいたがると思う。
雰囲気のおかげでどんなあしらいもおもしろがってくれそうだけど
私たちも年長組として
一緒に頑張って、
適当に相手をしてあげようよ。

ユニコーンの探索』
みつけた!
と思ったら
はあ、やっぱり。
こんなことだろうと
とっくに
予想はしていたのよね。
布団を丸めて、
服をかぶせて、
工夫と努力にたのんで
一筋縄ではいかない
かくれんぼ。
見つけてほしいのかそうでないのか
これでは全然わからないのに
放っておくとご機嫌が悪いの。
小さい子も、困ったものね。
私も昔は小さかったらしい話を聞くけど
ここまでまわりを振り回したり
それで喜んだりなんてしなかったと思うの。
ほら見て!
さっきまで布団に隠れて
書いていったようすのある
人を食った落書きには
追いかけるお兄ちゃんやお姉ちゃんたち。
俊足で逃げ回る子供たち。
仲間と手をつないで
どこまで行くつもりかしら。
知恵で大人を翻弄する
おとぎ話みたいな落書きに
お気に入りの小枝を振り回すのがせいぜいの細腕で
竜もお化けもたたき伏せてしまいそうな武器。
家の中のようで
魔女が住み着いているしるしまで見つかる
知っているようで知らない場所の地図。
柿の種とピーナッツの好みの割合に
澄んだスープに野菜を浮かべる
おすすめのおそらくは塩ラーメン。
興味の方向が自由自在ね!
思いもよらぬ器用な手先で
いったい誰が書いたのやら。
待って。
しっ!
足音が聞こえた?
誰のものともわからないばたばた遠慮のない音。
こんな器用な絵を描いた子の
名前も入れるように言っておかないと
あとでいったい何を書いたのか
聞くこともできないわ。
誇らしげに名前をとどめた
私の落書きは姉さまたちのふところにしまわれて
ときどきからかわれるというのに
不公平な話よね。
今の子のほうが知恵が回るなんて!
あなたは子供のころはこの家にはいなかったそうだけど
姉さまたちが棚から取り出すように
いったいどこに何が残っているかわかったものじゃないわ。
愉快なものがかくれんぼの痕跡からあらわれないといいわね。
つかまえられそう?
こんなに苦労してるんだから
逃げ足の速さに文句を言うついでに
子供なりの作戦と立派な地図を
からかうくらいはかまわないはずよね。

青空

『ものかげ』
みてみて!
そらはどこにでも
はいりこむ。
たんすのなか、
くまさんのせなか、
いすのした、
みはるがつみあげたほんの
うしろがわ!
ちいさいからだで
ちょこちょこと
どんなとこでもかくれるよ。
かくれてかくれて
みつからなくて
おにいちゃんにさがしてほしいからね。
ちょっとよそみをしたすきに
かーてんのかげにもかくれて
そらちゃんをさがすぞって
いわせてみたい!
おにいちゃんはあっちをみてこっちをみて
へんだなあ
そらちゃんがいないな、
おにいちゃんのだいじなそらちゃんがいないと
こまるなあって
いうの。
そうしたらそらは
おもしろいの。
うっふっふ
おにいちゃんがそらを
さがしてる!
だからそらはすきまをみつけて
どーこだ!
おおきなこえでよぶよ。
おふとんをたくさんとりだして
すっかりあいた
おおきなおおきな
おしいれのすきま。
きょう、
そらがかくれるには
ここしかない!
おにいちゃん、そらはここだよ。
まってるよ。
すぐみつけないといけないよ。
はやくこーい!

真璃

『秋の装い』
おしゃれや流行に敏感なレディが
何人もいるわがやでは
キッチンのにぎやかな声だって華やか。
かぼちゃやもみじ、
ぶどうとなしの輝きにきらめくのは
見渡す景色とお皿の上ばかりではなく
みんなのお好みの
おしゃれがどこでもはじまるの。
ハロウィンらしい秋色エプロンって
そんなに長く楽しめるわけじゃないし
おねだりして刺繍してもらって
作ってもらうのも大変だけど
それでお手伝いが楽しくなるのであれば
悪い選択ではない気がするわね。
そう!
楽しもうと思えば
たくさん楽しめる時期だもの。
さすがにおなすやさつまいもの豊かな実りを
ファッションとして楽しむのはむずかしい。
だけど自分の好きなものを伝え合って
うれしくなることだってあるの。
たとえばもしも
マリーのお気に入りの王冠に
前衛的なデザインのおいしそうな飾りがついたら
きらめくうつくしいおなすのよく太った形に
いいね、好きなんだね、って
話が弾むかもしれないし
もしも自分も同じ
おいしいものを求めているよ、
好きだよ!
なんて
家族と話ができてそう言ってくれるきっかけになるとしたら
想像するのも楽しいでしょう!
もっともっと積極的に、そして
挑戦的に秋らしさを
マリーの毎日に取り入れていきたいわね。
そんなことをみんなと話していたら
お風呂に入るときに見つけたの、
なんと春風お姉ちゃまが
かわいいいちごのブラとパンツをしているのを。
それはおそらくいちごの旬、
やがて来る冬と
いつか迎える春を遠くに見つめ
すでに春風お姉ちゃまは夢のように
すてきな季節の訪れを待っているのね。
目には見えない心の内を
女の子らしく隠して楽しむ
わがやのおしゃれ名人ね。
私もまだまだ学ぶことがいっぱいあるようだわ。
フェルゼンもお姉ちゃまの密やかな思いに気づいてあげてね。
なにしろ今日の晩御飯は
和風のおだしが秋の食欲を刺激するおでん!
カレンダーの先を望んで
暖かくしてほしいと願う優しい気持ち、
マリーは小さい秋に見つけてしまったんだから。

あさひ

『ちゅうちゅうふうふう』
ふっふっ
ふうおうー!
えいっ!
おにーちゃん♪
むにゅ、
おにーちゃん♪
おんま、
おにーちゃん♪
ちゅっちゅっ
ちゅー!
おにいちゃん♪
ふうふう
にっこり
おにーちゃん♪
あーたん
もんも
おんばっば!
あーんっ
おにいちゃん♪
ねっ♪
(いもうとれき
 うまれたばっかり
 あさひ!
 かれんちゃんのものまねをするぞ!
 あさひも、
 おもしろくて
 かわいいかな?
 はじめるね。
 あさひの!
 おにいちゃん!
 だいすきな!
 おにいちゃん!
 やさしい!
 おにいちゃん!
 にこにこほっぺ
 たべたくなる!
 おにいちゃん!
 おうちで
 おおはやりの
 ふうふうしてのんで
 ぷはーってするやつを
 あさひのまえでたべる
 おにいちゃん!
 おかわりもするおにいちゃん!
 あさひにもちょうだい!
 おいしいときもいっしょがいいな。
 なかよしきょうだいだ!
 おねだりあさひを
 きいてね、おにいちゃん。)

立夏

『フューチャースタイル』
うーむ、
まったりとして
しつこくなく
舌に残るかつおだしの
ほのかな味わい。
このお味噌汁はまさしく
春風おねーちゃんの味!
リッカのすきなやつ!
し、信じられない。
これを霙おねーちゃんがお手伝いして
作り上げたなんて!?
まあ、ほとんど春風おねーちゃんが手を貸したそうだけど
食べられるものができたばかりか
それだけじゃなくて
おいしいの!
おだしができあがるのも
おみそを溶かすのも横でアドバイスをするだけで
ちょっとじゃがいもは不揃いだけど
霙おねーちゃんは作り上げた。
はっ、まさか
こちらも少し不揃いのしめじのように見えるものが
その正体こそ実は人におそろしい夢を見せるわるいキノコ、
ということはないか。
てへ。
少し早いハロウィンのいたずら?
それとも実は霙おねーちゃんの体をしているものはすでに!
みたいなこともなさそうで
無限の宇宙の前に
人の可能性も無限大なのだと
わかるようなわからないようなことを言ういつもの霙おねーちゃん。
うーん、リッカおどろいた。
練習すれば
人はなんでも、
そこそこくらいまでならできるものだって
聞いていたけど
不可能を可能にするって
こういうことなんだね。
すごいよ!
やったね、霙おねーちゃん1
今日は記念日だ!
霙おねーちゃんの革命の日
霙革命が起きたんだよ!
って言ってたらマリーちゃんが
そういうドラマティックなセリフは
マリーが言うことにしたいの、
と、うるさいから
二人で言うことにしようね。
霙おねーちゃん!
霙革命が起きたよ!
かっこいい!
ヒューヒュー。
だーいすき!
え?
からかっていないで
リッカもやればできる?
あ、リッカ
用事を思い出したような、
おいしくて食べ過ぎたら
眠くなってきたような
むにゃむにゃ
ぐうー。
ちらっ。
も、もう食べられないーなんて。
ちらっ。
またおいしいお味噌汁つくってね。
ぐーぐー。

『追憶』
懐かしいあの
かつての夏の日。
家族がそろうテーブルの
私の席の周りには
妹たちが流れる汗も気にせずに集まり
私の手元を追いかけるように
目を輝かせていたものだ。
人数が多い姉妹の上から二番目、
かき氷のハンドルを回すなら
子供の時から任され続けて慣れたものだから
できなくはない。
やればできる、という言葉を実感する場面と言えるだろう。
言葉巧みに料理の一環と認めてもらい
キッチンで無謀な仕事を任されるのを避けることもできた。
楽しい食卓を作る際に
リスクはそんなに多く必要ではないとする方向の考え方だな。
やらされるとしても
そうめんをゆでるなど複雑で繊細な技を要する場面が比較的少ない仕事に
積極的に立候補をしていくとか
経験や才能の差を補うために道具で補う、
たまご焼き用のフライパンを重々しく掲げ
形もまあ崩れず味と見た目がある程度は約束された出来上がりを期待するのもいい。
そう、私は料理の腕は
経験豊富な名人級とはいかない、
というか
一般人並みと自負できるのは味見の技術に限られるとも言うな。
これまでのところ不便はなかった。
できることは他にもあるし
いざとなれば最近のカップラーメンの進歩もなかなかのものだ。
でもハロウィンとなれば
インスタントに頼り切れるメニューではなく
学生のお小遣いで賄えるほど元気な子供たちの食欲は礼儀正しい範囲にとどまるのか
誰にも確かなことはわからない。
だから今日は私も慣れないエプロンを付けっぱなしというわけだ。
おまけに街にはついに
クリスマスケーキの受付の知らせがちらほらと見受けられるようになり
まもなく訪れる冬を意識しているのか
春風の指導はとても力が入っているように思う。
果たして苦手意識を克服し
困難な任務を成功させるのと
無理なものは無理と知らしめるか
運命の天秤がどちらに傾くのかを知るのは
分けたようで分かれていないボウルの中の黄身と白身だけなのだろうな。