吹雪

『聞こえる』
雨の日が続いています。
先日までの気候のいい時期のつもりで
薄着でいる姉妹を見つけると
体温が下がることによるくしゃみが出る前に
一枚羽織るものを持って
気が付く誰かが駆けていくようになりました。
窓の外からはぽつぽつ雨だれの音、
あるいは曇りがちな景色を吹き抜けていく冷たい風。
かえるの合唱が聞こえるのは
家の中の小さな妹たちの声だけで
最近はかえるはもちろんのこと
にぎやかだった鈴虫たちや
枝を揺らす大きな羽ばたきも
ときどき子供たちの騒ぎに驚いて逃げていった猫の気配もなく
野生の生き物が器用にもどこに隠れたのか
私の観察力では認識できない範囲にあるような気がします。
子供の興味を引く大変すばしっこいアリやクモもこのごろは見かけず
家族がこもる家はすでに人間によって征服されたような錯覚がある。
本棚でほこりをかぶった本をひと吹きしてから開いた後に現れ
文字を横断していく紙魚の小さな姿もこのところは減ったようです。
どうしたことでしょう?
押入れに隠れていたであろう虫たちだってこのところの騒ぎで
あたりに逃げ場所を探していてもおかしくないのに
いったいどれだけ遠くまで離れていったのか、
確かに予想のつかない行動をとる我が家の人間たちを考えれば
人目の届かない物陰を探すのは適切な行動だと思いますが
ここ数日のどたばたは
私の家族の性質をよく知らない生き物たちにとっては脅威となったのでしょうか。
それともこの時期に誰ともなく言い出す話のように
この世ならぬ世界から迷い込んだものたちが
影響を与えている?
蛍姉の衣装もだんだんと出来上がってきて
廊下を歩く見慣れないものが
本当によく知っている家族なのか
同じようにころころと駆け回る無邪気な妖怪であるのか
判断ができない状態となっています。
寒くなってきた時期に怪談の効果を期待するのは適当ではないのだけど。
キミも体温の維持には気を付けてください。
何かがやってきたとしても遅いということにはならないように。