綿雪

『かすかな声』
日が傾いて窓を閉じ
暗い夜が来てカーテンを引くと
冬はもうそれっきり
外からは音も届かず
しーんと静まったまま。
みんながいてくれるときはいいのに
なんとなく一人になったとき
それとも言葉がふと消えて
忘れたように何も言えなかったとき
それはお菓子をぱくりと口に含んだ瞬間でもあったりするけれど
ぱったり途切れた音の隙間がやってくるでしょう?
気がついたらこんなに冬も深まり
明日はまたまたまた
雪の予報なの!
あんまり降っても冷たい雪ばかり。
困ってしまいますね。
お外から虫の声が聞こえる季節も
すっかり遠く忘れられた記憶になろうとしています。
これからまだまだ長い冬を過ごして
雪が解けてうすももの花が開くまで
静かなままでは
虫取りが好きだった小さい子達も寂しいかもしれないですね……
お外に行っても見つけるのがちょこんと積もった雪の山だけでは
追いかけることも、持って帰ることもできないです。
持ち帰る前に捕まえることもあんまりないけれど
試してみるのもできないようでは
思いっきり探して回ることだって難しいみたいだから。
退屈なのかしら?
やっぱり静かなユキのところにやって来ては
絵を描いてみたり
図鑑を眺めたり
折り紙でおったりする動物たち。
かえるもとんぼもたがめもちょうちょうも今は遠く絵の中だけのおはなしになります。
動いているところは
ずっと先までおあずけなの。
ユキでは代わりになりませんよね?
とんだりはねたりは
春や夏の生き物たちみたいに、あんなに上手にできないから。
お部屋の中でできることといったら
おうたを歌ってみたり
おもちゃのたいこをたたいて
ついでに余計な手振りもまじえておどったりするくらいです。
あんまりきれいな音でも踊りでもないですね。
冷たい冬の風がやまない
凍りついたように真っ白な夜の世界に
もしも、もう少しおうたが上手なユキがいたら
みんなは幸せでいてくれるのでしょうか?
たまに静けさを破るひゅうひゅう切ない北風。
対抗して歌い出すのはかぼそく喉から声をしぼる
暗くて静かでも
もう誰も寂しくありませんようにと
たったひとつの願いを込めた
冬の冷たさに消えていく言葉。
暖かな陽がさすまで
何もどこにも届かずに
ただ待つだけの日を重ねているようです。